元魔王様と災厄の予兆 7

 ジル達がきていなければ微弱な毒に気付けず、身体が蝕まれて戦闘中のミスに繋がり命に関わっていたかもしれない。


「全く気が付かなかった…。確かにそれだと足を引っ張ってしまうか。」


 Aランクの冒険者と言っても毒を受けた状態で戦っても足を引っ張る可能性がある。

それを理解して男性は潔く引いてくれた。

これもジルが少し危惧していた事であった。


 例えば先程の四人の事を完全に治療してしまえば、一緒に戦うと提案される可能性もあった。

しかし足手纏いを気にしながら戦うのは面倒だと言う理由もあり、完全には治療しなかったのだ。


「そんなに厄介な魔物だったとはね。名前はなんて言うんだい?」


 自分が毒に侵されていると分かった女性の方も戦うとは言い出さなかった。

代わりに自分達が戦っていた魔物の名前を尋ねてくる。


「タイタンベノムスネークと言う毒を使う魔物だな。Aランクの中でも厄介な部類だ。」


 ジルが想像していた魔物の中の一体ではあった。

しかしその中でも驚異度で言えば真ん中辺りである。


「Aランクか…。それなら相性的にも僕達が苦戦するのは納得だよ。」


「確かにね。あたし達には倒せないんだし、大人しく任せた方が良さそうだね。先に街に戻らせてもらうけど無理すんじゃないよ!」


「分かっている。」


 魔物について納得した二人は森の外に向かっていった。

これで四人の冒険者達は助かるだろう。


「さて戦況は、少し攻めあぐねていると言ったところか。」


 タイタンベノムスネークの身体はかなりの巨体である。

アレンの使う両刃斧もそれなりに大きいが、リーチの差は歴然だ。

長い尻尾による攻撃や遠距離の毒吐き等があるので、迂闊に近付けない状態である。


「ちっ!Aランクの魔物だけはあるな!」


 振われた尻尾を斧で弾き返しながらアレンが呟く。

戦いながらではあるが先程のやり取りを聞いていた様だ。


「補足しておくがこいつはSランクと同等だぞ。」


 戦っているアレンを見ながら平然とジルが告げる。


「はぁ!?さっきAランクって言ってたじゃねえか!」


 ジルの発言にアレンが戦いながら器用に文句を言ってくる。

先程Aランクの二人に話していた内容とは異なっているので、アレンとしては文句の一つも言いたくなるだろう。


「ああ、予想していたSランクの魔物では無く、タイタンベノムスネークだったからな。本来であればAランクの魔物だ。」


 だからと言ってジルが先程嘘を教えた訳では無い。

予想していたSランクの魔物とは違って、タイタンベノムスネークは本当にAランクの魔物ではあるのだ。


「本来はってどう言う意味だ!」


「こいつは特殊個体と言う事だ。」


 ジルはタイタンベノムスネークに万能鑑定を使ったので確信していた。


「特殊個体だと!?」


 その言葉にアレンが驚いている。

魔物は上位種や統率個体に進化する事によって強くなっていくものだ。

だが進化していなくても、同種の中で他とは違って異常な強さを持つ個体が稀に存在する。


 それは普通では覚えないスキルを持っていたり、複数の魔法を扱えたり、身体能力や身体的特徴が違っていたりと様々である。

そう言った個体が稀に現れ、それは特殊個体と呼ばれる。


 特殊個体は珍しいだけでは無く、シンプルに同種の魔物と比べて強い。

それは特殊個体と言うだけで程の脅威となるのだ。


 なので特殊個体のタイタンベノムスネークは実質Sランクの魔物と同等となる。

通常種に加えられた能力によって強さの上がり幅は変わるが、Sランククラスと見て間違いは無い。


「つまりこいつはAランクの特殊個体だから、実質Sって事か!」


「ああ、あの二人はよく耐えていられたものだ。」


 Aランクの冒険者達を称賛する様にジルが言う。

今の説明から格上相手に長時間戦っていた事になるのだ。

本来ならAランクとSランクの実力はかけ離れているので軽々と殺されていてもおかしくは無い。


 先程の冒険者達は、防御に優れていたり、連携がしっかりしていたり、経験を積んだベテランであったりと色々な要素が噛み合った奇跡的な結果だったのかもしれない。


「おいおい、Sランクなんて聞いてねえぞ!普通にやり合ってても俺じゃ勝てねえ。」


 アレンも相当強いとは言え、相手がSランクでは話しが変わってくる。

それ程までにSランクと言うのは規格外の存在なのだ。


「ちっ!使う予定は無かったが仕方ねえ。」


 アレンは何かしらの作があるのか、覚悟を決めた様に呟く。

そして一旦大きく下がってタイタンベノムスネークとの距離を空けた。

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