元魔王様と災厄の予兆 5
元々の前世が魔族や魔王だったからか、その頃から自在に魔法を使える存在だったのに、その二つの適性だけは無かったのだ。
しかしその他の魔法に関しては適性があり、似た様な事も出来たので特に苦労した記憶は無い。
それが転生した今も引き継がれているのか、人族となった今は幾つかの魔法適性を失っただけで光魔法と聖魔法の適性は持っていなかった。
「だが時間稼ぎくらいならば出来るだろう。」
「時間稼ぎ?」
光魔法や聖魔法以外でそんな魔法があっただろうかとアレンが疑問を浮かべる。
「ああ、解毒ポーションを持っている。と言ってもせいぜい毒の効き目を和らげる程度だがな。」
万能鑑定によって四人が毒に侵されている事は確認済みだ。
しかしそれなりに強力な毒の様で、市場で簡単に手に入る解毒ポーションでは完全には治す事が出来無い。
「そんなに強い毒なのか?」
「ああ、これから戦うんだから注意した方がいいぞ。」
そう言ってジルは無限倉庫のスキルから取り出した解毒ポーションを四人に振り掛ける。
すると四人の顔色が若干だが良くなった。
「これで街に戻るまでの時間稼ぎくらいにはなるだろう。」
少し離れた場所だが馬車が停められており馬も無事な様である。
魔の森からセダンの街までは片道1時間くらいの距離だ。
ジルの使った解毒ポーションのおかげで、毒に侵されて死に至るまで3時間くらいの猶予はある。
と言うよりもそのくらいの解毒ポーションを選んだと言った方が正しい。
当たり前の事だが四人が掛かっている毒を完全に治す手段がジルにはある。
無限倉庫のスキルの中には、エリクサー、万能薬、世界樹の雫等と言った、入手困難な世界最高峰のポーションや薬が数多く存在している。
先程は強力な毒と言ったが、この程度であればそれらを使用する事で簡単に治せるだろう。
しかし当然の様にそれらはシキによって封印項目に分けられている品々だ。
なので人前では簡単に出す事は出来無い。
完治させる手段はあるが、ある程度回復させるくらいに留めておいた。
それでも死ぬ運命から救ったので文句を言われる筋合いは無い。
「俺達のどっちかが連れてくって事か?」
解毒ポーションで少し良くなったとは言え、馬車を操れるかと言われれば否である。
誰かが馬車を使って街まで運んでやらなければ、結局助かりはしないだろう。
「それはAランクの冒険者に任せるとしよう。それなりに長い時間戦闘を続けているのだ。交代しても問題無いだろう。」
ジル達がくるまで少なくとも1時間以上は戦っている筈なので疲労も溜まっているだろう。
それに現段階で倒せていないとなると、倒す手段が無いのかもしれない。
Aランクでも倒せない魔物となると相当強い魔物が待ち構えているのだろう。
いよいよSランクの魔物の可能性も現実味を帯びてきた。
「そうだな。引き上げたら何の為にきたのか分かりゃしねえ。」
ジルの意見にアレンも同意する。
二人は当たり前の様にAランクの冒険者を御者として使おうとしているが、ランクの低いジルやアレンが担当するのが普通ではある。
しかしこの二人に限ってはAランクの者達よりも強い可能性があり、本人達も少なからずそう思っている。
なので御者をして街に引き返すと言う選択肢は自分達には無いのだ。
「お、今少し離れた場所から戦闘音がしたな。」
「あっちだな。木も幾つか薙ぎ倒されてるし間違いねえだろ。」
ジルとアレンは早速森の中に入っていく。
巨体の魔物が通過したのか、道を作る様に木々が押し倒されている。
そして音を頼りに森を進んでいくと一人の冒険者が目に入る。
「やっぱりあたしの糸じゃ足止めも出来無いね。」
苦々しく呟いた女性冒険者が幾つかの糸を操りながら言っている。
周りの木々には女性の手から編み出された糸が張り巡らされている。
そして奥には巨大な蛇の魔物がいて、張り巡らされた糸をブチブチと音を立てながら、その巨体で千切りつつ進んでいる。
蛇の魔物の向かう先には男性の冒険者がいる。
「シャアアア!」
「鉄壁!」
蛇の魔物が巨大な尾によって男性を薙ぎ払う。
鈍い音を響かせ、男性は吹き飛ばされて木に叩き付けられる。
「大丈夫かい?」
「スキルのおかげでね。」
普通の者ならば全身の骨がバラバラになる程の威力なのだが、男性は案外平気そうにしながら、尋ねてきた女性に返事をして立ち上がっていた。
これは男性の持つスキルのおかげであった。
しかし平然と立ち上がる男性を見て面白くない蛇の魔物は、張り巡らされた糸を更に千切りながら向かっていく。
「またくるよ!」
「何度だって耐えてみせるさ。」
どちらの陣営も目の前の者達しか目に映っていないので、ジルやアレンに気付いていない。
「ファイアアロー!」
こちらに気付いていない隙だらけの蛇の魔物にジルの手から大量の火の矢が放たれた。
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