元魔王様とオークションでの再会 11

 若様達の場所から聞こえてくる声を聞く限り、そろそろ決着が付きそうである。


「そろそろ限界みたいなのです。」


「その様だな。こちらはまだまだ蓄えがあるんだが、先に無駄金を使い過ぎたのだろう。」


 ここに至るまでにジル達の入札した物を全て妨害する様に若様は落札してきた。

それでもこれだけの金がまだ残っているとはさすがは貴族と言ったところだ。


「そのおかげでわしは鉱石類が手に入らなかったのだがな。」


 ジルとシキとは違ってダナンは一人また不機嫌になっている。


「601万Gが出ました!これ以上のコールは御座いませんか!」


 進行役は会場に向けて言葉を発しているがその視線はジルの方を向いている。

入札はジルと若様の二人だけなので実質この二人の直接対決である。


「700万G!」


 今までと変わらずジルは大きく入札額を吊り上げる。

まだまだ余裕があるぞと入札額で思い知らせる為だ。


「700万Gが出ました!他にいらっしゃいませんか!」


 進行役は驚愕の表情を浮かべながら若様の方を向いて言う。

しかし若様は悔しそうに歯を食いしばってジルの方を睨んできているだけで入札宣言は無い。


 どうやらここまでの様である。

進行役が他に入札が無いか会場を見回しているが奴隷の値段にしては高額過ぎて誰からも入札は無い。


「それではこの奴隷は43番様の落札となります!おめでとう御座います!」


「やったのです!」


 進行役の落札宣言にシキが小さな手でガッツポーズをして喜んでいる。

これでナキナはジルの落札で確定した。


 そしてステージ上にいたナキナは自分を落札した者が決まった事でずっと俯いていた顔をゆっくりと上げていく。

その表情は絶望感に染まっている。


「っ!?」


 しかしその表情はジルを見た瞬間に一変する。

どんな者が主人となるのかと思って見たその顔は、前に自分の集落を救ってくれた人族の恩人であったのだ。


 ナキナの浮かべていた絶望の表情は困惑、喜び、安堵と言った様々な表情に様変わりしている。

しかしオークションはまだ続いている。

ぐちゃぐちゃの感情になったナキナは色々と話したそうにしながらも一先ずステージから大人しく下がっていった。


「知り合いを入札出来て良かったな。」


「ふむ、一先ずは手中に収められたか。」


 平静を装ってはいるが予想外の出費に少しだけ帰ってから金策を頑張ろうと密かにジルは思った。


「きっと落札してくれたのがジル様で喜んでるのです。」


 うんうんと頷きながらシキが言う。

知らない間柄でも無いので見ず知らずの者に落札されるよりは良いと思ってくれている筈だ。


「だが最後まで油断はしない様にしておけ。」


 新しく始まったオークションを見ながらダナンが不穏な呟きを口にする。


「貴族か?」


「プライドの高いのが多いから、平民にいい様にされたままで簡単に引き下がりはしないだろう。それに昨日の貴族だけとも限らん。」


 ナキナのオークションを目当てにしていた貴族は多い。

ダナンはこのまま無事に終わらないのではと考えている。


「自分の思い通りにならないと気が済まないのが貴族だと、前にブリジットも言ってたのです。」


 昔を思い出しながらシキも同意している。


「ある意味で普通の貴族に出会ったのは初めてだからな。」


 トゥーリやブリジットは貴族としては珍しい部類だ。

平民と知っても身分に関係無く接してくれる貴族なんて滅多にいないだろう。

それを考えると若様と呼ばれていた貴族の方が貴族らしいと言える。


「あまり大騒ぎは起こしてくれるなよ?わしでも庇い切れなくなるからな。」


 王族の紋章があると言っても爵位の高い貴族相手ではどこまで庇えるか分からない。


「善処しよう。」


 ジルの返答を聞いたダナンはそこはかとなく不安な気持ちにさせられるのだった。


 ナキナの落札後は特に気になる出品物も無く、オークションはつつがなく進んでいった。


「これにより本日のオークションは終了となります。皆様、落札した品や出品物の落札金を受け取られましたら、お気を付けてお帰り下さいませ。」


 ステージ上で進行役が挨拶して退場していった。

これでオークションは終了となり、後は金や品物を受け取って帰るだけである。


「この後は受け取り作業か?」


「そうだ。一斉にいく訳では無いから、係員がくるまでは座って待っておく。」


 言われた通り果実水を飲みながら待つ。

番号の早い順か会場の所々に係員が向かい案内されて少しずつ客がいなくなっていく。


「お待たせしました。商品の受け渡し場所に案内します。」


 最初に会場に案内してくれた係員がきてジル達も会場の外に案内される。

ミスリルのインゴットを預けたのとは別の部屋に通されると中にはナキナがいた。


「ジル殿おおおおおぉぉぉ!」


 部屋に入るなり涙声を上げてナキナが抱き付いてくる。

美人と紹介されていたのに今は色々と台無しだ。

それでも経緯は分からないが奴隷となってずっと不安な思いだったと思うので、今はされるがままになってやる。


「ナキナ、落ち着け。我が落札したのだから一先ずは安全だ。」


「うううっ、よかったのじゃあ~。」


 ジルの言葉にナキナはボロボロと涙を流しながらも安堵の表情を浮かべる。

シキも頭の上に乗って安心させる様に小さな手で撫でてあげていた。

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