元魔王様とシキの契約者 5

 ブリジットが態度や言葉遣いを気にしない性格だと言っても、普通の平民ならば貴族と話す事自体緊張するものだ。

それはミラも同じであり、このまま緊張しながら話し続けて気疲れする前に退散した様である。


「ジルさん、この後のご予定はありますか?」


 荷運びの作業がジルのおかげで早く終わったので少し時間が出来た。

せっかくシキと再会を果たせたので、少し話したいとブリジットは思っていた。


「特に無いな。」


「でしたらご一緒に食事でも如何でしょう?シキと契約した者同士、交流させていただきたいのです。」


 ブリジットはシキだけで無く、契約主であるジルにも興味があった。

元契約主として今の契約主の事を知りたいのだ。


「別に構わないぞ。」


「では参りましょう。」


 了承を得たブリジットは機嫌良く街を歩いていく。

その後ろを暫く付いていくと綺麗な外観で明らかに高そうな店の前でブリジットが止まった。

セダンの街を拠点にしているジルだがこんな店は入った事が無い。


「いらっしゃいませお客様。どなたかのご紹介でしょうか?」


 店に入るなり身綺麗な執事風の男が尋ねてくる。

店内も高級感溢れる作りになっており、客も富裕層が多そうに見える。


 ブリジットは懐から何かを取り出して執事に見せる。

すると執事は目を見開き驚いて、直ぐに中に案内してくれた。

何を見せたのか分からないが、奥の方にある数少ない個室に通してくれた。


「この個室は魔法道具によって外に音が漏れません。そして料理も美味しいのでこのお店は気に入っているんですよ。」


 そう言ってブリジットが店の紹介してくれた。

元々は領主であるトゥーリに食事に誘われた時に紹介されて気に入ったらしい。

紹介したトゥーリもまた食べれる様に紹介状を渡した様だ。


 そしてセダンを訪れると必ずこの店に食べにきてると言う。

こんな高そうな店に躊躇無く毎回これるとは、さすがは貴族の財力である。


「少し席を外しますね。」


 鎧のままでは食事し難いので外しにいったのかもしれない。


「まさかシキの前契約者が貴族だったとはな。」


 そう言った話しは特に聞いていなかったのでジルも驚きであった。


「たまたま出会ったのです。とても良い契約主だったのです!」


「その様だな。貴族にしては珍しい部類だろう。」


 ブリジットと出会って少ししか経っていないが育ちの良さが窺える。

そんな貴族の家で世話になっていたのなら、シキは不自由無い生活を送れていただろう。


「ブリジットとの生活も楽しかったのです。でもジル様に召喚されては、別れるしかなかったのです。」


 ブリジットとの生活を思い出しながらシキが言う。

その表情は後悔は無いと言った感じだ。


「ん?つまり我の直前の契約者だったと言う事か?」


「そうなのです。」


 頷くシキを見てジルは、これは少しまずいのではないかと思った。


「シキの能力を知っていれば、我は恨まれているのではないか?」


 シキは知識の精霊として見聞きした情報を完全に記憶すると言う破格の能力が備わっている。

そんな生きる知識の倉庫みたいなシキを奪われたとなれば、恨みを買っている可能性はある。


「そんな事は無いのです。ブリジットは恨んだりなんてしないのです。」


 シキはジルの発言を否定する。

しかしシキがいくら否定してもブリジット本人がどう思っているかは分からない。


「お待たせ致しました。」


 戻ってきたブリジットは鎧を脱いで軽装に着替えていた。

騎士としてのブリジットは美しくも格好良かったが、こちらの方が女性としての魅力が存分に感じられた。


 そして料理が運ばれてくる。

普段食べている宿屋や屋台の料理も当然美味しいのだが、それらとは違って豪華で高そうな見た目である。

ジルとシキも思わず前のめりになってしまう。


「お食事をしながらでも構いませんから、どうぞ召し上がって下さい。」


 二人の様子を見てニコニコと笑みを浮かべながらブリジットが料理を勧める。

許可が出たので普段味わえない料理を早速食べてみる。


 見た目から高級感の漂う料理達だったが、味も想像以上であった。

貴族のブリジットが何度も訪れたいと思うのも納得である。


「シキは今の暮らしに満足している様ですね。」


 ジルの隣りで美味しそうに食事をしているシキを見てブリジットが言う。


「はいなのです!ジル様といるととっても楽しいのです!」


 シキは心の底から嬉しそうに言う。

今生の別れと思っていた主人の転生体に再び出会えたのだ、シキとしてはこの上なく嬉しい事であった。


「そうですか、新しい契約者の方がどんな方か心配していましたが、問題無さそうで安心しました。」


 その返答を聞いてブリジットは満足そうに頷いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る