元魔王様とシキの契約者 3

 次々と馬車の荷台が埋まっていく様子を商隊関係者達が驚きながら見ている。


「収納系スキルをお持ちの方でしたか。いやはや羨ましい限りですな。」


 商人であれば皆喉から手が出る程に欲しがるスキルの一つだ。

運搬する量が増えればその分だけ利益を上げられるので欲しがらない商人なんていない。


 しかし収納スキル持ちなんてそう簡単にいないので、収納容量を増やした魔法道具で普通よりも多くの物を持ち運べる様にする者が大半である。


 だがそう言った魔法道具は収納出来る数に限りがあり、更に収納量に応じて値段が跳ね上がる。

持てる者となると貴族、商人、高ランク冒険者と限られるだろう。


「では次にいきましょう。」


 ミラに従って次々と馬車の荷台を素材で埋めていくだけの単純な作業だ。

商会関係者達は二つ目の馬車にジル達が向かったのでそんなにスキルに収納出来るのかと驚いていた。


 しかしその驚きも三つ目に向かえば驚愕に代わり、四つ目に向かえば唖然となり、五つ目で信じられない者を見る目へと変わっていった。

そんな視線に晒されながらも全ての馬車に素材を出し終えた。


「これで全部積み終わりました。」


 ミラに声を掛けられて商隊長がハッと正気に戻る。

初めて見る信じられない光景に呆けてしまった様だ。


「き、君の収納系スキルは一体どうなっているんだ!?いや、そんな事はどうでもいい。どうだろう、私の商会の専属にならないかい?報酬は弾むよ?」


 商隊長は我に戻るとジルの事を商会のお抱え冒険者にとスカウトしてきた。

商人としては是が非でも欲しい存在だろう。


 こう言った冒険者へのスカウト行為はよくある事だ。

優秀な冒険者である程に有力者から声が掛かる事が多い。

そう言った者達と繋がりが持てれば冒険者も安泰となる。


 ギルドとしても依頼ボードから受けてもらえる機会は減ってしまうが、雇った者達の依頼はギルドを通して行われるので損をする事は無い。

そしてスカウトに応じるも断るも冒険者の自由となっている。


 ミラの反応をチラリと見てみると何も口出しはしてこないが、ジルを見ているその目力から絶対に駄目だと言う感情がよく伝わってくる。

スカウトにギルドは関与しないが、期待の新人冒険者であるジルを他のところに簡単に取られたくは無いのだろう。


「悪いが興味無いな。我は誰かに縛られるのは好かんのだ。」


「そ、そうですか。」


 自由な暮らしが阻害される可能性があるので当然ジルは断る。

その答えに商隊長はがっくりと肩を落とし、ミラは明らかにホッとしていて、二人で真逆の反応を見せていた。


「それではこちらが素材の目録となります。」


「宿に戻り次第確認致します。」


 商隊長はそう言って素材の代金を支払った。

素材の量は膨大なので一旦宿に戻ってから確認する。


「確かに受け取りました。お渡しした素材等に不備がありましたら、いつでも仰って下さい。」


 その場で代金を確認したミラが笑顔で言う。

大口の取り引きとジルを引き抜かれなかった安心感でご機嫌の様子だ。


「分かりました。」


 二人がやり取りしていると数名の騎士が馬に乗ってギルドの方にやってくる。


「おや、丁度良かったですな。」


 その方を見て商隊長が言う。

向かってくる騎士達とは知り合いの様子だ。


「この街の騎士とは違うな。」


 ジルとてこの街で暮らしてまだ日が浅いので、当然騎士を全て把握している訳では無い。

それでも何人かは見掛けた事もあり、その者達と装備が違う事くらいは分かった。


「ええ、あの方々は護衛として付いてきてもらった騎士様達ですよ。」


 商会長が騎士達を見て言う。

これだけ大規模な商隊なのだ、確かな護衛として騎士を連れてきたいと考えるのも分かる。


「ほお、わざわざ騎士が出向くのか。」


 街に在中する騎士となれば有事の際の貴重な戦力である。

それを連れ出すとなれば余程この取り引きを重要視していると言える。


「大きな取り引きですからね。途中で盗賊にでも襲われては困るのです。」


 確かにジルの無限倉庫が無ければ運び出すだけでも苦労する様な量だ。

無事に持ち帰れなければ損失は計り知れない。


「領主邸に挨拶に向かった帰りでしょうね。」


「貴族同士の交流と言うものですな。」


 騎士には貴族の出でなる者も多い。

当主とならない者達はいつまでも実家でのうのうと暮らす事は出来無い。


 家の為に他の貴族や有力な商家に嫁ぐ必要がある。

実家との縁は当然あるがそう言ったところに嫁げなければ、貴族と言う身分でいられなくなってしまう。

そこで騎士と言う職業だ。


 騎士は平民でもなる事が可能だが、貴族に次ぐ身分とされている。

実力が求められる職業でもあるが、平民になるよりはマシだと貴族からなる者も多いのだ。


「ブリジット様、取り引きは無事終了しましたので、特に用事が無ければ宿に向かいたいと思うのですが如何でしょう?」


 商隊長が近付いてきた一人の女騎士に確認を取っている。

他よりも豪華な装備を身に付けており、容姿はとても美しく、長い綺麗な銀色の髪をなびかせている。

他の騎士達とは明らかにオーラが違うと言った感じの騎士であった。

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