元魔王様と異世界の種族 3
逃亡しようとしたリーダーの男の首をナキナは容赦無く斬り落とす。
これは他の盗賊達への見せしめでもある。
逃亡しようとすればこうするぞと行動で示したのだ。
その成果は充分であり、盗賊達は皆その場で固まってしまった。
誰もリーダーの姿を見て逃げようと思う者はいない。
「ジル殿、終わったのじゃ。」
「いや、そうでもないらしい。」
「ん?むっ!」
ナキナは突然風切り音を出しながら迫ってきた何かを小太刀で弾く。
それは魔法によって生み出された風の刃であった。
「盗賊…。」
「ぎゃあああ!?」
ナキナは盗賊による攻撃かと思ったがその直後盗賊達が次々と悲鳴を上げ出した。
理由はナキナが弾いた風の刃と同じ者が自分達を次々と斬り刻んでいるからだ。
「役に立たない連中なのだよ。」
いつの間にか少し離れた場所にフードを被った何者かが立っていた。
声からして男性の様だが、離れているのに声が良く通る。
「無能が仲間だと苦労するのだよ。お前達、これ以上痛い目に遭いたくなければ醜態を見せない事なのだよ。」
男の言葉は盗賊達に向けられたものであり知り合いの様だ。
しかし盗賊達はその男を見て震えているので良好な関係では無さそうである。
「この話し方は…。」
突然現れたフードの男を見て思い出す様にナキナが呟く。
「知り合いか?」
「妾が奴隷になった原因の者と話し方が似ておる。」
「ほう。」
奴隷となった経緯についてはまだ聞いていない。
しかしその原因が目の前に現れたらしい。
「少し衰弱してるのでこの者達で事足りると思ったが当てが外れたのだよ。」
男がそう言いながら歩いて近付いてくる。
ナキナが奴隷になってからどの様に過ごしてきたかは聞いていないので分からないが、以前鬼人族の集落で会った時に比べると少し痩せ細った印象だ。
「お主も貴族の雇われかのう?フードを取って見せてくれんか?」
ナキナは軽い口調で尋ねるが小太刀を油断無く構えている。
自分を奴隷にした原因であれば油断は出来無い。
「眩しいのは嫌いなのだよ。それにこの前も話したと思うのだよ?」
男がフードを少し捲ると隠れていた顔が見えた。
男は整った顔立ちをしているが、それはむしろ作り物の様に整い過ぎていると言ってもいい。
プラチナブロンドのキラキラと光る綺麗な髪色もフードの中に見えるが、まるで宝石の様な輝きである。
正に美と言う言葉が似合う見た目をしている。
「やはりお主じゃったか。」
正体を確かめられたナキナは睨みながら呟く。
奴隷にされた恨みがあるのでそれも当然の事だ。
「確認が出来たのならば満足出来たのだよ?」
そう言って男はフードを元に戻す。
「ジル様、少し注意した方がいいかもしれないのです。」
ジルの肩に乗っていたシキが敵に聞こえない様に小声で呟く。
男がフードを取ったのを見て何かに気付いた様子だ。
「あの男にか?」
「ジル、気付いていないのか?あれは天使だぞ。」
ダナンも警戒する様に言う。
シキも小さく頷いて同様に警戒している。
「天使と言うと前にシキが言っていた者達の事か。」
「そうなのです。」
天使は魔王時代には存在していなかった。
ジルの転生中に人族が呼び出した異世界の種族なのでジルは初めて目にする。
召喚された天使族とは人族と協力関係を結び、魔族殲滅宣言を世界に向けて行なった種族でもある。
今も魔族とは敵対関係にあり諍いが絶えない。
そしてかなり戦闘能力の高い種族だった筈だ。
「何故妾を狙うんじゃ?」
ずっと人族の目に触れない様に森の中の集落で過ごしてきたので天使族と敵対する様な事をした覚えは無い。
自分が付け狙われる理由が分からないのだ。
「とある貴族が君を欲しがったからなのだよ。私も金や人族の権力があると便利だから、少し協力してやったのだよ。」
どうやらこの天使は貴族と繋がりがあるらしい。
特に隠す様子も無いのは、この場で知られてもどうとでもなると思っているからだろう。
戦闘能力に優れた種族故に実力には自信があるのかもしれない。
「それで妾を無理矢理奴隷に貶めたのじゃな。」
「貴族は高く買ってくれるのだよ。今回も連れ帰ればそれなりの額を貰う予定なのだよ。」
ナキナの事情なんて考えず、自分の利益の事しか頭に無い様子だ。
ジルは天使族を見たのは初めてだが、なんとも自己中心的な種族だなと言うのが第一印象である。
「人を物の様に扱いおって。気に食わん奴じゃ。」
ナキナは睨み付けながらいつでも斬り掛かれる様に小太刀を構える。
「本調子だと面倒だけれど衰弱している今ならあの時みたいにやりやすそうなのだよ。」
天使がこちらに手を向けてくる。
そこから高速の風の刃が無数に生み出されて飛んでくる。
これは初級風魔法のウインドカッターなのだが、初級とは思えない速度と威力である。
それだけで無く戦闘能力に優れているだけあって詠唱破棄も使いこなしている。
先程盗賊達を斬り刻んだのもこの魔法であった。
「くっ、数が多いのう。」
ナキナは向かってくる風の刃を見て嫌そうに呟く。
それでも小太刀で迎撃しようとしているので、面倒なだけでやってやれない事はないのだろう。
「今は辛いだろう?交代してやろう。」
ナキナは本調子では無いので無理をさせるつもりは無い。
いつの間にかナキナの隣りに立っていたジルは迫り来る風の刃に向けて無数の火矢を放った。
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