元魔王様とオークションでの再会 9

 ダナンは怒りを鎮める為にテーブルに置かれた果実水を一気に飲み干す。


「まあ、確実に狙った入札だったからな。」


「昨日の腹いせなのです。」


 ダナンが不機嫌な理由は狙っていた物を落札出来無かったからだが、それだけならオークションではよくある事である。

入札が複数あった場合、資金の多い方が最終的に勝つので貴族や商人相手ではダナンも難しい。

だが今回は少し理由が違った。


 昨日宿屋の件で揉めた若様が仕返しのつもりなのかダナンの入札に被せてきたのである。

ダナンは鉱石類しか入札していないので偶然と言う可能性もあったが、ダナンが入札しなくなった途端に若様も入札を止めていたので確信犯だろう。


 おかげで狙っていた鉱石類は全滅であり、ダナンはずっと不機嫌そうにしているのだ。

ちなみにジルが適当に入札した物にも若様は全て被せてきた。

資金力に物を言わせてオークションでの一切の落札をさせないつもりなのだ。


「はぁ、当分思い出してイラつきそうだ。良かった事と言えば、ミスリルのインゴットがこの前よりも高値で落札された事くらいか。」


 鉱石類の目玉商品として出てきたのはジル達が出品した高純度のミスリルのインゴットである。

前回は850万Gと言うかなりの高額で落札された。


 今回も期待していたが更に高くなり900万Gまで伸びた。

大金貨9枚ともなれば高ランク冒険者の依頼数回分もの額であり、ジル達も大満足であった。


「昨日の貴族含めて多くの者達が入札していたな。」


「凄い需要なのです。」


 実際に自分の目で見て欲しがる者が相当多い事は分かった。

これなら今後も買い手は暫く尽きる事は無いだろう。


「だが頻繁に流せば入手経路知りたさに面倒事に絡まれる可能性もある。少し期間を空けて流した方がいいだろうな。」


 これだけ貴重な鉱石を入手する手段があるとすれば知りたいと思う者は多いだろう。

わざわざオークションで手に入れなくても大元に辿り着ければ大量に入手出来るかもしれない。

手段を選ばずに探り出す輩も出てくる可能性はある。


「その辺の調整は任せる。」


「あ、またあの貴族が落札なのです。」


 昨日ジル達に絡んでいた若様である。

ダナンの鉱石類以外にもかなりの数を落札している。


「相当な資金を持ってきているんだろうな。」


「下級貴族では無いだろう。」


 あれだけの財力ならば男爵や騎士爵と言った爵位の低い貴族関係者では無い。

貴族と言えど子供の自由に出来る金の量なんてたかが知れている。


 高い爵位を持つ貴族家の次期当主候補辺りが濃厚な線だろう。

当主候補ならいずれ自分の物になる家の金なのである程度自由に出来る。


「他の者達も資金はありそうなのに、あまり張り合っていないな。」


 貴族や商人も少なからずいるが大半は使いを頼まれた代行者である。

その身なりから主人の身分の高さも窺える。


「最初から狙っている物があるのだろう。」


 オークションの代行者であれば自分の欲しい物に入札する訳にもいかない。

ある程度主人に入札してもらいたい物について教えられている筈だ。


「成る程なのです。資金を温存してるって言われると消極的なのも納得なのです。」


「ふむ、となると残っている目玉商品のいずれかか。」


 リストを見ながらジルが呟く。

まだ目玉商品は幾つか残っているのでそれぞれお目当てがあるのだろう。


「おそらくは次だろうな。」


「次?」


 そう呟いたダナンの方を見ると顎でステージを示している。

同じくステージの方に視線を向ける。


「さあ、奴隷の商品は次が最後です!そして会場にお越しの皆様であっても、中々お目に掛かる機会が無いでしょう!故に目玉商品とさせて頂きました!」


 進行役が客の購買欲を高める様に力強く語っている。

実際にその言葉に興味を惹かれて前のめりになっている客も多いが、ジルから見える大半の客が番号札に手を掛けている。


 入札時に口頭で金額を宣言しながら番号札を掲げるので入札するつもりなのだろう。

なんらかの方法で事前に情報を知ったのか、ここに最初から入札するつもりだった者が多く見受けられる。


「これはかなり荒れそうだな。」


 これだけ多くの者が入札するとなると落札額もとんでもない額になるかもしれない。


「相当な実力者で容姿も良いとなれば欲しがる者は多いだろう。」


「どんな人が出てくるかちょっと楽しみなのです。」


 シキはワクワクした様子でステージを見ている。

確かにこれだけ気になる様な事を言われ、入札しようとしている者が多いとなるとジルも気にはなってくる。


 違法で無ければ奴隷はこの世界で一般的に根付いている普通の存在だ。

可哀想と言う気持ちも多少あるが仕方の無い事でもある。


「奴隷の目玉商品は鬼人族の女です!人族との見た目の違いは角くらいなので、亜人差別意識がある方でも側に置いておきやすいでしょう!初期値は100万Gからです!」


 進行役が開始宣言すると同時に怒涛の入札ラッシュが始まる。

最初から100万Gと高額なのだが1分と経たずに倍の200万Gを超える。


「あれ程容姿に優れているとなると、貴族や商人がこぞって欲しがるのも分かるな。」


 ステージ上にいる奴隷を見ながらダナンが納得する様に呟く。

しかし途中からジルとシキは進行役の言葉もダナンの言葉も右から左に流れるかの如く聞き流していた。


「じ、ジル様、大変なのです!」


「何をやっているんだあいつは…。」


 シキはステージ上を指差してあわあわと狼狽えている。

そしてジルも目の前の光景が理解出来無いとばかりに額に手を当てていた。


 何故二人がそんな状態になっているかと言うと、ステージ上にいる奴隷が関係していた。

その鬼人族の奴隷とは前に鬼人族の集落で出会った事がある、鬼人族の姫であるナキナ・デリモーンだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る