元魔王様と領主の依頼 5

 目の前には立派な扉があり、この奥にトゥーリがいるそうだ。


「トゥーリ様、客人をお連れしました。」


 門番が扉をノックして中に向かって声を掛ける。


「客?今日は他に来客の予定は無かった筈だけど。」


 中からトゥーリの声が聞こえてくる。

予定に無い来客に困惑している様子だ。


「トゥーリ様、わいなら後回しでも大丈夫やで?」


「そうかい?悪いね、じゃあ通しても構わないよ。」


 誰かと会話していた様で相手の許可が降りたので部屋に入る許可をもらえる。

門番に促されて部屋の中に入る。


「あれ?ジル君じゃないか?」


「いきなり悪かったな。ん?」


 トゥーリに謝罪しつつ隣りに視線を向けると先程まで話していたであろう人物が目に入るのだが、なんとジルも知っている人物だった。


「シュミットか?」


「ジルさんやないか!久しぶりやな!」


 その人物とは転生後に魔の森で初めて出会った商人のシュミットであった。


「知り合いだったんだね。」


「ああ、前に少しな。」


「ジルさんは命の恩人なんや。」


 助けてもらった当時の事を思い出しながらシュミットがしみじみと呟く。

あの時ジルが助けに入らなければシュミットは命を落としていたかもしれないので、今でも変わらず恩義を感じている。


「そうだったんだ。優秀な商人を失わずにすんで私もよかったよ。ところで何の用だい?」


 面会の予約は入れていなかったがトゥーリはしっかり対応してくれるらしい。

セダンに来てからなんだかんだと関わってきたおかげだろう。


「ちょっと奴隷解放の手続きを頼みたくてな。」


「奴隷?」


 トゥーリはそれを聞いてジルの後ろに控えていたナキナに視線を向ける。

奴隷の首輪を付けているのはこの場でナキナだけなので誰の事かは一目瞭然だ。


「奴隷を買ったんだね。それも凄い美女だ。そう言うのはあまり興味が無いのかと思ってたよ。」


 トゥーリは少し驚きながらもニヤニヤと笑みを向けてくる。

10歳とは思えないおっさん臭のある行動である。


「勘違いしている様だが知り合いだったから引き取っただけだぞ。」


 オークションで大枚叩いて落札したのは知り合いだったからだ。

一応バイセルの街での経緯も説明しておく。


「知り合いがオークションにね。それは大変だったね鬼人族の方。」


 説明を聞くとトゥーリも同情する様な視線を向ける。

奴隷落ちしたのは酔って油断したと言う何とも言えない理由ではあるがナキナに比は無いので、同情してくれる人は多いだろう。


「ナキナと申す。領主様に是非協力してほしいのじゃ。」


 ナキナは丁寧に頭を下げる。

相手は人族の中では権力者である貴族にして領主だ。

立場を弁えて礼節を持ってお願いしている。


「うん、ジル君が連れてきた人なら信用出来るし勿論大丈夫だよ。ジル君にはお世話になってるからね。」


 トゥーリは二つ返事で奴隷解放の協力を約束してくれた。

やはり知り合いの領主に頼んで良かったとジルは思った。


「シュミット、悪いけど少し待っていてもらえるかな?」


「わいの事は気にせんでええでトゥーリ様。」


 何か用事があるみたいだが二人は奴隷解放を先に進めてくれる様だ。


「ありがとう。じゃあちょっと失礼するよ。」


 トゥーリはそう言い残して奴隷解放の手続きをする為に部屋を出る。

これでナキナは奴隷から解放されて普通の鬼人族としてセダンでは暮らす事が出来そうだ。

本人もそれが分かって嬉しそうにしている。


「悪いなシュミット、邪魔をした様で。」


 二人が構わないと言った雰囲気だが先客として来ていたシュミットの用事に割り込む形となってしまったので謝罪しておく。


「ジルさんが気にする様な事あらへんで。それよりもやっと会えたから伝えられるわ。」


 何かジルに対して用事でもあったのか、シュミットは良いタイミングだとばかりの反応だ。

魔の森の一件以来会う事が無かったので用事があっても伝えるタイミングが無かったのだろう。


「ん?何か伝えたい事でもあったのか?」


「前にセダンの街の商会とトラブった時があったやろ?」


 トラブルと言えばセダン一の商会であるビーク商会との事だろう。

商会長のモンドが面倒事を運んできてくれたので領主であるトゥーリの依頼で失脚の手伝いをしたのだ。


「あの時助けられんくてすまん。ずっと謝りたかったんや。」


 シュミットはそう言って深々と頭を下げてくる。

どうやらジルが商会関係で困っている時に助けられなかった事をずっと気にしていたらしい。


「随分と前の話題を出してくるな。」


 人族に転生してから色々と忙しくも充実した日々を送っていたので、とっくに終わった件であり頭にも無かった。


「わいはずっと気になってたんや。と言っても聞いたのは終わった後やったんやけどな。」


 シュミットが悔しそうにそう呟いた。

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