元魔王様とシキの契約者 7

 シキ自身が直接ブリジットの領地に赴いて中途半端にした仕事を自分で終わらせたいのだろう。


「何かシキの気になる事でもあるのですか?」


 言伝をもらえればシキがわざわざ戻らなくても自分で処理出来るだろうとブリジットは考えていた。


「そうなのです。こっちで一つだけ片付けたい案件があるのです。」


 関わっていた事は幾つかあるのだが、その中の一つだけはどうしても実際に自分が訪れなければならない案件だったとシキは思い出した。


「成る程、では関与しない方がいいですね。ジルさん、如何でしょうか?」


 既に他者と契約した精霊であっても、シキの意図を優先で汲んでくれるらしい。


「ちなみにその領地はどこなんだ?」

「セダンとは隣りの領地となっていますが、私の住む街までは馬車で2週間程掛かりますね。海に面しているトレンフルと言う街です。」


 図書館で以前本を見た時にセダン周辺の地理については調べていたのでその名前は聞いた事があった。

更に聞くとトレンフルは漁業が盛んな港町でもあり、ブリジットの母が領主をしているらしい。


「海産物は美味しいので、ジル様にも食べてほしいのです!」


「それは気になるな。」


 美味しい食べ物と聞けば是非とも行ってみたくなる。

それに距離が遠いと言っても魔法での爆速移動があるので障害にすらならない。


「じゃあ時間が出来た時に尋ねてみるのです。」


「そうするか。」


「分かりました、楽しみにしていますね。」


 シキが何をやりたいのかは知らないがブリジットの母が治める領地、トレンフル行きが決まった。

雑談に花を咲かせながらも食事を終えたジル達は店を出る。

初めての高級料理にジルもシキも大満足と言った様子である。


「満足していただけた様で何よりです。」


 二人の様子を見て店を選んだブリジットも満足そうだ。


「悪いな、ご馳走になって。」


「いえいえ、こちらこそ有意義な話しが出来ましたから。」


 自分達の分は出そうと思ったのだがブリジットが気前良く三人分支払ってくれた。

これでも貴族なのだから気にしないでほしいと言われ、良い貴族もいたものだとジルは思った。


「ところでまだお時間に余裕はありますか?」


 ブリジットがこの後の予定について聞いてくる。


「特に予定は無いが、シキとまだ語らいたいとかか?」


 前契約者なのだから久々に再開したシキとまだまだ話し足りないのかもしれない。

それならば全然ブリジットに付き合わせても構わない。


「そちらも魅力的な提案ではありますが、領にもお越しくださるとの事なので、またの機会とします。」


 どうやらシキ関連の事では無さそうだ。

それにしてもトレンフルの街に訪れてくる事をとても楽しみにしている様子だ。

なるべく早く向かってあげた方がよさそうである。


「どこか案内でもしてほしいのです?」


 ブリジットはセダンの街に住んでいる訳では無い。

商いに来ていると言ってもせっかくの遠出なのだから、セダンで暮らしている二人に案内してもらい、羽を伸ばしたいのかもしれないとシキは考える。


「いえ、話しを聞いていてシキの契約者であるジルさんに興味が湧いてきまして。もし宜しければ食後の運動に、一つ模擬戦でも如何ですか?」


 ブリジットが提案してきたのはジルとの模擬戦だった。


「我と戦いたいと言う事か。」


「端的に申し上げればそうなりますね。」


 運動と本人は言っているが、その目からは好敵手を見つけたかの様な好戦的さが窺える。

ジルの戦いを直接見た訳でも無いのだが、本能的に強者だと感じ取ったのかもしれない。


「ブリジット、突然どうしたのです?」


 シキが不思議そうに尋ねる。

自分の知っているブリジットは強い騎士ではあるが戦闘狂では無かったと把握している。


「純粋にジルさんの戦闘能力を把握したいと思っただけですよ。貴方には戦う術がありませんからね。」


 元契約者として当然ブリジットも知っていた。

シキが戦いに関してだけは全くの無力な事を。


「シキを守れるだけの強さがあるか確かめたいと言う事か。」


 ブリジットもジルと同じ考えなのだろう。

戦う力を持たないシキには強い護衛を付ける必要がある。

知識の精霊とはそれだけ破格な力を有しているので、安全面にはしっかり配慮する必要がある。


「そうなりますね。精霊の力と言うのは特殊で強力、欲する者は数多くいます。前契約者として、シキを守れるだけの力があるかこの目で確かめたいのです。」


 模擬戦の提案は純粋にシキの事を心配に思っての事であった。


「心配はいらないのです。ジル様は最強なのです。」


 そう言ってシキは胸を張る。

ジルの側がこの世界で一番安全な場所だと信じて疑っていない。


「私が自分の目で直接確かめたい正確と言うのは知っていますよね?」


「むむむ、なのです。」


 それを聞くと思い出したのか困った様に唸っている。

自分の事でジルにあまり面倒を掛けたくは無さそうだ。


「シキには一応護衛も付けているぞ。」


 そう言って肩に乗っているライムを指差す。

ライムもプルプルと揺れて護衛だとアピールしている様子だ。


「スライムですか?」


「シキの従魔なのです!」


 ライムの下まで飛んでいって自慢する様に言う。

そして近付いてきたシキにライムはプルプルの身体を擦り寄せている。

前に押し倒してしまった事があったのでライムはスキンシップをする際には最大限気を付けている。


「シキが従魔にしたのですか?スライムとは言え、よく従魔に出来ましたね。」


 ブリジットはそれを聞いて心底驚いていた。

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