元魔王様とシキの契約者 6

 ブリジットの反応を見る限り、確かにシキの言う通りマイナスな感情を抱いている様子は無さそうだ。


「そんなに心配していたのです?」


「シキは危なっかしいところがあるからな。」


 昔からの付き合いなのでその性格はよく知っている。

優しい性格が災いして時に危険に巻き込まれる事もよくあった。


「そうですね。悪い人に騙されていないか心配でした。」


 同意する様にブリジットも頷いている。

契約していた頃にもシキを案じる出来事があったのかもしれない。


「二人共失礼なのです!シキはしっかりしているのです!」


「ふふふ、そうですね。」


 シキは食べながら怒ると言う器用な事をしながら抗議する。

しかしその姿で怒られても怖いとは微塵も感じられず、ブリジットもそれを見て微笑んでいる。


「ブリジットは我の直前の契約者と聞いたが本当か?」


「ええ、その通りです。ある日突然近くにいたシキが消えてしまいまして。それで戻ってくるなり矢継ぎ早に別れを切り出されて、止める間も無く契約を破棄されてしまいました。」


 ジルが召喚魔法を試した時の事だろう。

契約する前に前契約者と話す為に一度スキルを使って戻ったのだが、帰ってくるのが異常に早かった。


 どうやら話し合いなんて行われておらず、一方的に言葉を伝えてシキは帰ってきていたらしい。

それだけジルと契約出来ると聞いて嬉しかったのだろう。


「シキは良くも悪くも真っ直ぐな精霊なので、何か新しい知識となり得る事を見つけ、それしか見えないくらいに夢中だったのだろうと当時は思いました。私としては突然の別れは寂しかったですけどね。」

「うぐっ。御免なさいなのです。」


 別れるとしてもブリジットはもっとしっかりとしたお別れをしたかったのだろう。

シキとは毎日共に暮らしており、一緒にいるのは当たり前となっていた。


 なのでよく分からない状況からの突然過ぎる別れは辛かったのだ。

シキも悪い事をした自覚はある様で素直に謝罪している。


「いいんですよ。シキもジルさんとそれだけ早く契約を結びたかったのでしょう?」


 シキが反省していると知れてブリジットには責めるつもりは無さそうだ。

それだけ契約の事しか頭になかったのだと分かってくれている。


「そうなのです。その時はそれに夢中だったのです。」


「そこまでシキを夢中にさせてしまうとは、ジルさんには何かあるのでしょうか?」


 興味深い物を見る様にブリジットがジルを見てくる。

元魔王の頃の元契約者ですと言える訳も無く、シキに任せて黙って美味しい料理を堪能する事にした。


「以前にも契約していたのです。でもやむを得ない事情で契約が解除されてしまったのです。なのにまた契約出来ると聞いていてもたってもいられなかったのです。」


 魔王時代と言う事を隠して説明している。

元々契約していたのが本人達の意図しない形で解除されたとなれば、また契約したいと思っても不思議は無いだろう。


「成る程、その様な事情があったのですね。事情についてはお聞きしても?」


「それはブリジットでも言えないのです。御免なのです。」


 親しい間柄でもジルの前世については話せない。

シキはとても申し訳無さそうに小さな頭を下げている。


「いいんですよシキ。再び巡り会えたのなら契約し直したいと思うのも当然の事です。」


「ブリジットとしてはよかったのか?我のせいではあるが、突然シキと別れる事になったのだろう?」


 話を聞いていてブリジットからマイナス感情は伺えないが一応尋ねてみた。


「そうですね、全く問題が無かったとは言えません。シキには領の事で話しに乗ってもらっていましたから。」


 思案顔になって当時を思い出しながらブリジットが言う。

領地の事に口を出していた者が突然いなくなれば当然困り事は出てくるだろう。


「ほう、そんな事をしていたのか。」


「シキの知識は豊富ですからね。そしてそう言った案件が途中で放置されてしまったので、対処が少し大変でした。」


 膨大な知識を持つシキにしてみれば領地経営に関しても難無く口を出せる。

しかしシキが突然抜けて引き継ぎも無く後任の者に渡されても、知識の精霊と同じ仕事を出来る筈も無い。


「あっ、そう言えば放ったままだったのです。」


 食事する手を止めて今思い出したかの様にシキが言う。


「万が一戻ってきた時の為に、私が深く関わっていたもの以外は触れていないのですが、どうしますか?」


「うーん。」


 シキ絡みの案件はそのままにしてくれているらしい。

それを聞いてシキは悩んむ様に腕を組んでいる。

そしてチラッとジルの方を見る。


「ん?なんだ?」


「ジル様にお願いがあるのです。一緒にブリジットの領地まで行ってもらえないです?」


 そう言ってシキが小さな手を合わせてジルに頼んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る