元魔王様とSランク冒険者 4

 万能鑑定で見るとラブリートの性別が男?になっているが今は特に気にしない。

それよりも注目すべきは魔法やスキルだ。


 魔法は光魔法だけを所持しており、スキルは先程の適性の魔眼に加えて、魔力回復促進、闘気変換の三つを所持していた。

Sランクの冒険者と言うから派手なスキルや魔法を沢山所持しているのかと思ったがそうでもなかった。


 魔力回復促進は消費した魔力を回復する速度が常人よりも早くなると言うものだ。

便利ではあるが派手さには欠けるスキルである。


 そして闘気変換は魔力を消費して闘気に変えるスキルだ。

闘気とは魔力に似て非なる力の事である。

魔力の様に魔法やスキルを使用する為に使ったり、遠距離攻撃として放出したりは出来ず、魔装の様に身体に纏わせる事しか出来無い。


 その代わりに魔装よりも性能が高く、近接攻撃力、防御力、身体速度等を飛躍的に高められるのだ。

二つ名も闘気変換のスキルからきているのだろう。


「お待たせ、依頼を選んできたわよ。」


 依頼書を数枚握ったラブリートが戻ってくる。


「ジルさんと受けられるんですよね?」


「そうよ、久々の依頼だから腕がなるわね。」


 筋肉がこれでもかと付いた丸太の様に太い腕を軽く回しながら言う。

殴られたら数メートルは軽く吹き飛ぶ自信がある。


「久々っていつぶりなんだ?」


「うーん、1ヶ月ぶりくらいかしら?」


「なに?それで冒険者カードは取り上げられていないのか?」


 冒険者には定期的な依頼が義務付けられており、余程の事情が無ければやらないと冒険者カードは剥奪される。

その為にジルも数日に一度は必ずギルドを訪れているのだ。


「ジルさん、Sランクの冒険者にはある程度の自由が認められているんですよ。国の最高戦力の様な方々ですからね。」


「貴族並みの権力だって持ってるのよ。」


 ミラとラブリートが理由を教えてくれる。

どうやら定期的な依頼はSランク特権として免除されているらしい。

最高戦力であるSランクを街や国に留めておく為の御機嫌取りみたいなものだろう。


「それは便利だな。」


「ジルさんも目指して頂いても一向に構いませんよ?」


 むしろ目指してくれた方がギルドとしては有り難い。

高ランクの冒険者が増えればそれだけ依頼も沢山消化出来る。

更にジルに指名依頼出来るメリットもあってギルドとしては良い事しかない。


「パスだ、面倒事に巻き込まれる確率は今よりも高そうだしな。」


「はぁ~、残念です。」


 ミラもあまり期待はしていなかったがそれでもランクを上げるつもりが無いのは残念だと思ってしまう。


「振られちゃったわねミラちゃん。それじゃ依頼の手続きお願い出来るかしら?」


「はい、お任せ下さい。」


 気持ちを切り替えてラブリートから渡された依頼書に目を通していく。

さすがはSランク、見るからに高ランクな依頼が幾つもある。


「あの、もう一度確認なんですがジルさんと一緒に依頼を受けられるんですよね?」


 ミラは依頼書を見て再度一緒に依頼を受けるのかと尋ねた。


「そうよ?何か問題があったかしら?」


「ラブリートさん、ジルさんのランクをご存知ですか?」


「さっき会ったばかりだから知らないけれど、高ランク冒険者よね?」


 まだジルのランクについてラブリートの前で話してはいないので知らなかった様だ。

ジルの魔法適性が凄く、ギルドの登録を誤魔化していると言う前情報からかなりの高ランク冒険者なのではないかと勝手に思い込んでいたらしい。


「ジルさんはDランクの冒険者です。これらの依頼は受けられませんよ?」


 そう言ってミラが依頼書を指差した。

ラブリートが持ってきたのはAランク相当の依頼書ばかりであった。


「Dランクですって?冗談じゃないのよね?」


 ジルのランクを聞いてラブリートは驚いている。

そんな低ランクだとは思わなかったのだろう。


「本当の事だ。面倒な依頼を受けたくないからCランクに上げるつもりは無い。」


「だからランクを上げる云々の話しをしていたのね。ランク詐欺もいいところだわ。」


 実際Dランクにこんな化け物じみた者がいるのはあり得ない事だ。

大抵の冒険者はランクを上げる事に躊躇は無いので、実力者が低ランク帯に居座る事は無い。

ランク詐欺と思われても仕方が無い。


「ですから依頼の難易度をもう少し落としてもらわなければいけませんね。SランクとDランクですからBランクの依頼なら受けられます。」


 パーティーで依頼を受ける場合所属する冒険者の個人のランクの平均で受けられる依頼のランクが決まる。

ジルとラブリートのランクだとBまでしか受ける事は出来無いので、持ってきたAランクの依頼は受けられない。


「Aでも少し物足りないと思っていたのにBの依頼なんて全く手応え無さそうね。」


 ミラの言葉を聞いて不満気にラブリートが言う。

普通の冒険者ならAランクやBランクの依頼でも充分死の危険があるので油断は出来無い。

それなのに死の危険をまるで感じておらず自信満々とは、さすがは冒険者の最高峰であるSランク冒険者だ。


「ジルさんの実力なら問題無いとは思うんですけどね。」


 ミラとしても持ってこられたAランクの依頼書を見て目の前の最強コンビが受けるなら楽勝だろうとは思っている。

しかし規則なので受けさせる事は出来無い。


「ミラちゃんの力でなんとかならないの?」


「え?うーん…。あっ!そう言えば確かここに。」


 ラブリートの無茶振りにどうしようかとミラが悩んでいると丁度良い依頼に心当たりがあった。

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