元魔王様と領主の依頼 4
昼食を食べ終えたジル達は早速ナキナの奴隷解放の為に領主の屋敷に向かった。
「今更なのじゃが、突然押し掛けて会ってくれるものかのう?」
鬼人族のナキナは人族の事情に疎い。
それでも貴族がどう言った存在なのかは理解している。
そして当然良い印象は持っていない。
「知らない仲じゃないんだし問題無いだろう。」
「…普通は問題あるのです。」
シキは誰にも聞こえないくらい小声で呟く。
貴族と会うとなれば事前に連絡を入れておくのが当たり前である。
会おうと思えば誰でも会える訳では無い。
「お前達、領主様に何か用か?」
領主の屋敷に到着すると門番に呼び止められる。
「少し頼み事があってな。」
「面会の予約は?」
門番が懐から取り出した用紙を確認しながら尋ねてくる。
おそらく面会予約している者のリストだろう。
「特にしていないな。」
「だったら通す事は出来無い。面会予約をして出直してくるんだな。」
槍で門を塞ぎながら門番が言う。
門番として正規の手続きを踏んでいない者を通す訳にはいかないので当然の対応である。
「トゥーリとは知り合いだ。ジルが来たと言えば分かると思うぞ。」
「貴様!領主様を呼び捨てにするとは不敬だぞ!」
門番は怒声を上げながら槍を向けてくる。
貴族であり領主であるトゥーリの事を平民が呼び捨てにしていれば、不敬だと思われるのも当然だ。
門番は間違った事はしていない。
「ふむ、争いたい訳では無いのだがな。」
屋敷に入れてもらうにはどうすればいいか、目の前の怒っている門番を見ながら考える。
「ジル様、やっぱり貴族との面会には色々準備が必要なのです。」
「ジル殿、一先ず出直そう。無駄な争いをせずとも、妾なら後日でも構わぬ。」
シキとナキナは一旦戻ろうと言ってきている。
やはり事前に予約無しでは取り次いでもらえなくても仕方無い。
ナキナは奴隷から解放するとジルに約束してもらっているので、争ってまで直ぐに解放してもらわなくても大丈夫だと思っていた。
「何を騒いでいる?」
二人に言われたので一度引き返すかとジルが考えていると、屋敷の方から二人目の門番がやってきた。
何かで席を外していた様だ。
「丁度いい、こいつらが領主様に会わせろだの領主様を呼び捨てにするだの大変なんだ。追っ払うのを手伝ってくれ。」
門番が油断無く槍を構えながら面倒くさそうに言う。
この門番には厄介者として認識されてしまった様だ。
「一体どこのどいつだ…って、冒険者のジルか?」
「ん?我を知っているのか?」
屋敷の方からきた門番はジルの顔を見ながら尋ねてきた。
会った記憶は無いので相手に一方的に知られているみたいである。
セダンに到着してからそれなりに時間が経つので、何かしらで認知されていても不思議は無い。
特に冒険者や食べ物関連の者達でジルを知らない者は殆どいないだろう。
「ああ、噂はよく聞くからな。っておい、ジルと言う冒険者がきたらそのまま通す様にと、トゥーリ様に言われていただろう!」
そう言って最初から対応していた門番が怒られている。
効果はあまり無かった様だが、どうやらトゥーリが日頃から門番に手を回してくれているみたいだ。
「えっ、こいつが本当にあのジルなのか!?噂とは違って随分と華奢だが…。」
聞いていた話しと似付かないとジルを見ながら門番が呟く。
「見掛けによらないってトゥーリ様も言ってただろうが、ったくよ~。」
困った様に頭を掻いている。
トゥーリがそこまで気を使う様な相手に槍を突き付けて追い返そうとした事を思い出し、門番は顔を青ざめさせている。
「も、申し訳無い!」
「俺からも謝らせてくれ。」
門番二人は深々とジルに頭を下げる。
ジルとしても事前に面会の予約を入れていなかったので特に責めるつもりは無い。
門番の対応としては間違った事はしていないのだ。
「別に構わない、入れてくれるんだろ?」
「ああ、勿論だ。俺が案内しよう。」
門番の一人が屋敷の中に招き入れてくれる。
その後ろに従ってジル達は屋敷を進む。
「ジル殿の噂ってなんなのじゃ?」
先程の門番の言葉を思い出してナキナがシキに尋ねている。
セダンの街で暮らしていた訳では無いのでジルに関する噂を聞いた事は無い。
「たっくさんあるのです。ギルドの試験官達を血の海に沈めたとか、ゴブリンの集落を全て業火で焼き滅ぼしたとか、悪徳商会長の身体を魔力を使って消し飛ばしたとか色々なのです。」
今までジルがしてきた事をシキが教えている。
だがその噂は随分と尾ひれが付いており、内容が悪い方に改変されている。
「む、むごいのじゃ。」
内容を聞いたナキナはジルを見て引いている。
人の所業では無いと感じているのだろう。
「おい、シキ…。」
「って言うのは冗談なのです!ちゃんとした真実をシキが教えてあげるのです!」
ジルが何か言う前にシキが噂の間違った部分を訂正しながら本当の事を語っていく。
ここでジルを揶揄い過ぎれば自分に仕返しがくる事は分かりきっているので冗談は程々にしておいた。
ご飯抜きなんて言われたらシキは泣いてしまうだろう。
「ジル殿が悪辣非道で無くてよかったのじゃ。」
シキの説明を聞き終えたナキナがホッとしながら言う。
少なからず最初の噂を信じていた様である。
「お前達の事を助けた我がそんな事をすると思われていたとは心外だな。」
「い、いや、勿論ジル殿の事は信じておるぞ。」
慌てた様に弁明しているので怪しいものだ。
規格外の実力を持っているのでそんな事をしていても不思議では無いと思ったのかもしれない。
「すまないが話しは一旦終えてくれ。トゥーリ様の下に付いた。」
門番に言われたのでジル達は一旦軽口を叩くのをやめた。
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