元魔王様と災厄の予兆 12

 本来であればあまり時間を掛けずに目的の魔物を倒せたので、少し狩りをして帰ってもそれ程時間は掛からない予定だった。


 なのでアレンが稼げるだけ稼ぎたいとギリギリまで粘ったりしなければもっと早く帰れていたのだ。

そうすれば心配させる事も無かっただろう。


「と言う訳だ。」


「…私が、いえ…私達がどれだけ心配したと思っているんですか。」


 話しを聞いたミラが静かな怒りを露わにしながらジト目を向けてくる。

少し怒っているのもそれだけ心配したのだろう。


「悪かったな、もっと強く帰宅を促せばよかった様だ。」


「ぐっ、…悪かったよ。」


 ミラの様子から素直にジルとアレンは謝罪する。


「アレンさんの担当受付嬢も心配していましたよ。一言無事だったと報告してきてもいいんじゃないですか?」


 そう口では言っているが早く謝ってこいとミラの目が語っている。

出発する時にはいなかったので、後で聞かされてミラと同じく心配していたのだろう。


「…言いにいけばいいんだろ。」


 アレンは素直に従って別の受付に向かった。


「ジルさんは冒険者になってから日が浅いですから知らなかったのかもしれませんが、緊急性のある依頼の時は早めに報告する様にして下さいね?」


「ああ、覚えておこう。」


 実際そんな依頼を受けたのは初めてで知らなかったので素直に頷いておく。

そう言った依頼を早く報告しなければ、心配や要らぬ手間を掛けさせる事はよく分かった。


「ではお説教はこの辺りにして、お話しを少し伺いたいのですがよろしいですか?」


 理解してくれたのならばこの話しは終わりだと怒りを収め、ミラが依頼についての話しに切り替える。


「先に戻った鋼鉄の二人に聞いていないのか?」


 毒の治療の為にAランクパーティー鋼鉄のアイネとアダンは先に街に戻った。

魔の森で出会った時に実際に戦闘をしていたし、魔物についても教えた筈だ。


「勿論お二人にも聞いていますよ。ですが実際に倒したジルさん達からも、今回の魔物についてお話しをしていただかなければいけません。」


 緊急の依頼だったので報酬等も詳しく決められていなかった。

魔物についてしっかりギルドが把握しないと渡す報酬も決められないのだ。


「我も早く帰って休みたいのだが、後日では駄目なのか?」


 今日はジルにしては珍しく中々働いた日だった。

倒れそうとまではいかないが、早く宿屋でゆっくり休みたい。


「そんなに時間は取らせませんからお願い出来せんか?」


 先程とは違ってミラが申し訳無さそうにして言ってくる。

ギルド的には冒険者の被害がかなりあったので、どうしても今日中に把握しておきたい案件なのだ。


「仕方が無い。あちらも時間が掛かりそうだしな。」


 そう言ってジルはアレンの方を見る。

現在担当の受付嬢と思わしき者にとても心配したのだと説教されているところである。


 魔物を直ぐに倒したのに直ぐに報告に戻らなかったのがやはりまずかったのだろう。

ジルと違って冒険者歴も長いので、その事を知っていたアレンに対する説教は長そうだ。


「ではいきましょうか。」


 いつもの様に応接室に案内しようとミラが立ち上がる。


「その前に魔物を預けておくから査定しておいてくれ。話しが終わってからでは効率が悪い。」


「依頼以外の魔物ですよね。分かりました、先に倉庫に向かいましょう。」


 アレンが狩った魔物は相当な数だ。

査定にもかなり時間が掛かりそうなので、早めに渡しておきたかった。


「それではここにお願いします。」


 倉庫の空いているスペースを指差したミラに従って、ジルが無限倉庫から魔物を取り出す。

そこは魔物の死体で直ぐに山積みとなってしまった。


「い、一体どれだけ狩ってきたんですか?」


 あまりにも想定外な量にミラも引いている。


「まだ半分も出していないぞ。隣りのスペースにも出していいか?」


「はい、そちらにお願いします。はぁ、確かにこれでは時間が掛かる訳ですね。」


 次々と出される魔物を見てミラが呟く。

周りで作業中だったギルドの解体員や査定員もその量に目を見張っていた。


「これで全部だ。」


 全て出し終えると広々と空いていたスペースが魔物の死体で埋め尽くされていた。


「物凄い量ですね。」


「アレンが張り切っていたからな。」


 狩れば狩るだけ大金を稼げる事になっていたので、アレンは張り切ってどんどん魔物を倒しており、ジルも拾うのがそれなりに大変だった。


「運搬をジルさんが格安で担ってくれると聞けば、狩れるだけ狩りたいと思うアレンさんの気持ちも理解出来ますね。」


 後の事は解体員や査定員に任せて、今度こそ二人は応接室に向かった。


「待っておったぞ。取り敢えず座るとよい。」


 中に入るとギルドマスターのエルロッドが既に待っており、ジルに座る様に促してくる。


「ギルドマスター自らが出向いてくるとはな。」


 ジルはエルロッドの対面のソファーに腰を下ろしながら言う。


「それだけ今回の件が重大じゃったと言う事じゃ。」


 ジル達が倒す前にタイタンベノムスネークと遭遇した冒険者達の多くが怪我を負わされた。

ギルドとしても早急に対処したい一件であり、エルロッドも気になっていたのだ。


「それを解決してきたのだから、報酬は期待しているぞ。」


 孤児院の為にも纏まった金額が欲しい。

と言っても依頼の報酬とは別で、タイタンベノムスネークを丸々持ち帰ってきているので、素材だけでも相当な金額で買い取ってもらえる筈だ。


「分かっておる。まさかAランクパーティーでも倒せない魔物だとは思わんかったがのう。」


 エルロッドはミラの入れてくれたお茶を飲みながら言う。

エルロッドだけで無く、大半の者がAランクパーティーが向かった段階で解決したと思っただろう。


 セダン近辺でAランク冒険者が必要になる様な依頼は極めて珍しい。

そんな状況なのでAランクでも手に負えない事態なんて想像も難しい。


「それは当然だろう。魔物の方が格上だったのだからな。」


 ジルもミラの入れたお茶を飲みながら何でもない事の様に呟いた。

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