元魔王様とSランク冒険者 5
ミラは引き出しに仕舞ってあった一枚の紙を取り出して見せる。
「どれどれ、あらワイバーンの卵の納品依頼じゃない。」
依頼書を見たラブリートの機嫌が少しだけ直る。
それなりに満足出来そうな依頼みたいだ。
「卵の納品?卵泥棒をしてこいと言う事か?」
「言い方は悪いですけどそう言う事ですね。」
ワイバーンと言えば空を飛ぶ魔物の中でも非常に厄介な部類の魔物だ。
ダナンの従魔であるレッサーワイバーンのスカイの上位種であり、レッサーワイバーンと違って火も吐ける。
何と言っても基本的な性能が違い、とにかく強くて速いのだ。
「いつもの竜騎士用の卵と言う事よね?」
ラブリートは前に受けた事があるのか依頼について知っている様だ。
「そうです。まだ依頼として貼り出す前なので、依頼のランクが記載されていませんから、お二人への指名依頼と言う事にしておきます。」
「成る程、それなら我のランクも関係無いか。」
指名依頼はランクに関係無く、依頼を達成出来そうな者に直接頼むシステムなので、やろうと思えば高ランクの依頼を登録したばかりの者に指名依頼として出す事も可能だ。
と言っても登録したばかりの者はCランクになっていないので強制力は働かないし、そもそもギルド側がそんな事はしない。
「まだ納品数も決めていなかったので、多ければその分報酬も上乗せしますね。」
依頼書の手続きをしながらミラが言ってくる。
取ってきてくれるなら多ければ多い程ギルドとしては嬉しい。
「ジルちゃん、この依頼でいいかしら?」
「依頼は問題無いが呼び方が気になるな。」
ジルちゃんなんて呼ばれ方をしたのは初めてであり、違和感が半端では無い。
「私は基本的にちゃん付けだから気にしないでいいわよ。可愛い呼び方の方がテンション上がるじゃない?」
「我には無い感覚だな。」
少し気になるが呼び方なんて特に拘りは無いのでどうでもいい事だ。
「はい、手続き完了です。場所はブロム山脈の山頂付近です、それではお願いしますね。」
ミラに見送られながら二人はギルドを後にする。
「依頼場所はブロム山脈らしいが、移動はどうするんだ?馬車とは言わないだろうな?」
前にコカトリスを狩りにいった時は馬車で数日も使って行きたくなかったので魔法での爆速移動を使った。
今回はラブリートによる突発的な依頼だが、今日もそんな長期の依頼をするつもりは無かったので同じく馬車での移動なんてしたくはない。
「馬車は時間が掛かり過ぎるからパスね。魔装して走っていく予定だけど、魔装出来無いなら抱っこしてあげるわよ?」
ラブリートはそう言って丸太の様に丈夫な腕を広げる。
正直筋骨隆々の女装オカマに抱き抱えられながら移動するのも遠慮したいところだ。
「魔装なら我も使える。」
「あら残念ね。じゃあ早速出発しましょ。走れば数時間もあれば着くと思うわ。」
馬車で数日の距離を魔装しているとは言え走って数時間とは、さすがは化け物と呼ばれるランク帯の者だ。
と言ってもジルもその領域にDランクながら突っ込んでいるので、それが出来無いとは思っていない。
「ふむ、数時間か。」
ジルとしては今回の依頼にあまり時間を掛けたくない。
シュミットにいつ呼ばれるかも分からないのでなるべく今日中には終わらせたいと考えていた。
そもそもラブリートに誘われなければもう帰っていただろう。
「魔装で走るのは無しだ、魔法を使っていくとしよう。適性については知られてしまっているしな。」
ジルは魔装して走るよりも時間短縮になる魔法での移動をする事にした。
どうせラブリートには魔法適性が火魔法以外もある事は知られてしまっているので、便利な魔法は吹っ切れて堂々と使う事にする。
「私には披露してくれるのね。」
「他の者に言いふらすなよ?」
「分かってるわ。」
頷いたのを確認した後二人は街の外に出る。
ラブリートには知られてしまったが、他の者の目には触れたくないので人気の無い場所まで移動する。
結界魔法で二人の身体を包み重力魔法で浮かせる。
「結界魔法に重力魔法、魔法適性が高くて羨ましいわね。それに魔力量も相当多いみたいね。」
簡単に魔法を次々と扱っていくジルを見て羨む様にラブリートが言う。
光魔法しか適性を持っていないので、ジルの様に他にも魔法の適性が欲しいのだろう。
「ではいくぞ。」
風魔法を進行方向とは逆に向けて放つ。
すると空中に浮いていた結界が風によって爆速で空中移動を開始する。
「魔法が複数使えるとこんな事も出来るのね。遠出の時は頼もうかしら。」
ジル一人いればどんなに遠い距離でも尋常では無い時短が可能である。
それはSランク冒険者であるラブリートからしても欲しいと思う力であった。
「我を馬車代わりに利用しようとするな。」
会話しながら移動しているとあっという間にブロム山脈山頂付近にまで辿り着いた。
前回来た時はそれ程山を登った訳では無いのだが、今回はかなり高い位置までやってきている。
ラブリートの指示で山頂よりも少し低い位置に降りる。
いきなり住処に突撃すればワイバーンを驚かせてしまい暴れる危険性があるらしい。
「あっという間に到着ね。」
さすがのラブリートでもこんなに早い移動方法は経験した事が無かったのか終始驚いていた。
「もう少し上の方にいるんだな?」
「そうよ、ここを少し登っていけばワイバーンの住処が見えてくるわ。」
そう言ってラブリートは山上を指差して教えてくれた。
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