元魔王様とシキの契約者 4
この女騎士は商隊長の警護をしてきた者だと思われるが、商隊長の言葉遣いからして貴族なのだろう。
「今回は随分と早かったですね?」
ブリジットと呼ばれた女騎士が馬から降りて不思議そうに商隊長に尋ねている。
毎回積み込みは時間が掛かるのでまだ終わっていないだろうと思い、手伝いに戻ってきたところだったのだ。
「ええ、こちらの方が収納系スキルを所持していましてね。ついでにスカウトもしたのですが、残念ながら断られてしまいました。」
商隊長がそう言って説明する。
ジルをスカウト出来無かったのが本当に悔しそうである。
「そうでしたか、ありが…。」
ブリジットは早く終わったお礼をしようとジルの方を見て固まってしまった。
その視線はジルの方を真っ直ぐに向いている。
「ブリジット様?」
商隊長がブリジットの様子を不思議そうに伺っている。
ジルとミラも同じく突然固まってしまった意味が分からず戸惑う。
「「あー!」」
するとブリジットが少し大きな声を上げてジルの方を指差してきた。
正確にはジルでは無く、その肩に乗っているシキの事をである。
そしてシキもブリジット同様の反応をして声を上げ、ブリジットの事を指差していた。
二人の突然の行動に周りの者達は困惑する。
「シキではないですか!」
「ブリジットなのです!」
シキは嬉しそうにブリジットの名前を呼びながら飛んでいく。
ブリジットは自分に向かってくる小さなシキを割れ物を扱う様にそっと優しく受け止める。
どうやらシキとブリジットは知り合いの様だ。
当然人族に転生して間も無いジルには、久しぶりに会う人族の知り合いなんている訳も無いのでシキとは違って面識は無い。
転生する間に出会った者なのだろう。
「まさかこんなところで会えるとは思いませんでしたよ。」
「シキもなのです。」
二人は嬉しそうに笑いながら話している。
二人は相当仲の良い間柄みたいである。
「そちらは妖精ですよね?ブリジット様はお知り合いなのですか?」
商隊長も現状に付いていけていない様子であり尋ねている。
「そうなんです。家の者達しか知りませんが、前に私達の領の手助けをしてくれていたのですよ。」
「なんと!?」
商隊長はその言葉を聞いて驚いている。
それは他の騎士や商会の者達も同じだ。
「確か宿に向かわれるのでしたね。私は少しお話しをしてからでも宜しいですか?」
ブリジットは思わぬ出会いに予定を変更して商隊長に尋ねる。
久しぶりに会ったのでシキともう少し言葉を交わしたいのだろう。
「ええ、勿論構いませんよ。では私達は先にいつもの宿に向かっております。」
商会長としてもせっかくの出会いに口を出すつもりは無い様だ。
承諾して馬車に乗り込んでいく。
「分かりました。貴方達も先に休んで構いません。」
「「「はっ!」」」
ブリジットが騎士達に指示を出すと商隊と共に宿に向かっていった。
「シキ、そちらの方が新しい契約者の方ですか?」
シキが先程まで肩に乗っていたジルの方を見ながらブリジットが尋ねる。
「そうなのです!シキのご主人様のジル様なのです!」
シキが今度はジルの近くを飛び回りながら手を向けて紹介する。
「そうですか。一先ず元気そうで安心しました。ジルさん、お初にお目に掛かります。シキと以前に契約をしていたブリジットと申します。」
ブリジットはそう言って丁寧に礼をしながら自己紹介をしてくる。
なんと目の前にいる女騎士ことブリジットは、シキの元契約者だったらしい。
ブリジットの自己紹介を聞いてジルは納得する。
通りで二人が親しげな訳である。
元契約者ならばジルの様に親しい関係を築いていても不思議では無い。
「そうだったか、我は現契約者のジルだ。」
「ちょっ!ジルさん、相手は貴族様ですよ!」
ジルの言葉遣いにミラが焦りながら注意している。
その様子を見ると前にもトゥーリの時に同じ様なやり取りをした事があったなと思い出される。
「大丈夫ですよ。言葉遣い程度気にはしません。」
焦っているミラに微笑みながらブリジットが言う。
トゥーリと同じくその辺は寛大な貴族の様だ。
「ブリジットはそのくらいで怒ったりしないのです。」
「ええ、その通りです。それに以前の私と同じシキの契約者の方なんですから、私としては対等に接してほしいくらいですよ。」
ブリジットはシキの元契約主なのでその性格もよく分かっているのだろう。
シキの言葉を聞いてブリジットは嬉しそうに頷いている。
そしてシキと契約を交わしているジルの事は貴族や平民と言った身分に関係無く察してほしいと認識している様だ。
貴族にしては珍しいが同じ精霊の契約者だった者としてそう言った関係を望んでいるのだろう。
「そ、そうですか。」
一先ずブリジットが怒っていない事を知ってミラが安心している。
「積もる話しもあるみたいですから、私はこれで失礼します。ジルさん、報酬は後日お支払いしますね。」
そう言い残して一礼し、ミラはギルドの中に戻っていった。
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