元魔王様と災厄の予兆 8
タイタンベノムスネークは逃がさないとばかりにアレンに迫ってくる。
「ファイアアロー!」
ジルは牽制として火の矢を放ってタイタンベノムスネークの接近を阻止する。
初級火魔法とは思えない一つ一つの火力が非常に高い火の矢が大量に放たれる。
さすがの特殊個体と言えども、黙って受ける事は出来無い様で、木を盾にしたり尾で払い飛ばしたりと防いでいる。
明確なダメージは与えられないが接近は阻止出来た。
「そのまま時間稼ぎを頼むぜ!」
「まあ待て。」
何かしようとしているアレンに向けてジルが待ったをかける。
「ん?」
「呪いの斧の効果でも使おうとしているんだろう?やめておけ。」
ジルがアレンのやろうとしている事に対して忠告すると、アレンは驚いた様にジルを見る。
反応からも言い当てれたと分かる。
「驚いたぜ、気付いていやがったか。だがこれを使わねえとあの魔物には勝てねえ。」
ジルの言った通り、アレンの持つ両刃斧は呪いの武具と呼ばれる魔法道具の一種だった。
その名の通りデメリットがある代わりに強力な能力を持つ魔法道具である。
こう言った呪いの武具のデメリットは様々であり、中には使用者を死に至らしめる程の効果を持つ物すらある。
そんな呪いの武具の一つである両刃斧にアレンの魔力が集中していたので、武具の力を使おうとしているとではと思って止めたのだ。
「我と協力すればいいだけだろう?」
「それだとそっちの負担が大きくなるだろうが。」
二人が事前に話しあった内用は、ジルが倒した魔物の運搬を担い、アレンが戦闘を担うと言う事で役割が決まっていた。
予想外にタイタンベノムスネークが強く、ジルの力を借りる事になれば仕事量が大きく偏ってしまう。
ジルを自分達の事情に巻き込んでしまった罪悪感もあり、アレンとしては呪いの武具の力を使用してでも、ジルにこれ以上頼るつもりは無かった。
「ふむ、ならば協力する代わりの取り引きだ。魔物の素材は全て換金では無く、こちらに少し融通してくれ。当然その分の金額は差し引いてもいいぞ。」
ジルはアレンが納得出来る様に提案をする。
本来であれば揉める心配が少なくなる様に、素材等も全て金に変えてから分配するのが一般的である。
だがジルとしては今回の獲物を全て換金するのは勿体無いと思っていた。
特殊個体であるタイタンベノムスネークの素材は一部でいいから欲しかったのだ。
「少し手間になるだけで問題ねえが、本当にそれだけでいいのか?」
「ああ、我としてはそれで充分だ。」
この提案はジルにとっても有り難い事であった。
理由は素材をライムに吸収させたいと考えていたからである。
タイタンベノムスネークの特殊個体は、普通では持っていない珍しいスキルを所持していた。
通常であれば弱毒と強毒と言う二つのスキルだけであった。
弱毒は死に至らしめる効果を持つ毒では無いが、受けた者の動きを鈍くする効果を持つ。
強毒は死に至らしめる効果を充分に持っており、体内の器官や細胞を破壊していく効果を持つ。
本来であればタイタンベノムスネークが持つスキルはこの二つだけなのだが、特殊個体と言う事で溶解液と言う三つ目のスキルも有していた。
これは中々に珍しく強力なスキルであり、ジルの持つスキル収納本の魔法道具にもストックは少ない。
効果は様々な物質を溶かす事が出来ると言うシンプルだが凶悪なスキルであり、ライムが手に入れれば主戦力となるスキルと言えるのだ。
「分かった、俺もそれで異論はねえ。」
「ならば早速やるか。」
ジルは話しながらも打ち続けていた火の矢を止める。
タイタンベノムスネークは、やっと止まったかと元凶のジルを忌々しそうに睨む。
致命傷にはならない魔法だが、それなりに威力があるので鬱陶しくて堪らなかったのだろう。
「シャアアア!」
反撃とばかりにタイタンベノムスネークが大口を開けて突撃してくる。
ジル達がきてから随分と鬱憤が溜まっているのか凄まじい殺意を感じる。
「ファイアウォール!」
ジルとアレンの前に地面から火の壁が噴き現れる。
タイタンベノムスネークの巨体をも上回る大きさであり、ジル達との間を完全に遮ってしまった。
「シャッ!?」
突然現れた火の壁を見て、タイタンベノムスネークは突撃をギリギリ止める事に成功した。
「作戦は簡単だ。我が隙を作るから一撃で仕留めろ。」
「へっ、シンプルでいいじゃねえか。」
簡潔にジルが伝えた内容にアレンが二つ返事で頷く。
それを確認したジルは、火の壁によって見られていない事を利用して魔装により身体能力を上げた。
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