元魔王様とオークションでの再会 8
これ程の警備ならば貴重品も安心して預けられる。
「それではこちらにどうぞ。」
中に入ってテーブルに出す様に促される。
ダナンはリュックからミスリルのインゴットを取り出して置く。
「はい、確かにお預かりしました。こちらがお客様の番号札となります。」
係員が43と数字の書かれた木の板を差し出してくる。
「番号札?」
「オークションで入札する時、落札した物、出品物の落札金と引き換える時に使う物だ。」
オークション会場での必需品である。
これは全てのやり取りで使われるので破損や紛失は厳禁である。
「オークションは全て匿名で行われますので、番号札をお名前としてやり取りするのです。」
出品物の出所や落札された物の行き先をある程度隠す為の措置だ。
しかしジル達の様な目立つ組み合わせの前にはあまり意味は無いだろう。
「ではお席にご案内しますね。」
係員が続いてオークションの行われる会場に案内してくれる。
会場はステージに対して広い半円状となっている。
席もそれなりの数があるが、客が貴族や商人ばかりと言う事もあり、窮屈な思いをしなくてもいい様に間隔が開けられて広々とした作りとなっている。
既に席も結構な人数で埋まっている様子だ。
「こちらがお客様の席となります。」
案内された番号札の席に座る。
席も客層的に豪華な作りとなっていて座り心地が良い。
「果実水はお代わり自由ですので、いつでもお呼び下さい。」
そう言って係員が美味しそうな果実水を人数分置いていく。
ご丁寧にシキが飲みやすい様に小さな器に果実水を注いだ物まで出してくれた。
気配りの出来る係員である。
「わあ~、ありがとうなのです。」
シキはお礼を言って美味しそうに果実水を飲んでいる。
係員もその愛らしい様子ににっこりと微笑む。
暫く果実水を飲んだり雑談をして時間を潰していると席を外していた係員が何かを持って戻ってきた。
「こちらは本日のリストとなります。それでは間もなく始まりますので、オークションをお楽しみ下さいませ。」
係員は上等な紙を一枚置くと一礼してその場を離れていった。
「リストには出品される物の大まかな情報や目玉商品について書かれている。予算の限られる者達は、ある程度リストを見て決めるのだ。」
「成る程。」
ジルも紙に書かれたリストを見てみる。
比較的に安価で落札出来そうな物は名称だけがずらりと並んでいる。
逆に高額で落札されそうな物は名称が書かれておらず少しぼかされている。
全て出品される物が分かってしまっては面白みが無いと言う事だろう。
「わしらの持ち込んだ物も目玉商品となっているぞ。」
「その様だな。」
ダナンがリストの一箇所を指差す。
鉱石類の欄の一番の目玉商品に高純度希少鉱石のインゴットと書かれている。
種類までは書かれていないが渡した個数も一致しているので間違い無さそうだ。
「何か気になる品はありそうか?」
「リストで目を引くのは奴隷くらいだな。買うつもりは無いが。」
奴隷はオークションで物として出品されて扱われる。
リストの奴隷の欄にもそれなりの数が出品されており、目玉商品の奴隷は異種族、美女、戦闘奴隷(Aランク級)と書かれていた。
「ほお、ジルはそう言った事に興味を持っていないのかと思っていたぞ。」
ダナンは意外そうな視線を向けてくる。
美女と言う項目の事を言っているのだろう。
「何を勘違いしているか予想は出来るが、我が気になっているのはAランク級の実力者って部分だぞ。」
このランクはおそらく冒険者のランクと同じ様なものだろう。
Aランクの実力者なんて冒険者の中でもトップ層の実力者である。
その実力から少し興味を惹かれただけだ。
そう説明したのだがダナンはニヤニヤしながら見てくるだけであった。
これは訂正しても時間の無駄だと判断すると無視してリストを見て時間を潰す事にした。
少しすると身なりの良い進行役がステージに現れ、オークションの開始を宣言した。
それから多種多様な出品物がステージ上に順番に運ばれ、客による壮絶な
今は魔法が付加された魔法道具の剣に入札が飛び交っている。
「さすがは武具の目玉商品だな。」
「…そうだな。」
他の武具に比べて人気も高く、入札数も多く入札額もどんどん上がっている。
「でもジル様の銀月の方が強いのです。」
「…そうだな。」
銀月はダナンの腕だけで無く、素材に高純度のミスリルを使っている。
そこらの武具とは比べ物にならないくらいの逸品なのである。
「エルダードワーフの打った武具と比べれば大半が見劣りはするだろう。」
「…そうだな。」
オークションに出品された武具も銀月を上回る程の物は無かった。
エルダードワーフの武具を上回る程の物はそう簡単に出回らない。
「いい加減機嫌を直したらどうだ?」
「オークションなのだから仕方無いのです。」
不機嫌そうに先程から空返事ばかりしているダナンに二人が言う。
「オークションに通っていれば、またいずれチャンスがあるのだろう?」
そんな状態になっていたのは欲しい物を落札出来無かったからであった。
「それはそうだが、わしは今手に入れたかったんだ!かなりの少量とは言えオリハルコンまであったんだぞ!」
ダナンはオークション会場と言う事に配慮して静かな声で怒りを露わにしていた。
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