元魔王様と災厄の予兆 13

 何事も無い様に呟かれたジルの言葉だったが、到底聞き流せる事では無かった。


「何じゃと?魔物はタイタンベノムスネークと聞いておるぞ?」


「私も話しを聞いて調べましたが、Aランクの魔物ですよね?」


 二人は聞き間違えたかとばかりにジルに尋ねている。

タイタンベノムスネークはAランクの魔物なので、本来なら鋼鉄とは同ランク帯の強さの筈だ。


「そうだ、なので本来ならばAランクだな。だが今回のは特殊個体だった。」


「「っ!?」」


 ジルの言葉を聞いた二人が目を見開いて驚いている。

その言葉の意味を理解しているからである。


「嘘では無い様じゃな。」


 チラリとテーブルに乗っているベルの置物に視線を向けたエルロッドが言う。

エルロッドの言葉から察するに言葉の真偽を確かめる魔法道具か何かだろう。


 万能鑑定のスキルを使ってこっそり視てみると予想通りであった。

この部屋は取り調べとしても使う事が出来るみたいである。


「嘘を付いて報酬を釣り上げるとでも思っていたか?」


 討伐対象のランクが一つ変わるとなると、報酬も大きく変わってくるのである。

せこい事を考える冒険者は一部ではあるがいるのだ。


「試したのはすまんがこう言った重要な件は人の命にも関わる。ギルドを預かるマスターとしては真実を知りたいのでな。」


「分かっている、我は使われても別に構わない。」


 ギルドの長としては確かな情報を得たいのだから、そう言った魔法道具も必要になってくる。

それを理解しているので特に咎めるつもりも無い。


「すまんのう。続きを頼めるか?」


「タイタンベノムスネークのスキルは知っているか?」


 エルロッドは元々知っており、ミラは調べたみたいなので一応確認しておく。


「弱毒と強毒の二つじゃな。」


「私も調べましたがその二つのスキルについて書かれていましたね。」


 二人共タイタンベノムスネークについての知識は備わっている様である。

これで特殊個体であるかどうかの説明がしやすくなる。


「そうだ。二つ共生き物に使う事で効果がよく分かるスキルだ。」


 どちらも身体に影響を及ぼすスキルなので、生物であれば変化が分かりやすい。

しかし木、道具、土等の物に対しては、付着はするが溶けたりする訳では無いので分かりにくい。


「それとは別でもう一つスキルを所持していた。溶解液と言うスキルだ。」


 これは毒に比べて非常に分かりやすいスキルである。

他二つのスキルと比べて様々な物を溶かす事が出来る効果を持つ。


 タイタンベノムスネークについて知識のある者であれば、実際に見れば元々持っているスキルで無い事は一目瞭然である。


「そんな厄介なスキルを持っていたとはのう。」


 溶解液のスキルの危険性はエルロッドも知っている様だ。

さすがは500年以上も生きている事はある。


「確かに鋼鉄やBランクパーティーの装備の一部が蒸発した様に消えていましたね。」


 ジルの言葉を聞いて納得しているミラ。

元々持っている毒のスキルでは出来無い芸当なので、溶解液のスキルを持っている裏付けにもなる。


「特殊個体の説明はこれで充分か?」


 エルロッドの気にしていた魔法道具がピクリとも動いていないので、疑われる事は無いだろう。


「うむ、実際に魔物を査定しても分かる事じゃからのう。持ってきているんじゃろう?」


 ジルが無限倉庫のスキルを持っている事は知られている。

それがあるのでどれだけ大きい魔物でも持ち帰れる。


「ああ、買い取りを頼むつもりだったからな。だが今直ぐに提供は出来無い。」


「む?何故じゃ?」


 ジルの言葉にエルロッドが疑問を浮かべている。

ミラもギルドに売られるとばかり思っていたので不思議そうである。


「素材が欲しいのだ。どれだけ使うかまだ分からないのでな。」


 ライムにスキルを覚えさせる為に吸収させる予定なのだが、ライムが普通のスライムでは無い事はジル達しか知らない。

なので下手な嘘をついてテーブルの魔法道具でバレない様に、何に使うかまでは伝えずに言葉を濁しておく。


「丸々引き取りたいところじゃったが仕方あるまい。代わりに一度見せてもらう事は可能かのう?」


 既に疑ってはいないが、実際に買い取る事になる特殊個体の魔物を見ておきたいのだろう。


「それくらいならいいぞ。」


「では倉庫に向かうとしよう。」


 エルロッドに続いて再び倉庫に向かう。

ギルドマスターがわざわざ倉庫を訪れるのは珍しいのか、解体員や査定員が手を止めて頭を下げている。


「そのまま作業していて構わんぞ。」


 エルロッドが一声掛けると頭を下げていた者達は作業に戻っていくが、気になるのかチラチラとこちらの様子を伺っている。


「ジルさん、どれくらいの大きさなんですか?」


 タイタンベノムスネークを直接見た事が無いミラが尋ねてくる。

調べたので大まかな大きさは分かるのだろうが、個体差や特殊個体故に見るまでは判断出来無いのだ。


「あの辺りであれば置けそうだな。」


 戦った時の大きさを思い出して、大型の魔物を置く為に空けられているスペースを指差す。

ギルドの巨大な倉庫の中でも特別かなり広いスペースなのでタイタンベノムスネークであっても収まりそうだ。


「では出してくれ。」


 許可を貰えたのでジルは無限倉庫からタイタンベノムスネークを取り出して置く。

広々としたスペースが丸々埋まる程の大きさであり、ギリギリ出す事が出来た。

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