元魔王様と災厄の予兆 4

 アレンも戦闘には自信がある様なので魔物での金策に反対する事は無いだろう。


「だがAランクの冒険者が倒してたら無駄足になっちまうぞ?」


 既に巨大な蛇の魔物の討伐にAランクのパーティーが向かってから時間が経っている。

既に倒されている可能性は充分にあり得る。


「その時には他の魔物を狩ればいい。アレンが倒した分だけ我が運んでやろう。」


「そいつは助かるぜ。ならさっさと行くか。」


 ジルの提案を聞いて無駄足にならない事が確定すると、アレンは俄然やる気を出した。

さっさと行くぞと言わんばかりに外に向かって歩き出すので、ジルもその後を追う。


「じ、ジルさん、ちょっと待って下さい!」


 アレンの後に付いていくジルをミラが呼び止めた。


「どうした?」


「どうしたって…。相手はSランクの魔物かもしれないんですよ!?」


 危険な魔物かもしれないと分かっていながら平然と向かうジル達に戸惑っている。

それだけSランクの魔物と言うのは強大な存在なのである。


「その可能性があるってだけで確定している訳では無い。それに例えSランクだとしても我とアレンなら問題無いだろう。」


「…。」


 堂々とSランクの魔物でも問題無いと宣言されてしまうとミラは何も言えなくなってしまう。

実際ジルの強さが規格外な事は知っているので、もしかしたらSランクの魔物すらも相手取る事が出来るのではないかと思わせられてしまう。


「おーい、さっさと行こうぜ。」


「ああ。」


 早く向かいたいアレンがギルドの出口から呼んでいる。


「ぜ、絶対に無理はしちゃ駄目ですよ!それと可能であれば、他の方々も気に掛けて下さると助かります!」


 二人が向かうのは確定事項の様なので、ミラはジルにそれくらいしか言う事が出来無かった。

そして気に掛けてほしいと言われても既に現場にいる者達が死んでいると、無限倉庫の封印項目に分けられた物を使わなければ今のジルに蘇生手段は無い。


 そして蘇生なんてこの世界では軽々しく出来る事では無いので、行えば間違い無く様々な者達に注目される事になるので簡単には使えない。

なのであまり期待されても困ると言うのが本音であり、軽く手を挙げて応える程度にしておいた。


 ギルドを後にしたジルとアレンは門を抜けると、ひたすら魔の森に向かって

魔の森で依頼をするとなれば、普通の者なら馬車を使用する。

それは徒歩だと中々に遠いからである。


 馬車でも片道1時間掛かる事を考えると、徒歩と言う選択肢は基本的に無い。

だが今はそれなりに緊急性が高い状況である。

それを馬車で1時間も掛けて向かっている余裕は無い。


「我に付いてこれるとは中々やるではないか。」


「まさか魔装まで使えるとはな。Dランクなんて詐欺じゃねえか。」


 自分よりもランクが低い筈のジルを見たアレンが呟く。

アレンが今言った通り、現在二人は魔装して身体能力を上げた状態で魔の森に向かう街道を爆速で駆け抜けていた。

馬車とは比較にならない速度であり、街からでも10分ちょっともあれば到着しそうである。


「それはお前も同じだろう。」


 アレンも一つ上のCランクではあるが、しっかりと魔装を使いこなしている。

でなければジルに平然と付いてくる事は難しい。


「これでもCランクになってから長えからな。ソロだし魔装くらい使えねえとまずいんだよ。」


 魔装は実力者の証とも言える強さを測る指標の一つである。

二人と同ランク帯の者達でも使いこなしている者は多くは無い。

この事からもアレンが実力者なのは疑いようも無い事実だ。


「そろそろ魔の森が見えてくるな。」


 遠くに見えていた森が段々と近く大きくなってきた。


「つってもここからじゃ蛇は見えねえな。巨大って話しだったよな?」


 普段と魔の森が違っている様には遠目からでは分からない。


「ああ、だが木々よりも低い位置にいるのではないか?巨大とは言え、蛇は地面を這っているからな。」


「成る程な。」


 軽い雑談を挟んで進んでいると、直ぐに魔の森の外周部に辿り着く。


「おい、誰かいるぞ。」


 到着した森の外に人の姿を見つける。

全部で四人いるが、その全員が地面に倒れている状況だ。


「息はある様だな。」


 近付いて様子を見てみると死んではいなかった。

だがその表情は苦痛に歪んでいる。


「ぞ、増援か…?」


 倒れていた冒険者の内の一人が、薄らと目を開けて苦しそうに声を絞り出す。


「そうだ。魔物の討伐にきた。」


「あいつは…化け物だ。…今は…Aランクの冒険者が…戦っている。」


 増援として駆け付けた二人に簡潔に現状の説明をしてくれる。


「まだ狩られてない様だな。魔物は俺達がぶっ殺してやる。」


 まだ片が付いていない事を知ってアレンが意気込んで言う。


「…頼む。俺達はもう…戦えない。」


「毒にでもやられたか。俺は光魔法も聖魔法も適性は無えんだ、悪いな。ジルはどうだ?」


 冒険者達の状態を確認したアレンが自分には救う手段が無い事を告げる。


「我も適性は無い。」


 ギルドでは能力隠蔽のスキルを使って火魔法しか使えない事になっているがジルには多くの魔法適性がある。

しかしそんな才能を持つジルなのだが、実は光魔法と聖魔法の適性は無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る