18章
元魔王様と異世界の種族 1
ジルに落札された安心から涙を流しているナキナをどうにか宥める事が出来た。
「積もる話しもあるだろうが、一先ずは会場から出るか。後続の迷惑になる。」
ミスリルのインゴットの落札金を受け取ったダナンが言う。
受け渡しに関する話しは既に係員としてくれたみたいだ。
「そうだな。ナキナ、歩けるか?」
「問題無いのじゃ。それと聞いてもらいたい事が山程ある。」
涙を流して赤くなった目元を擦りながらナキナが言う。
奴隷となった事について言っているのだろう。
「そうだろうな。だがそれは落ち着いてからにするとしよう。」
ジル達はナキナを連れてオークション会場から出る。
「はぁ~。ジル殿以外に買われていれば、こんな気持ちにはなれんかったじゃろうな。」
ステージ上にいた時の絶望仕切った表情も今は晴れやかな表情へと変わっている。
落札者が見知った者だったからこそ気持ちも明るくなれたのだろう。
「早くお姫様の首輪を外してあげたいのです。」
シキがナキナの首元を見ながら言う。
ナキナの首には以前は無かった首輪が付けられている。
奴隷の証である奴隷の首輪だ。
「外してくれるのか?」
「別に奴隷が欲しかった訳では無いからな。」
ナキナが奴隷にされたのには理由があるのだろう。
奴隷の首輪がある状態ならば従順な手下を得た事になるが別に奴隷が欲しくて手に入れた訳では無い。
単純に知り合いだから助けただけだ。
「助かるのじゃ!首輪を付けられた時は、奴隷から解放されるのを諦めたんじゃが、この巡り合わせに感謝じゃな。」
ナキナは嬉しそうに感謝を述べる。
普通なら奴隷になった段階で解放される可能性は絶望的だ。
死ぬまで言いなりとなって過ごすのが普通である。
それに異種族と言っても見目麗しいナキナの事だ、落札した者によっては戦闘では無く夜のお勤めとして働かされていた可能性も充分にあった。
「奴隷からの解放は約束するが、一度拠点としている街に戻ってからでもいいか?」
奴隷の解放は手続きが意外と面倒なのである。
奴隷商人の手を借りるだけで無く、領主からの承認も必要となるのだ。
奴隷となった経緯を考えると簡単に解放する訳にはいかない場合もあるからだ。
しかしセダンの領主であるトゥーリとは知り合いなので、他のところで行うよりはスムーズに手続きが出来る筈だ。
「問題無いのじゃ。」
奴隷から解放してくれるなら多少時間が掛かっても文句がある訳は無い。
「ならさっさとスカイに乗って帰るとするか?今からなら明け方には到着出来るぞ。」
「そうするか。それくらいなら寝なくても問題無いだろう。」
ダナンの言葉に同意する様に頷く。
奴隷解放を急ぐのであれば早くセダンの街に戻りたい。
「シキも賛成なのです!早くお姫様を解放してあげたいのです!」
シキもナキナには全く似合わない首輪を早く外してあげたい様子だ。
「皆、感謝するのじゃ!」
自分の為に行動してくれる皆にナキナは再び目を潤ませて頭を下げている。
「ところでナキナよ、気付いているか?」
ジルは怪しまれない様に普通に歩きながら尋ねる。
「付けてきている者達の事かのう?」
ナキナも涙を拭いながら自然に言葉を返す。
さすがは鬼人族の中でもトップクラスの実力者、感激で胸を一杯にしていても気が付いていた様だ。
二人が言う様に実は先程からジル達は何者かに尾行されていたのである。
「えっ?付けられてるのです?」
「貴族の差金か?」
シキとダナンは気付いていなかったので驚いている。
戦闘員では無い二人には周囲の警戒なんて難しいだろう。
「どうだろうな。まあ、街の外に向かっても付いてくるのなら、いずれ仕掛けてくるだろう。」
わざわざ自分から行くのも面倒なので放置しておく。
離れていても気付けるくらい雑な尾行なので警戒する様な輩でも無さそうだ。
「早速恩返しの機会が妾にあると言う事じゃな?」
先程加わったばかりのナキナには尾行される理由は分からない。
それでも争い事になるならば任せろと言った様子だ。
「だが貴族との揉め事は、あまり起こさない方がいいぞ。」
戦う気でいる二人にダナンが忠告する。
と言ってもバイセルの街に到着した日に既に揉め事を起こしているので今更ではある。
「面倒事に発展する可能性は充分考えられるのです。」
シキも同意見でありダナンの言葉に頷いている。
契約してから面倒事に巻き込まれる事が多いので今回もそうなるのではないかとシキは思っていた。
「今回は仕方無いだろう?狙いがナキナかもしれないんだからな。」
「妾か?」
当の本人は不思議そうに首を傾げている。
なので昨日の宿屋の事やオークションの件について簡単に説明してあげた。
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