元魔王様と異世界の種族 5
本来であれば風の刃に全身を斬り裂かれている筈なのだが痛がっている様子も感じられない。
「これで限界ならお前の底は見えたな。」
ジルがそう呟くと同時に竜巻が霧散した。
竜巻の中から現れたジルの姿は先程までと変わらず切り傷一つ負っていない。
「なっ!?」
無傷のジルを見て天使は驚愕している。
自分の魔法を受けたのにこんなに平然としているのが信じられなかった。
「そろそろ終わりにするか。」
「何をしたのだよ!
受け入れられない現実に天使は錯乱する様に声を荒げる。
「あの程度を対処する手段なら幾らでも持っている。」
「くっ!お前達、死ぬ気で時間を稼ぐのだよ!」
天使は周りで萎縮していた盗賊達に命令すると同時に自分は翼を広げてこの場を離脱した。
「て、天使様!?」
「そんな!俺達も助けて下さい!」
飛び立つ天使を見て盗賊達は懇願する様に空に手を伸ばしている。
「想定外なのだよ!人族の実力者は把握しているのに初めて会った人族にあんなに強いのがいるなんて想像出来無いのだよ!それに天使に歯向かってくるなんて意味が分からないのだよ!」
天使は自分の今の状況に一杯一杯で盗賊達の懇願する声は聞こえていない。
ジルの強さに愚痴りながら、この場から少しでも離れる事に必死である。
「盗賊達を役に立たないと斬り刻んでおきながら、自分も敗北して無様に逃げるとはな。」
必死で遠ざかっていく天使の後ろ姿を見ながらジルが呟く。
その姿はどんどん小さくなっていく。
「逃がすのか?」
「ナキナはどうしたい?奴のせいで奴隷に落とされたんだろう?」
ダナンに尋ねられたのでナキナに判断を委ねた。
今回一番の被害者はナキナなので、あの天使をどうしたいかはナキナが決めるべきだろう。
「妾が決めてよいのか?」
自分に振られるとは思っていなかったのか、自分を指差して首を傾げている。
「あの程度の小物がどうなろうとも我は構わん。」
「うぬ~、小物相手に手こずってしまった自分が情け無いのじゃ。もっと精進せねばいかんのう。」
ジルの言葉を聞いてナキナは悔しそうに呟く。
本調子では無かったらしいのでそれは仕方無いだろう。
それに戦ってみた感想としては、普段のナキナならば充分勝てそうだとジルは思っていた。
「妾としては始末しておきたいのう。奴は害悪じゃ。同胞が同じ目に合わないとも限らん。」
個人的な意見としては倒しておきたい様だ。
自分では無く同族が同じ目に遭う可能性を考えると放置しておくには危険な存在である。
ナキナの住む集落にはジルが防衛用に魔法道具を渡しているので心配は無いが、鬼人族は他にも存在する。
他の鬼人族が次に狙われないとも限らないのだ。
「では始末するか。」
ナキナがそうしたいと感じているのならばジルはそれに従って行動する。
「天使族に狙われる原因にならないか?」
天使を殺そうと決意しているジルを見てダナンが尋ねる。
高い戦闘能力を持つ天使族に付け狙われるのはそれなりに厄介だろう。
「多分大丈夫なのです。天使族は魔族との睨み合いで大半が忙しい筈なのです。資金集めや人脈作りで自由に動いている天使も多いので、主戦力じゃない上級天使一人消えたくらいなら捜索もされないと思うのです。」
シキは天使族の事情にもそれなりに詳しい様だ。
長年この世界に留まっていたのだから動向を知る機会は多かったのだろう。
「シキが言うのなら問題は無いだろう。」
「例え付け狙われてもジル様なら圧勝なのです!」
予想外の事態になってもジルなら簡単に倒してしまうだろうとシキはその実力を疑っていない。
なのであれこれ心配する必要は無いと思っていた。
「ところでどうやって倒すのじゃ?」
「既に随分と離れているぞ?」
天使の飛び去った方向を見てナキナとダナンが言う。
その姿は既に豆粒くらいに小さくなっており、今から追い掛けるのは難しいだろう。
「既に仕掛けは終わっている。」
そう言って天使の飛び去った方向に握った片手を向ける。
「因果応報ってな。」
天使の後ろ姿を見ながら呟き、握った手を広げる。
同時に豆粒くらいに小さい天使の身体が眩い光りを放った。
その直後に爆音が辺り一帯に轟く。
空には広範囲の爆煙が広がっていた。
かなりの威力だったと思われるが空だから被害は特に無い。
地面で行っていれば辺り一帯が消し飛んでいてもおかしく無い威力である。
「これで方は付いたな。」
「さすがジル様なのです!」
ジルのした事を見てシキは素直に賞賛している。
だが他の二人は喜びよりも驚きの方が強い。
「今のは何だったんじゃ…。」
「とんでもない威力だったぞ…。」
何が起こったのか分からず困惑している様子だ。
今のはアタッチバーストと言う爆裂魔法で、設置型で遠隔爆破も可能な魔法である。
起爆用の魔法陣は直接相手に触れなければ取り付ける事は出来無いので詠唱で警戒されてしまうのが難点だ。
しかしジルは詠唱破棄のスキルを持っているので、気付かれる事無く掌底を叩き込んだ時に設置する事が出来た。
アタッチバーストは超級魔法の一つでもあるので威力は充分であり、跡形も無く消し飛ばせただろう。
「さて、歯向かう奴はいないだろうな?」
天使を始末し終えたジルは残った盗賊達を見回して言う。
今の光景を見た盗賊達に歯向かおうとする者がいるはずも無く、我先にと武器を捨てて降参してきた。
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