元魔王様とSランク冒険者 6
ワイバーンは火口付近に住処を構えているらしく、場所としても危険な依頼である。
「この依頼はよく受けているのか?」
「年一で依頼が出されてるからタイミング次第ね。でも例年ならAランク以上しか受けれないから私に回ってくる事も多いわよ。」
セダンのギルドにもAランクの冒険者は何人かいる。
しかしこの依頼は討伐や採取と言った普段受けている依頼とは違う。
魔物の卵の運搬依頼であり、護衛依頼に近いものだ。
しかも護衛依頼とは違って襲ってくるのは卵を取り返したいワイバーンである。
依頼の中でもトップクラスに難しいのは言うまでも無い。
「今回は貼り出される前だから我も受けられたと言う事か。」
Aランク以上の依頼となればラブリートとの組み合わせでは受けられない依頼であった。
張り出される前だからこそ、指名依頼と言う抜け道を使って受ける事が出来た。
「ワイバーンは単体でもAランクに近いBランクの魔物なのよ。実力の無い冒険者を向かわせても餌を与えるだけだわ。」
Bランクの魔物と言っても地形が住処である火口付近であれば実質Aランクの脅威とさえ言えるレベルだ。
そんな魔物が蔓延る住処に入るのだから大抵の冒険者では文字通り餌となりにいくだけだ。
だが危険な依頼だからこそ卵を持ち帰れれば一財産となる。
なので無謀にも一攫千金を狙って依頼を受けず、場所が分かる故に低ランクの冒険者が挑む事も多い。
高ランクの冒険者でも危険なのに低ランクの冒険者が挑んで無事に済む筈も無く、大半は帰らぬ人となる。
そして運良く持って帰ってくる事もあるが、大怪我や致命傷を負っていれば治療費に消えて苦労が水の泡となるので非常に分の悪い賭けである。
「Bランクか。それなら苦戦はしなそうだな。」
これはワイバーンを弱いと見ての発言では無い。
転生してからの自分を振り返っての判断だ。
弱体化した身体となったジルだが、転生後も戦闘面で不安を感じた事は無い。
確かに魔王時代の全能感は消えたが、その頃と違って手加減やデバフを自分に使ったりしなくて良かったり、様々な戦い方や魔法を試す事が出来て楽しいとさえ感じられている。
それにBランクの魔物よりも遥かに格上のAランクの特殊個体との戦闘も経験している。
Sランクの中では弱い部類だったと思うが、文字通り完勝した様なものなので今更Bランクの魔物に遅れは取らない。
「Aランクの冒険者でも大変な依頼なのよ?でもジルちゃんなら確かに大丈夫そうだわ。」
「Sランクの冒険者もいる事だしな。」
ラブリートもジル同様今回の依頼に不安は一切無い様子だ。
このコンビを害せるとなれば同格の存在が複数いなければ厳しいだろう。
「任せておいてちょうだい。ワイバーンくらい一捻りよ。」
そう言って大きな拳を握って前に突き出す。
それだけで風を切る音が鳴り、少し先にある岩に拳圧でヒビが入った。
これを見ると言葉通り本当に出来るんだろうとしか思えない。
「そう言えば先程竜騎士がどうのと言っていたがあれは何だったんだ?」
「ワイバーンの卵は騎士が自分の従魔として騎竜にする為に育てるのに使うのよ。」
卵は持ち帰ってから孵化され従魔とするらしい。
「卵から育てるのか。成体をテイムするのでは駄目なのか?」
卵から育てるとなれば育成費用が相当掛かる筈だ。
既に育っている個体をテイムした方が安上がりだと思った。
「ワイバーンはBランクの魔物よ?私やジルちゃんくらいの強さがないとそんなチャンスすら無いわね。」
条件は色々あるが基本的にテイムとなれば魔物を従わせる強さが求められる。
ワイバーンに主人として認められる強さを個人で示すのは難しいだろう。
「ふむ、騎士には難しいか。」
「それに卵から育てれば騎士との信頼関係も深く築けるわ。悪い事ばかりじゃ無いのよ。」
騎士が育ての親として幼体の頃からワイバーンを育てれば、それだけワイバーンも懐いてくれる。
従魔との絆が深ければ深い程に戦いの連携も上がる。
ワイバーン側からすれば子供を奪われる行為なので可哀想だと感じる者もいるが、野生で繁殖して増える程に人が受ける被害も大きくなるので、適度な間引きは必要になってくる。
この依頼もワイバーンが増え過ぎない様に間引く意味もあるのだ。
「成る程な。時間は掛かるが強い戦力になると言う事か。」
飼い慣らされたワイバーンとなれば野生よりも脅威度が増すかもしれない。
騎乗者にもよるが人の指示に従ってワイバーンが動くとなれば、火を吐く固定砲台が空中を移動している様なものだ。
相手からすればたまったものでは無い。
「竜騎士はAランク冒険者クラスの実力があるから強いわよ。国の騎士団や貴族の師団に取り入れたいのも納得よね。」
分かりやすく冒険者で例えてくれた。
人外の化け物であるSランクよりは劣るとしてもAランクと同格となると凄まじい戦力となる。
それは時間と金を掛けて育てる意味もあると言うものだ。
「貴族も求めるのか。」
「それはそうよ。一騎当千の戦力になるんですもの。それに空も飛べるから移動に使うのも便利らしいわよ。」
ワイバーンの卵の価値はそれだけ高い。
だからこそ需要に対して供給が全く追い付いていないのだ。
沢山の冒険者が一攫千金を夢見て命懸けで卵泥棒に挑むのも納得である。
「そろそろ住処に着くわね。」
「どう言う感じで卵を取るんだ?」
経験者であるラブリートに意見を聞いてみる。
「とっても簡単よ。卵が見えたら近付いて入手して、奪い返そうと向かってくるワイバーンがいたら来なくなるまで殴り続けるだけね。」
「…。」
思わず言葉を失ってしまうくらいにラブリートの作戦は脳筋ゴリ押し戦法であった。
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