元魔王様と災厄の予兆 14.5

 ジル達に報酬を渡し終えたミラは、エルロッドの部屋でもあるギルドマスターの部屋を訪れた。

後でくる様にとエルロッドから事前に言われており、ノックをすると中から返事がある。


「失礼します。」


 ミラが中に入ると奥にエルロッドが座っている。

そして来客用のソファーにもミラの知る二人の男女が座っていた。


 冒険者であり、今回の件でジルとアレンよりも先に向かってタイタンベノムスネークの相手をしていた鋼鉄のアダンとアイネである。


「ミラも座るとよい。時間は掛けん。」


 さすがに高ランク冒険者である二人と一緒に座る訳にはいかないだろうと思い立っていたが、エルロッドに座る様に言われる。

ミラは一礼してから二人とは対面のソファーに座る。


「報酬は渡した様じゃな。」


「はい、大金貨4枚を討伐依頼の報酬としてお渡ししています。」


 これはAランク冒険者でも中々一度で貰える額では無いのだが、ギルドは今回の依頼をそれ程の事だと判断していた。


「ひゅー、結構な額じゃないか。CやDで一度に得られる額とは比較にもならないね。」


 金額を聞いたアイネが予想外の報酬に驚き、口笛を吹いて言う。

アイネの言う通り、ジルやアレンのランクでは得る事が出来無い様な大金である。


「それだけの事を彼らがしたと言う事だろうね。まあ、それにしても破格だとは思うけれど。」


 アダンもその額に驚いているが、報酬に関して文句がある訳では無い。

自分達が倒せなかった魔物を倒したのだから、それなりの報酬はあるべきだと考えている。


「そうでも無いんじゃよ。お主達は本人から聞いておらんようじゃな。」


 二人の反応を見たエルロッドが言う。

どうやら今回のタイタンベノムスネークを本来のAランクと見て話している様だ。


「ん?何をだい?魔物がAランクなのは聞いたよ?」


 アイネは直接ジルに教えてもらっている。

しかし特殊個体の話しまでは聞いていなかった。


「お主達が戦った魔物は特殊個体だったんじゃよ。」


「「なっ!?」」


 二人は先程よりも更に驚愕の表情を浮かべる。

その意味をAランクの二人が分からない訳が無い。

特殊個体は魔物のランクが一つ上がるので、今回のはSランクの魔物と言う事を意味しているのだ。


「驚くのも当然じゃな。ギルドでも調べたから間違い無い情報じゃぞ。」


 鋼鉄の二人は見ていないが、先程倉庫で実物のタイタンベノムスネークの鑑定が行われた。

その時に特殊個体である事はギルド側で確認済みである。


「…あたし達はよく生きていられたね。」


 まさか対面していた魔物が遥かに格上の存在だとは思ってもいなくて、アイネは生き残っている事に今更だが安心していた。


「攻撃よりも防御に特化しているとは言え、相当運が良かったんだろうね。他にも死者はいなかったみたいだし。」


 奇跡的に実質Sランクの魔物が相手だったと言うのに今回死者はいなかった。

これはタイタンベノムスネークの特殊個体が弱かった訳でも冒険者達が強かった訳でも無い。


 誰も知り得ない事だったが、あのタイタンベノムスネークは毒で弱らせて動けなくなった冒険者達を丸呑みにして喰らおうと、餌として考えていた。


 本来は他の魔物で食事をするのだが自分を恐れて大半が逃げてしまい、手近の獲物が人しかいなかったのである。

しかし代わる代わる新しい冒険者達がきた事によって、食事の準備だけが進んでいき食べる暇が無かったのだ。


 つまりはタイタンベノムスネークが食事をしようと思っていなければ、死者はとんでもない数が出ていた事になる。

ただ運が良かっただけなのであった。


「と言う事は、あの二人はSランクを倒したって事かい?」


「そう言う事じゃな。」


 アイネが尋ねるとエルロッドが大きく頷く。


「直接お話しをお聞きしましたから間違いありませんよ。」


 嘘を見破る魔法道具のある部屋でジルに話しを聞いている。

鑑定もしたので特殊個体であり本来のランクよりも高いSランクの魔物だったのは確実だ。


「は~、大したもんだね。アレンがランク以上の実力がある事は知ってたし、ジルが底の知れない化け物なのも知ってたけど、まさかここまでとはね。」


 Aランクの冒険者だけあって、次世代の有力な冒険者には目を付けていた。

ジルは最近冒険者になったばかりだが、受付前で絡まれたのを鋼鉄が止めているので、しっかり覚えられていた。


「あやつらはランクに拘りが無いからのう。」


 ジルは面倒事に巻き込まれない為にDランクで止めている。

アレンも孤児院の事を考えて、報酬が良く面倒事が回ってきにくいCランクで止めている。


「ギルド的には高ランク冒険者になってほしいところなんですが、強制的な依頼を嫌っている様子ですからね。」


 毎回ジルの依頼を処理しているミラが溜め息を吐きながら呟いた。

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