元魔王様と領主の依頼 6
その事を知っていたら命の恩人に恩返しが出来たのにと悔しそうである。
「知らなかったのか?」
ビーク商会はセダン一の商会と言う事もあり、あの時は街全体の系列店ぐるみで嫌がらせを受けた。
あれだけの規模だったので同じ商会関係者ならば知らない筈は無いだろう。
「わいは自分の商会のトップやねんけど、行商も自分でするんや。だからその時は街におらんくて、帰ってきてから知ったんや。」
シュミットはビーク商会に属している訳では無く、あの一件には関わっていない。
それに加えてビーク商会と敵対している時に肝心のシュミット自身が街にいなかったらしい。
「それなら仕方が無いだろう。」
シュミットに頼るのも考えにはあった。
それはギルドでの話し合いが思い通りにいかなかった場合である。
ギルドの様な巨大組織では無く一介の商人であれば、ビーク商会と敵対した場合、今後に響くのではないかと思って頼るのは最後と決めていたのだ。
「いや、わいが商会の連中に何かあったら手助けしてほしいと言っておけばよかったんや。命の恩人のピンチを助けられんかったんわ一生の不覚や。」
その顔からは悔しさがよく伝わってくるので本心なのだろう。
街一番の商会を敵に回してでもジルに助けられた恩を返したいと思ってくれている様だ。
「お前には初めて街を訪れた時に世話になっている。だから気にするな。」
魔の森で助けたり採取した物の運搬をした礼としてそれなりの金額を貰った。
人族に転生したばかりのジルは所持金が無いどころか使い方も分からない状況だったので、その金は最初の生活に随分と役立った。
「ほんま懐のデカい男やで。次何かあったら必ずわいが力になるからな。」
「そんな事態は訪れてほしくは無いけどな。」
任せとけとばかりに胸を張っているシュミットを見て、面倒事は勘弁してくれと切に願うジルだった。
シュミットと話しているとトゥーリが戻ってきた。
「何か分からないけど凄い熱く語ってたね。」
商会絡みの件でシュミットは思うところがあったみたいで熱が入っており外にまで聞こえていた様である。
「早かったな。」
「奴隷解放って大袈裟に聞こえるかもだけど、言ってしまえば領主が奴隷解放に同意すると言う旨の書類を奴隷商人用に用意するだけなんだ。解放作業宜しくって頼む為にね。」
領主と奴隷商人双方の同意があって解放が可能となるが、手続きはそれ程難しい訳では無さそうだ。
「その書類は持っていない様だが?」
トゥーリは一人の執事を引き連れてきているがどちらも書類らしき物は持っていない。
「この後奴隷商館にいくのも面倒でしょう?ここで解放していくといいよ。私の見えるとこでやれば書類を準備する手間も省けるからね。」
手っ取り早く済ませようとトゥーリが言ってくる。
どうやら領主の屋敷に奴隷解放する環境が整っているらしい。
「領主がそんな適当でいいのか?」
「領主が自ら立ち会うんだよ?書類なんかよりよっぽど証明になるよ。」
そう言われればそうかもしれないと思えてくる。
奴隷解放なんてそれぞれの奴隷になった経緯を考えるとポンポンと簡単に行う事は出来無い。
解放しても問題無い奴隷もいれば、犯罪者や殺人者として奴隷に落とされた危険な者達もいる。
後者の奴隷解放は後の行動によっては責任問題にもなるので領主は自分の為にも気を付けなければいけない事なのだ。
「成る程な。それで奴隷解放はその執事がしてくれるのか?」
突然連れてきたのだから何かしら関係しているのだろう。
「ご名答だよ。私も一々奴隷商館に通わなくても済む様に、奴隷契約のスキルを使える者を近くに置いているんだ。」
トゥーリは領主だけで無く今は商会長も兼任している。
忙しい身なのでなるべく手間は省きたいだろう。
「それはこちらとしても助かるな。ナキナ、早速やってもらうといい。」
「うむ、ジル殿本当に感謝するのじゃ。」
ナキナは改めて礼を言いつつ頭を下げる。
拾われたのがジルでなければ一生奴隷生活の可能性もあったので運が良かった。
「では始めさせてもらいます。」
執事はナキナの首に付けられている奴隷の首輪に手を添えて魔力を流し込んでいく。
その魔力に反応して首輪が淡く明滅する。
「この者を縛る鎖から解放する!」
執事が一言そう呟くとカチャリと言う音と共に首輪が外れ、床にゴトンと言う音を鳴らして落ちた。
首輪が外れた事によりナキナの首が露わになり白い肌が見える。
「はい、これで君は自由の身だよ。」
トゥーリに言われてナキナは自分の首元に触れる。
すると集落にいた時と変わらない何も付けられてはいない自分の首に久々に触れられる。
「感謝するのじゃ。」
本当に奴隷から解放された事を実感して笑顔でナキナはそう言った。
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