元魔王様と災厄の予兆 14.6

 ギルド的にはランクを上げて高ランクの依頼を受けてほしいのが本音だ。

ジルやアレンが高ランクとなれば数々の難易度の高い依頼をこなすのは分かり切っているのである。


「ですが今回は請け負ってくれて良かったじゃないですか。」


 二人が駆け付けてくれなければ、鋼鉄の二人や森の外で倒れていた冒険者パーティーが死んでいたかもしれない。


「全くじゃ。お主達以外のAランク冒険者はタイミング悪く出払っておったからのう。他にも一人候補はいるが、あやつは変わり者じゃしな。」


 アダンの言葉にエルロッドが大きく頷く。

そしてもう一人の候補の事を思い浮かべてこちらは溜め息を吐いている。


「自分が気になった時しか依頼を受けてくれませんからね。」


 ミラも同じ人物の事を思い浮かべて言う。

ギルドの者にとっては実力は本物だが扱いが難しいと周知の人物なのである。


「Sランク冒険者の我儘にも困ったもんじゃ。とは言え次にまた同じ様な事が起こったら、あやつにも手を借りんといかんじゃろう。」


 その者は冒険者の頂点とも言える、鋼鉄の二人よりも更にランクの高いSランク冒険者であった。

Sランク冒険者となると冒険者の中でも数が少なく、その実力の高さから多少の我儘ならば認められている程の者達だ。


「確かにジルとアレンのランクを考えればギルドの規則的に無理に頼む訳にはいかないけどさ、そんなに心配する事かい?こんな事が頻繁に起こったりはしないだろう?」


「そうですね。僕達もセダンに滞在して長いですが、こんな事が起こったのは初めてじゃないですか?」


 鋼鉄の二人は普段からセダンの街に住んでいるが、魔の森にあれ程の大物が現れたのは初めての事であった。


「そうじゃな。わしがここのギルドマスターになってからだと初めての事じゃ。」


 エルロッドも長い間セダンの街でギルドマスターを務めてきたが、Sランク級の魔物が出た事は無かった。


「では単なる偶然なのでは?」


「その可能性もあるんじゃが、一つ思い当たる事もあるんじゃよ。」


 エルロッドは一つの懸念から、今回の事を単なる偶然だったと簡単に処理する事が出来無かった。

もし思い浮かべている事が正しかった場合、再び同じ様な事が起こる可能性もあった。


「それは何なんだい?」


「スタンピードじゃ。」


「「スタンピード?」」


 その言葉に馴染みが無いのか、ミラとアイネは不思議そうに聞き返している。

しかしアダンは知っていたのだろう、驚いた様子でエルロッドを見ている。


「スタンピードとはね、何らかの理由で魔物の群勢が暴れ回る災厄の事を言うんだよ。…ギルドマスターはあれが兆候だと?」


 タイタンベノムスネークの特殊個体が突然現れた事をスタンピードの予兆と捉えているらしい。


「実質Sランクの魔物じゃったからのう。スタンピードの兆候は様々じゃが、中には高ランクの魔物が突然出現する事もあるんじゃ。もちろん考え過ぎと言う事もあるがのう。」


「それを祈るばかりですね。」


 エルロッドの言葉を聞いてアダンが神妙に頷く。

スタンピードは大きな被害をもたらす災害なので、起きないに越した事は無い。


「そのスタンピードだった場合、いつ起こるんだい?」


「分からん。兆候は今後もあるかもしれんがな。」


 事前に様々な事が起こると言うだけで、詳しい時期等に関しては分からないのだ。

だからこそいつ起きるか分からないスタンピードに対して警戒し続ける事も難しいのである。


「では魔の森の調査は定期的に行った方がいいですね。」


 時期が分からないと言っても調査や低ランク冒険者の被害を軽減する目的で、高ランク冒険者を魔の森に定期的に向かわせた方がいい。


「うむ、高ランクの冒険者用に依頼書を作成しておいてくれ。」


 エルロッドの指示に頷いたミラが、早速依頼書を作成する為に一礼して部屋を出ていった。


「あたし達も時間を見つけて受ける様にするよ。」


「そうだね。本当に起こるのなら一大事だし、違えば笑い話しで済ませられるしね。」


 鋼鉄の二人は高ランクの冒険者にしては珍しい部類の報酬よりも人助けを優先とする冒険者達であった。

報酬が普段よりも安く不人気になる可能性がある調査依頼でも積極的に受けてくれる様である。


「そう言ってくれると助かるのう。万が一に備えてあやつの興味を引けそうな物も探しておかねばな。」


 Sランク冒険者の上手い扱い方を考えながらエルロッドが呟く。

言う通りに動かせるならば、正に一騎当千の力があるくらいにSランク冒険者とは規格外の存在なのだ。


「ジルやアレンも高ランクなら、あたし達も心強いんだけどね。」


 自分達でさえも倒せなかった魔物を二人は討伐してくれた。

共に戦ってくれる事が確約されれば、安心感は桁違いだろう。


「何かをきっかけにランクを上げてくれんかのう。」


 Sランク冒険者の事だけで無く、ランクに拘りの無い実力者達の事を思い浮かべて、更に深い溜め息を吐くエルロッドだった。

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