元魔王様と災厄の予兆 14
本来であれば大型の魔物を大量に置くスペースなのだが、一体の魔物で埋まってしまう程の巨大な魔物が突然現れたので、様子を伺っていた者達が皆固まっている。
「わしが知っている物よりも随分と大きい様じゃ。」
「スキルだけでは無く個体も大きくなっていた様ですね。」
事前にタイタンベノムスネークが取り出される事を分かっていた二人は、多少驚きながらも個体について話し合う余裕はある様だ。
エルロッドが近場で固まっていた査定員を呼び、タイタンベノムスネークを調べさせる。
鑑定系統のスキルを所持しているのか、溶解液のスキルを所持していると判定してくれた。
「もう仕舞ってもいいか?」
特殊個体だと分かったので収納許可が出た。
再び巨大な魔物が一瞬で消えた事によりギルドの者達が驚いている。
この反応は転生してから無限倉庫のスキルを使う度に毎回されているのでジルは慣れてきたのだが、どうやら見る側は中々慣れない様である。
「さすがは最上位の収納スキルじゃのう。」
「ギルドとしても羨ましい限りですね。」
ジルのスキルを見て羨む二人。
ギルドの関係者が所持していれば、ギルドの仕事が大いに捗るのだから羨むのも当然である。
しかしジルが高ランク冒険者にならない限りは、指名依頼も強制力が無いので簡単に依頼を出してスキルを使わせてもらう事が出来無い状態だ。
まるで最上級の食材を前にして使用する事が出来無い料理人の様なものである。
「では用も済んだし我は帰るぞ。」
久々に一日中働いたと言う気持ちなので、暫くはゆっくりと自由に過ごしたいと思っていた。
「うむ、ご苦労じゃった。タイタンベノムスネークはまた後日買い取らせてもらおう。ミラよ、一先ず討伐依頼の報酬を渡しておいてくれるかのう?」
「畏まりました。」
ミラに指示を出してエルロッドも引き上げていった。
ジルとミラも報酬の受け渡しをする為に受付に戻ると、アレンが待っていた。
「説教は終わった様だな。」
「全くえらい目に合ったぜ。」
タイタンベノムスネークを倒した後よりも疲れた様子のアレン。
戦闘より説教の方がよっぽどアレンにとっては辛かった様である。
「その代わりに我が報告は済ませておいたぞ。」
「それはありがてえな。面倒な報告をする手間が省けたぜ。」
それを聞いたアレンに少し元気が戻る。
特殊な依頼だったので報告が普段よりも多くなる可能性があり、アレンは面倒だと思っていたところだったのだ。
「面倒な報告って…。一応高難易度の依頼を受けた冒険者の義務なんですよ?」
アレンの発言を聞いたミラが呆れた様に言う。
その報告が無ければ今回の様な依頼は、ギルドとしても報酬を決められないので、とても重要な事なのだ。
「もう説教は沢山だ。」
ミラの反応から再び説教が飛んでくる気がしたアレンは、面倒くさいとばかりに手を振って遮る。
自分のせいではあるが、大量の魔物との戦闘に加えて受付嬢による説教で、アレンは心底疲れ果てたいた。
「…今回は大目に見ます。お二人共本当にお疲れ様でした。そして依頼を引き受けてくれてありがとうございました。」
ミラはギルドや冒険者を代表して丁寧にお辞儀をしながら言う。
ジル達が倒さなければ被害はもっと大きかったかもしれないので、ギルドとしてもとても感謝していた。
ミラがお礼の後に報酬を載せたトレイを差し出してくる。
そこには大金貨が4枚も載せられており、その額に二人は大いに驚く。
まさかSランクの魔物を一体倒しただけで、素材を含めずにこれ程の報酬を貰えるとは思っていなかったのだ。
普段の自分達の依頼の報酬とは雲泥の差である。
「こ、こんなに貰えるのか!?」
大金貨を指差しながらアレンが尋ねる。
ジルと違って大金貨なんて見るのは久々であり、信じられないと言った様子だ。
「これだけじゃありませんよ。一先ず査定が終わった分がこちらです。」
そう言って今度は金貨の入った袋を差し出してくる。
タイタンベノムスネークの後に狩った魔物の一部である。
「アレンよ、これだけあれば目的は果たせそうだな。」
「充分過ぎるって額だ…。これもジルのおかげだぜ。」
アレンは嬉しそうに手を差し出してくるので、ジルも握手に応じる。
強さや性格を間近で見て、それなりにジルもアレンの事を気に入っていた。
「言っておくがまだ査定が終わっていない分もある。それとタイタンベノムスネークの買い取りは別だから、それの方が期待出来るぞ。」
「これで全部じゃねえのかよ!」
人生でこんな額を手にしたのが初めてのアレンは、更に貰えると聞いてまた驚いていた。
「ではジルさん、後日また持ってきて下さいね。」
タイタンベノムスネークの買い取りは、ライムに変化吸収でスキルを覚えさせてからギルドに引き渡しに来なければいけない。
まだまだ大量の金が手に入ると思うと、異世界通販のスキルが捗るなと心の中で笑みが溢れた。
買いたいなと思っている物は幾らでもあるのだ。
「ああ、分かっている。アレン、引き上げるぞ。」
「おう。」
ジルとアレンの二人は報酬を受け取り、ギルドを後にして孤児院に向かう。
そして孤児院に到着すると、帰りを待っていた皆が二人の周りに集まってくる。
大人達は無事の帰還に安心して喜び、子供達は大金を見て大いにはしゃいでいた。
これで孤児院が飢える事も無くなり、ジルとしても達成感のある依頼であった。
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