元魔王様と災厄の予兆 6
ジルの放った火の矢が男性に向かう蛇の魔物の横っ腹に次々と命中していく。
「シャアッ!?」
突然の事に驚いた蛇の魔物だったが、素早く巨体を動かして迫り来る火の矢を躱す。
そしてジルを警戒する様に距離を空ける。
Aランクの冒険者が苦戦するだけあって、ランク選定試験の試験官の様に簡単には倒れてくれない。
「援軍かい?正直助かったよ!」
「僕達だけだと足止めが限界だったからね。」
Aランクの二人は蛇の魔物を警戒しつつジル達の方に近付いてくる。
やはり攻めあぐねていた様だ。
「ん?あんたはたしか。」
「我を知っているのか?」
女性の冒険者がジルを見て知っている様な反応をするが、ジルには特に覚えが無い。
「一度顔を合わせているんだけどね。」
忘れられている事を知った女性が溜め息を吐きながら言う。
「君はアレン君だったよね?新進気鋭の二人が援軍とは心強いな。」
「下手な高ランク冒険者達よりも頼りになりそうだね。」
二人はジルとアレンを見て素直に喜んでいる。
自己紹介するまでも無く、二人共認知されている様だ。
「盛り上がってるとこ悪いが、共闘するつもりはねえぞ。」
蛇の魔物に向けて踏み出したアレンが告げる。
背中に担いでいた両刃斧を二つとも手に取って、いつでも戦闘出来る大勢を取る。
「なっ!?援軍じゃないのかい!?」
アレンの発言に驚いた男性がジルに尋ねてくる。
「そうとも言えるし違うとも言えるな。我々は早急に金が必要なのでそちらで倒せないのなら、こちらで倒す代わりに獲物を譲ってほしいと言ったところだ。」
Aランクの冒険者達が倒せるならば、獲物を横取りする様なものなので素直に諦める。
しかし長時間戦っているところを見ると倒す手段が無い可能性が濃厚である。
「そんな事を言っている場合じゃないんだよ!あいつの脅威があんたらには分からないのかい!?」
女性が声を少し荒げて蛇の魔物の危険性を訴え掛けてくる。
実際に戦った自分達だからこそ、目の前の魔物がどれ程の脅威か良く分かっているのだ。
今はジルの火魔法を受けて警戒している様だが、あれを受けても大したダメージを受けていないところを見ると、かなり頑丈な事が分かる。
「おいジル、俺は先に相手してるぜ!」
そう言ったアレンは蛇の魔物目掛けて飛び出す。
話し合っているよりもさっさと戦いたいと言うのが本音なのだろう。
「ちょっ!?あんた!?」
「毒には気を付けろよ。」
焦る女性とは違ってジルは一言だけ背中に向かって注意掛けをしておく程度だ。
「あんた!一人で行かせていいのかい!?あいつは危険な魔物なんだよ!?」
アレンがランク以上に強い冒険者なのは知っているが、目の前の魔物に単騎で突っ込むなんて無謀としか思えなかった様だ。
「では聞くが、あの魔物の名前を知っているか?」
「知ってる訳無いじゃないか!」
ジルの質問に声を荒げて否定する女性。
そんな事を話している場合では無いと、その態度が物語っている。
「少なくともこの辺りでは初めて見た魔物だからね。」
隣りの男性も知らない様子だ。
こちらは落ち着いた返答ではあるが、いつでも助けに入れる様にアレンの方に注意を向けている。
「だろうな。戦って自分達よりも強いと言う事くらいしか分かっていないのだろう?だが我はあの魔物を知っており、その上で提案しているのだ。」
そう言ったジルの言葉に二人は驚いている。
そして二人は一対一で戦っているアレンを見て、再びジルに視線を戻す。
「君達なら倒せると言う事かい?」
「そう言う事だな。」
男性の問い掛けに平然とジルが答える。
「…分かった、倒してくれるなら魔物は譲るよ。それと万が一に備えて離れた場所に待機するけれど、それくらいなら構わないだろう?」
男性は一応ジル達に任せてくれる気にはなった様だ。
それでも万が一の時には加勢出来る様に待機するつもりらしい。
「ふむ、それだと困るのだがな。」
しかしジル達はそれを望んでいない。
「何が困るんだい?」
「それでは森の外で倒れている冒険者が死ぬのだ。応急処置はしたから今から街に向かえば助かる。」
二人には先程の四人を連れ帰ってもらわなければ困る。
ジル達が心配なのは理解出来るが、それでは冒険者達を治療したのに意味が無くなってしまうかもしれない。
「っ!?成る程、それなら僕達が連れていくしかないか。」
その冒険者達の事も知っている様だ。
さすがにそう言われては見殺しには出来無い。
「でも二人で行かなくても一人でいいんじゃないかい?」
女性は片方が残ってもいいのではないかと提案してくる。
ジル達がくるまで1時間二人で凌いできたのだ、どちらが残っても手助けくらいは出来る実力はある。
「気付いていない様だが、お前達も微弱な毒を受けているぞ。行動を若干制限する程度だがな。」
その意見を否定する様にジルが告げる。
二人はその言葉を聞いて驚いており、言われるまで自分達が毒に侵されている事に気付いてはいなかった様だ。
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