15章

元魔王様と災厄の予兆 1

 ジルはアレンと共に冒険者ギルドに向かった。

ギルドに近付くに連れて人が多くなってくる。

今は昼頃なので普段ならばギルドに用がある者が少なくなる時間帯だ。


 しかし近付く程に増えていき、ギルド前は溜まり場の様になっていた。

普段からは考えられない人の多さである。


「一体何があったんだ?」


「詳しくは知らねえ。だがこんな状況は異常だな。」


 普段とは明らかに様子が違う。

何かしらの出来事が起こったのは確かだろう。


「ギルドの中もか。」


 二人がギルドの中に入ると、この時間帯では考えられないくらいに冒険者が多かった。

そしてその大半が怪我を負っているのか、ポーションを持った受付嬢や冒険者が走り回って治療をし、魔法使いや神官が光魔法を唱えて回っている。


「こいつは大物が期待できそうだな。」


 辺りを見回しながらアレンが呟く。

これだけの人数が怪我を負っているとなると、厄介な魔物が現れた可能性は高い。


「ふむ、何かに襲われたのは確実だな。」


 殆どが駆け出しや低ランク帯の冒険者達の様だが、中には中堅クラスの実力者も混ざっている。

死者は見えないが大怪我を負っている者も多い。


「いつもの受付がいねえな。対応に追われてるとかか?」


 アレンがいつも利用している自分の受付が不在の様だ。

混雑を避ける為に受付は複数用意されているのだが、今は半分以上が不在の様である。

怪我を負った冒険者達の手当てが人手不足で駆り出されているのかもしれない。


「我の方はいるから、こちらに聞くとしよう。」


 ジルがいつも利用している受付にはミラがいた。

人は並んでいないがミラの左右には山盛りに積まれた書類がある。

ジル達が近付いていっても、書類を手早く処理しているミラは気付いていない。


「ミラよ、少しいいか?」


 そう言ってジルが声を掛けると、忙しく動いていた手がピタリと止まり、ガバッと顔を上げたミラが表情が明るくなっていく。


「ジルさん!すっっっごくタイミングがいいですね!実はオススメの依頼がありまして!」


 そう言いながらミラは書類の山を退かして片付ける。

仕事よりもオススメの依頼とやらの方が優先させたい様子である。

どうしても受けてほしいのか、笑顔なのだが圧を感じる。


「落ち着け、どうせ面倒な依頼でも押し付けようとしているのだろう?」


「うぐっ、な、何のことでしょうか?」


 そう言ってミラはジルから視線を逸らす。

ギルドがこんな状況の中でミラからそんな提案を受ければ、面倒事なのは直ぐに理解出来る。


「まあ、今回はその思惑に乗ってやろう。その為にギルドまでやってきたのだからな。」


 普段ならば面倒事は断るのだが、今回の目的はその件である。

あまりにも面倒な依頼であれば受けるつもりは無いが、強い魔物の討伐程度であれば報酬も期待出来るので受けたいと思っている。


「ほ、本当ですか!何と言う気まぐれなのでしょうか!でも今はとても助かります!」


 ジルの普段を知っているミラとしては、受けてもらえる可能性は低いと思っていた。

だが何故か今日はいつもと違って依頼に前向きなので、ミラにとっては渡りに船と言った感じだ。


「おや?そちらにいるのはアレンさんですか?珍しい組み合わせですね?」


 ミラがジルの後ろにいるアレンを見て言う。

普段担当している訳では無いが、アレンの事は知っている様だ。


「俺を知っているのか?」


 アレンも把握されているとは思っていなかった様で尋ね返している。


「はい、一応受付嬢ですからね。普段から対応していない方でも、高ランクの方や有望株は殆ど記憶しています。アレンさんはCランクですが実力的にはAランク相当とギルドでは評価していますからね。」


 ミラはそう言って得意気に語り聞かせる。

初見の攻撃で実力者なのは見抜いていたが、ギルドの評価もAランク相当と非常に高い様である。


 アレンもジルと同じ様な理由でランクをCで止めている。

それでも依頼の実績からそれ以上の実力がある事はギルドに知られていた。


「ほお、やはり実力者だったか。」


「Cランクながら実力が飛び抜けていて有名なので注目を集めているのですが、ジルさんは知らなかったみたいですね。」


 アレンは冒険者の間ではそれなりに認知されていた。

高ランク冒険者のパーティーもメンバーにと狙っている者が意外と多かったりする。


「注目を集めているのは顔の方だろう?」


「確かにそんなに睨まずにもう少し柔らかい表情にしていただいた方が。」


 そう言ってジルとミラがアレンの方を見る。

アレンの顔は盗賊顔負けの怖さを持っているのだ。

孤児院以外の子供であれば泣いて逃げ出すのではないかと思える程であり、一度見たら中々忘れはしないだろう。


「ほっとけ、これが素だ。」


 そう言ってアレンが面白く無さそうに顔を背ける。

自分の目付きが悪く怖い顔をしているのは、昔から自覚しているのであった。

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