元魔王様と異世界の種族 4
同じ初級魔法同士がぶつかり合い相殺される。
「ナキナ、お前は後ろで二人を守っていろ。」
「ぐぬう、本来ならば遅れを取らぬのに。」
悔しそうにしながらもジルの言葉に従ってナキナは後ろに下がった。
自分の身体が普段よりも弱っているのは自覚している。
残ってもジルの足手纏いになると判断して大人しく従った。
「天使の私に人族が逆らうつもりなのだよ?」
天使はジルの事を見て呆れた様に言う。
一応人族と天使族は協力関係を結んでいる仲間なのだ。
個としての力も天使の方が圧倒的に高いので明らかに見下している。
「人族とて一枚岩では無いと言う事だ。」
「庇護下の分際で生意気なのだよ。」
そう言って今度は無数の風の槍を生み出して放ってくる。
中級風魔法のウインドランスと言う魔法である。
「ほお、天使族とは中々魔法に秀でているのだな。」
魔王時代にはいなかった種族なので戦う姿も初めて見る。
印象としては魔法に関しては優れた種族であるエルフよりも魔力が多く、魔法適性も高いと思われる。
中級魔法とは言え、これだけの数を同時に扱えるのは魔力が多いだけでは無く、適正の高さも関係してくる。
「今更気付いたとて命乞いは受け付け無いのだよ。」
凶悪な威力を持つ無数の風の槍がジルに殺到する。
一つ一つが先程の風の刃とは比べ物にならない威力を秘めているのが分かる。
「ファイアウォール!」
中級火魔法で対抗しようと燃え盛る巨大な火の壁を生み出す。
地面から轟々と燃え上がりながら現れた火の壁は、迫り来る風の槍を全て防いでくれた。
「人族にしては魔法の扱いが中々上手い様なのだよ。」
魔法に長けている自分の攻撃をこう何度も人族に防がれるとは思っていなかった。
天使は驚きと共に不快そうな目を向けてくる。
「どこを見て言っている。」
天使の後ろからジルの声が聞こえる。
火の壁にてジルの姿が見えなくなったのを利用して、爆速で移動し背後に回り込んでいたのだ。
「ガハッ!?」
突然背後から聞こえてきた声に振り向こうとしたが遅かった。
背中に衝撃を受けて天使は吹き飛ばされる。
地面を何度か転がされるがダメージはそれ程大きく無いので直ぐに立ち上がる。
「やってくれたのだよ。今のが私を倒せる最後の機会だったのだよ!」
天使は目を血走らせながら怒りを露わにしている。
協力関係ではあるが自分よりも遥かに劣っていると思っていた人族にコケにされて頭に血が上った様だ。
先程までの余裕の態度も消え失せて、敵と認識したジルに両手を向ける。
その手に膨大な魔力が集約していくので、先程までとは違う本気の攻撃を放とうとしているのだろう。
「サイクロンスラッシュ!」
天使が魔法を発動させるとジルを中心として突然竜巻が発生する。
当然自然現象では無く魔法によって作られた竜巻だ。
「切り刻まれるがいいのだよ!」
このサイクロンスラッシュは超級風魔法と言う中々に高度な魔法なのだが、それを無詠唱で扱えるとは天使族はかなり魔法に優れた種族と思われる。
竜巻に囲まれてジルは逃げ場を失ってしまった。
そしてこの魔法は逃げ場を無くすだけの単純な魔法では無い。
中に閉じ込めた者を無数の風の刃が切り刻む効果を持っている。
魔法に捕らわれた時点で絶望的な状況に落とされる凶悪な魔法なのである。
「ジル殿!?」
「おいおい、やばいんじゃないか?」
ジルと天使の戦いを見守っていたナキナとダナンは目の前の光景に焦っている。
想像を超える現象に誰も動きたくても動けない。
下手に動けば巻き込まれる可能性すらある。
「ジル様ならきっと大丈夫なのです!」
慌てる二人を落ち着かせる様にシキが言う。
先程ジルに天使は警戒した方がいいと言ったが、だからと言ってジルが負けるとは全く思っていなかった。
人族に転生した事によって魔王だった頃よりも遥かにに弱体化したジルをシキは暫く見てきた。
戦闘も沢山見てきたが魔王時代とは比較にならないのは明らかだった。
しかしそれでもジルが強い事には変わりは無い。
転生前と同じで転生後に一度でも敗北している姿を見た事が無い。
負けている姿を想像出来無いのは昔と変わらず、ジルに対しての信頼や安心感は魔王時代から少しも変わっていないのだ。
「こいつを始末したらゆっくりお前達の相手をしてやるのだよ。大人しく待っているのだよ。」
天使は自分の魔法に怯えていると思っているシキ達に向けて告げる。
竜巻に捕らえた時点で自分の勝利を疑っていない。
「勝利宣言には少し早いな。」
「っ!?」
竜巻の中から全く焦った様子も無い平然とした声が聞こえてくる。
その声を聞いて天使の表情から余裕が消えた。
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