元魔王様と災厄の予兆 2
「アレンの顔弄りも程々にして話しを聞かせてくれ。その依頼について話しを聞きにきたのが我らの目的なのでな。」
「一緒に受けるんですか?」
ミラが驚いた表情をしながら尋ねてくる。
目の前の二人とは、なんとも不思議な組み合わせであった。
「成り行きでな。」
「はえ~、珍しいですね。」
質問の答えを聞いて心底驚いた様子であった。
「そんなに驚く事か?」
「だって普段から他の方と依頼を受けているところを見た事がありませんでしたから。」
ミラはジルの担当受付嬢の様な感じなので、冒険者になった時から受けた依頼についてしっかりと把握している。
その中で誰かと依頼を受けていた記憶が無いのだ。
「そう言われるとそうか。」
普段から依頼を受けるとなると一人かシキとライムを連れてのどちらかである。
人と依頼を一緒にしたのも最初の依頼で無理矢理同行者を付けられた一回だけだ。
「それよりもさっさと依頼について聞かせろ。こんなに悠長に話している余裕があるのか?」
いつまでも雑談をしている二人にアレンが文句を言う。
アレンとしては早く大金を手に入れて孤児院の皆を安心させてやりたいのである。
「そ、そうでしたね。一応Aランクの冒険者パーティーに既に依頼したのですが、保険としてもう一組くらい実力者に頼んでおきたかったんです。」
ミラはそう言ってジルとアレンを見る。
既に依頼済みなので保険要員として依頼したいらしい。
「ちっ、先客がいやがったか。Aランクとなると出番は無さそうだな。」
舌打ちをしたアレンがそう呟く。
Aランクと言えばギルドでも屈指の実力者だ。
ジルとアレンが向かっても依頼は終わっている可能性が高い。
「ふむ、来るのが遅かったか。だが保険とはどう言う事だ?」
ミラの言葉に疑問を持ったジルが尋ねる。
Aランクで解決出来無い様な依頼がこの辺りにあるとは思えない。
そんな危険な敵が仮にいたとしたら、住民の避難誘導が始まっている筈である。
「文字通りの意味ですよ。Aランクの冒険者では解決出来無い可能性があるかもしれないと言う事です。」
ミラが言ったのは言葉通りの意味であった。
Aランクでも倒せず失敗する可能性があると言っているのだ。
「は?そんな敵がこの辺にいるってのか?」
それを聞いたアレンもジル同様に疑問を抱いている。
セダンの街で暮らして長いがそんな魔物に出会った経験は無い。
「こちらも正確に状況を把握出来ていないんです。そもそも敵の正体も分かっていません。」
これだけの怪我人を出しているのに敵については分かっていないらしい。
「依頼の目的は魔物討伐でいいんだな?」
「はい、場所は魔の森です。低ランク帯の冒険者達が活動する入り口付近に厄介な魔物が出たらしいのです。」
魔の森と言えばジルが転生後にいた場所である。
入り口付近は低ランク冒険者達の狩場となっており、奥に進むに連れて魔物の強さが上がっていく森だ。
「それでこの現状と言う訳か。」
ギルドの中にいる怪我人達の大半が低ランク冒険者である理由が分かった。
とは言えAランク冒険者で倒せない可能性がある相手に対して、逆によくその程度の怪我で済んだなと言えるくらいだ。
「他にも毒を受けて別の場所に運び込まれた方々もいますから、もう少し多いですけどね。」
解毒には専用のポーションや聖魔法が必要であり、こことは別の場所で手当てを受けているらしい。
「毒持ちか。敵の正体が分からねえと言ってたが、姿くらい見た奴はいねえのか?」
怪我を負わされたと言う事は、至近距離に怪我を負わせてきた魔物がいたと言う事だ。
であれば見ている者がいる筈である。
「殆どの方は見ていない様ですね。怪我をしている方々も、大半はその魔物から逃げていた弱い魔物達に怪我を負わされたみたいですから。」
どうやら強い魔物の出現によって、一種のスタンピードの様な状態になっていたらしい。
それであれば姿を見ていないのも納得である。
「それと最初に目撃したDランクパーティーの話しでは、巨大な蛇の様な魔物だと言う話しでした。毒もその蛇が吐き出していたらしいです。」
姿を見た者も少なからずいた様で、蛇系統の姿をしている事だけは分かったらしい。
だが詳しい種類までは分かっていないらしく、それによって危険度が分からないので依頼のランクを決められていないのだ。
「ふむ、その者達にもっと詳しい話しは聞いていないのか?」
「聞きたいのは山々なのですが、毒に侵されて意識が無いんですよ。」
姿を直接見た者達は全員毒に侵されて倒れている。
なので蛇の魔物について詳しい情報を聞きたくても無理なのだ。
「そう言った理由で大勢の冒険者が馬車や徒歩で魔の森から帰還してきまして、対応に皆追われているのです。」
ちなみに低ランク冒険者達を逃す為に、魔の森に依頼を受けにきていたBランクパーティーが代わりに魔物を相手取って時間を稼いでくれたらしい。
それによって死者を出さずに多くの冒険者達が帰還出来たのであった。
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