元魔王様と災厄の予兆 3
Bランクパーティーが命懸けで時間稼ぎをしてくれている間に馬車で一早く戻る事が出来た者達が状況をギルドに知らせて、急遽Aランクのパーティーを応援で向かわせた。
それでも魔の森までは馬車で片道1時間掛かってしまう。
高速の移動手段を持っていたとしても既に1時間は確実に経過しているので、高ランクとは言ってもBランクのパーティーが生き残っているかは不明だ。
「危険度が高そうだから中途半端な冒険者では無く、Aランク冒険者を最初から派遣したと言う事か。」
魔物のランクが分からないので、最初からギルドで直ぐに出せる最高戦力を投入したのである。
「そうなりますね。しかし先程も言った通り魔物の正体が分からないので、Aランク冒険者で対処出来るかも分からないんです。」
もし向かわせたAランクの冒険者達でも手に負えない魔物だった時の事を考えて、もう一組強力な増援を送るつもりだったのだ。
「確かにその内容だけではな。我も幾つか魔物の候補が浮かび上がってしまう。」
ジルが知っているだけでも巨大な蛇の魔物と言えば複数の候補が上がる。
現世では無く魔王時代の知識である。
「ジルは知ってんのか。俺はそんな魔物見た事ねえな。」
「博識ですねジルさん。この辺りでは見掛け無い魔物ですから、私も詳しくは分からないんです。」
この辺りではあまり見られず、素材も出回らないので二人共知らない様だ。
「名前が分からなければ断言は出来んが、知っている魔物の中ではBランク以上Sランク以下の魔物が条件に合いそうではあるな。」
記憶を頼りに条件に合いそうな魔物のランクを言う。
ランクが一つ変わるだけで魔物の強さは劇的に変化するので、詳しい情報は重要なのだ。
「Sですって!?」
ジルの言った言葉を聞いたミラが驚愕の表情を浮かべて言う。
Sランクの魔物なんてそうそう出会う事は無い。
出会ったら死を覚悟するレベルの魔物達であり、別名天災級とも言われている程だ。
「可能性があると言うだけだ。AランクやBランクの魔物もあり得る。」
巨大な蛇と言う情報だけではどんな魔物か絞りきれない。
最悪Sランクの魔物の可能性もあるが、Bランクの魔物である可能性もあるのだ。
「でもSランクの魔物の可能性も捨て切れないって事ですよね?それは困りました…。」
ミラはジルの話しを聞いて楽観視せず、最悪の状況も想定している様だ。
仮にSランクの天災級の魔物であったなら、魔の森とそれなりに離れているセダンの街でも危険なので避難勧告が出てもおかしくない。
「Sか。かなりの大金が動きそうだな。」
ミラとは打って変わってアレンは莫大な報酬が貰えそうだと考えている様だ。
Sまでいかなくても、これだけの被害を出した魔物の討伐となれば、それなりの額が動く事には変わりないだろう。
それだけあれば孤児院の現状を救うには充分である。
「可能性があるだけだと言っているだろう?だが本当にそのランク帯の魔物ならば、金には期待出来るけどな。」
Sランクの魔物となれば依頼の報酬だけでも相当貰える筈だ。
それに加えてジルの無限倉庫のスキルがあるので、魔物をそのまま持ち帰る事だって出来る。
そうすれば魔物の買い取り料金も別で手に入るので、たとえSランクの魔物では無かったとしても得られる金はかなり多いだろう。
「…まさかお二人共、向かうつもりですか?」
既に魔物を倒した後の話しをしている二人を見て、ミラは驚いた様に尋ねる。
Sランクの魔物と言えば戦える者はかなり限られてくる。
その可能性があると言うのに向かおうと思う輩は、余程自分の実力に自信のある者か己の実力も分からない命知らずの愚か者のどちらかだろう。
「その為に来たんだから当然だろうが。俺は今直ぐに大金を必要としているんでな。」
アレンとしてはいかないと言う選択肢は無い。
Sランクの魔物となれば厳しい戦いになると予想出来るが、自分と同等以上の実力を持つジルがいるのと、最悪奥の手もあるので問題無いと思っていた。
「それにミラも我に受けさせようとしていたのだろう?ならば丁度良かったではないか。」
ジルの言う通りミラはジルがギルドにくる前から頼みたいと悩んでいたのだ。
自分が宿を紹介した事もあり、ジルの住んでいる場所は知っている。
なのでギルドにジルが来なくても、ミラの方から頼みにいく事も出来た。
だが面倒な依頼を嫌がる事は知っていたので、頼むに頼めない状況だったのだ。
「そ、それはそうですが、まさか魔物のランクがSランクの可能性があるとは思いませんでしたから…。」
ミラは高くてもAランクだろうと予想していた。
Sランクなんて化け物はこの辺りでは見た事も無いので、予想に含んですらいなかった。
「まあ、依頼されなくても取り敢えず魔の森には行くつもりだったけどな。」
孤児院の為に金策をしなければならないのだ。
冒険者で手軽に金を稼ぐ手段と言えば魔物を倒す事だろう。
なので今回の依頼を受けられないとしてもどのみち魔の森に足を運ぼうとジルは考えていたのである。
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