元魔王様と異世界の種族 2

 バイセルに来てからの事を説明し終えるとホッとしていた。


「貴族の落札を阻止して妾を落札してくれたんじゃな。妾としては有り難い話しじゃ。」


 ジル達では無く貴族に落札されていれば今も絶望感に押しつぶされていただろう。

ナキナは本当に落札してくれたのがジルで良かったと改めて思った。


「話しを戻すが我らも覚えられていると思うが何よりナキナは探しやすいだろう。」


 宿屋での一件でジル達は貴族の若様に確実に覚えられているだろう。

精霊付きの人族にドワーフの組み合わせとなれば目立ってしょうがない。


 そこに更に美しい鬼人族の女性が加わったのだ。

貴族の権力を使って情報網を敷けばどこにいても簡単に見つかってしまうだろう。


「だが既に一度やらかしているんだ、心配しても今更だろう。むしろ逆らう気になれないくらいに脅した方が確実かもしれん。」


 宿屋でジルは若様の事を外に放り出しただけで無く、おまけに得物に手を掛けながら脅している。

既に貴族に思い切り喧嘩を売っている様な状態なので、これ以上悪化する事も無いだろう。


「では迎撃じゃな?」


「街の外に出てからな。」


 戦いたそうにしているナキナを押し留める。

今は街の中なのでここで争えば周りに被害を出して大変な事になる。

奴隷のやらかした事は主人の責任となるので、今は大人しくしていてもらわなければ困るのだ。


「ふむ、隠す気も無い様だな。」


 宿に立ち寄ってライムを回収してから街の外に出るまでの間、少し間を空けて十数名程の団体がずっと付いてきている。

暫く歩いて街から充分に離れた位置で立ち止まると、後ろの団体も立ち止まった。


「何か用か?」


 振り返ったダナンが団体に尋ねる。

既に街から遠ざかって衛兵に見られる心配も無くなったからか、気味の悪い笑みを浮かべながらこちらを見ている。


「ああ、実はお貴族様に精霊と鬼人族の女を連れてこいって依頼されてな。大人しく引き渡すなら、男の方は苦しまずに殺してやるぜ?」


 リーダーらしき男がダナンの言葉を聞いて答える。

他の者達も笑みを浮かべながら各々武器を抜いていく。

知られても構わないのか殺意を隠す様子も無い。


 怪しまれない為か冒険者の様な格好をしているが、人を襲う事に躊躇が無いところを見ると常習犯か冒険者崩れと言ったところだろう。

汚い裏仕事を雇われで引き受ける盗賊みたいな事をしているのかもしれない。


「お前達こそ無謀な事をこのままするなら死ぬ事になるぞ?」


「だっはっは!この人数相手に面白い事を言うじゃないか!見栄を張るのにも限度ってものがあるぜ!」


 忠告を聞いてリーダーの男が大笑いしている。

その言葉に同調して周りの者達も共に笑い出す。

誰も逃げる気は無さそうだ。


「ジル殿が出るまでも無さそうじゃ。妾が相手をしてやろう。」


 ナキナが腰の得物に手を添えて前に出る。

どの程度の強さか知らないのだろう、女一人で何が出来るとでも言いたそうに盗賊達が見ている。


「いいのか?」


「問題無いだろう。この程度の輩ならばナキナ一人でお釣りがくる。」


 ダナンもナキナの実力を知らないので不安そうにしているが、この程度の盗賊風情であれば心配はいらない。

鬼人族トップクラスの戦闘能力を持つナキナはそう簡単に負けたりはしない。


「おいおい、舐められたものだな。まあ直ぐに分かるか、お前らやっちまえ!」


 リーダーの号令によって盗賊達が一斉に向かってくる。

ナキナやシキを捕まえようとする者達以外は、ジルとダナンに殺気を向けて突っ込んできている。


「鍛え方がなっとらんのう。」


 すれ違いに様に二つの小太刀を抜き放ち、盗賊を斬り伏せる。

斬られた者達は一撃で地面に崩れ落ちた。


「数日訓練出来ていなかったのじゃが、これくらいならば問題無さそうじゃな。」


 衰えた身体の感覚を確かめつつ、次々と向かってくる者達を斬り伏せていく。

時間が経つごとに地面にはどんどん死体や重症者が増えていく。


「なっ!?こんな強いなんて聞いて無いぞ!」


 リーダーはナキナのあまりの強さに驚愕しており、他の盗賊達も軽々と仲間を斬り伏せていくナキナに怯んでいる。

もっと簡単な仕事だと思っていたのに、蓋を開けば文字通り鬼の様な強さを持っていた。

それを見て全員が戦意喪失するのに時間は掛からなかった。


「大人しく降参するんじゃな。そうすれば命までは取らん。」


 怯んで動けない生き残っている者達に向けて降伏勧告を出す。

と言っても今はジルの奴隷なので、主人であるジルが殺せと言えば躊躇無く実行するつもりではいる。


「捕まってたまるか!お前ら散開して…。」


 リーダーの言葉は途中で途切れて最後まで続かなかった。

理由は突然喋っている最中だったリーダーの首がズルリとスライドして身体から落ちてしまったからであった。

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