元魔王様と一流の鍛治師 6
依頼をしたり異世界通販のスキルで買い物をして時間を潰していると、あっという間に指定された一週間が過ぎた。
「ここだな。」
ミラに書いてもらった地図を頼りにダナンの店まできた。
表通りの人の行き来が激しい場所では無く、人通りの少ない裏道に店は構えられていた。
国でもトップクラスの鍛治師がこんな場所に店を構えているとは誰も思わないだろう。
「邪魔するぞ。」
中に入ると普通の武具屋と言った印象だ。
剣、槍、斧、盾と様々な武具が並べられている。
どれも良い出来だが、先日見たナイフ程では無い。
「来たか、待っていたぞ。」
万能鑑定で武具を見ていると奥の扉が開きダナンがやってきた。
寝不足なのか目元にクマを作っているが、それを感じさせない程の満足感のある表情である。
「刀は出来たか?」
「当たり前だ。自分の指定した期日を過ぎる程、計画性が無い訳ではない。」
その表情からも納得の出来る刀を打てた事が久々と伝わってくる。
「そうか、最高の一本と言っていたから期待しているぞ。」
「任せておけ。そこいらの武具とは比較にもならん。」
そう言ってダナンがジルの見ていた武具を指差す。
観察していたのは分かっていたらしい。
「失敗作か?」
先日見せてもらったナイフと比べると、どれも遥かに見劣りしてしまうのでそう尋ねた。
「修行中の弟子の物だ。わしの本来の品を並べて騒がれるのも面倒だからな。」
「悪い、まさか他人の物だったとは。」
ダナンが打ったとばかり思っていたので、他人の物を失敗作呼ばわりした事を謝罪しておく。
シキやミラ曰く、エルダードワーフとの取り引きは国家規模の交渉だと後々教えられた。
鍛治師としての実力が知られて大勢に押し掛けられない為にも弟子の品物を並べているのだろう。
とは言っても一般的な者達が使う分には充分過ぎる出来栄えである。
「わしに言わせれば失敗作と言ってもいい物ばかりだから気にするな。」
エルダードワーフの目から見れば、大抵の品がそう判断されてしまうだろう。
厳しい評価ではあるがダナンの下で修行すれば間違い無く腕は上がるだろう。
「付いてこい。」
ダナンが扉の中に入りながら言うので、その後ろを付いていく。
「こいつだ。名は銀月と名付けた。」
奥の部屋のテーブルの上には一本の刀だけが置かれていた。
鞘に入れられた状態だが、なんとも凄まじい存在感を感じる。
「抜いてもいいか?」
ダナンが頷くのを確認して鞘から刀を抜く。
銀月と名付けられた刀の刀身は、とても透明感のある銀色が特徴的であり、装飾品とされたがるのも分かるくらいに美しかった。
名前の通り月の様に輝かしい刀である。
「おお!期待以上だ。」
銀月を見たジルは素直に驚く。
自分でも魔王時代に数多くの武器を作ったが、打って作った訳では無いので、どちらかと言うと魔法武器と言うカテゴリーだ。
鍛治師の様に時間を掛けて打って作っていないからか、銀月からはダナンの魂が込められている様な不思議な雰囲気を感じる。
「当然だ、わしが打ったんだからな。」
ジルの反応を見て大仰に頷く。
寝不足になりながらも満足のある一本を打った甲斐があったと言うものだ。
「では約束のミスリル鉱石を渡そう。」
「その前に試し斬りだ。銀月を扱う実力もこの目で見てみたいからな。」
無限倉庫から取り出そうとしたがダナンは早く銀月を使ってみてほしいらしい。
そのまま裏庭に案内され、目の前にはいくつもの巻藁が置かれていた。
武具の性能をチェックする為の場所なのだろう。
「どれでもいい、刀で斬ってみろ。」
「ふむ、では早速。」
銀月を抜いて巻藁に向けて軽く振るうと、綺麗な切断面を残して巻藁を真っ二つにした。
力をそんなに入れていないのだが相当な切れ味である。
「そんなに力を入れていないのにこの切れ味か。」
「次は刀特有の技、居合と言うのを見せてみろ。」
銀月の切れ味に驚いていると、ダナンが居合と言う技を実践しろと言ってきた。
「居合とはなんだ?」
「刀を鞘から抜き放つ技だ。速度、威力共に高く、剣には無い持ち味だな。」
ダナンがそう言って動作を交えながら教えてくれる。
名前は知らなかったが、その動作に見覚えはあった。
「居合とは抜刀の事だったか。見た事があるからやり方は知っている。」
魔王時代の配下の一人が刀で同じ様な事をしていた。
その者は相当な実力者だったので、ダナンの言う通り居合に適した武器なのだろう。
ジルは一旦銀月を納刀して、別の巻藁の前に立つ。
配下の姿を思い出しながら体制を変えて、勢い良く銀月を抜き放った。
言葉通りに目にも止まらぬ早さで引き抜かれた銀月によって巻藁が斬られる。
銀月が巻藁を左から右に通過したにも関わらず、巻藁は最初の状態からピクリとも動いていない。
なのでダナンが近付いて巻藁を押してみると、巻藁が綺麗にスライドして地面に落ちた。
「上出来だ。これなら…。」
ダナンの台詞は直後辺りに響く、ドンガラガッシャーンと言う盛大な音に掻き消される。
何事かと音の方を見ると、少し先にあったダナンの物置である小屋が、建物ごと斜めにスライドして崩れていく最中であった。
「わしの物置きがっ!?」
崩れる中に武具も確認したが、それらは全て建物であった瓦礫の下敷きとなっていく。
「あー、悪い。弁償はミスリル鉱石でいいか?」
悪気は当然無かったが、自分のせいで壊した事には変わりないので、罰が悪そうにしながらダナンに尋ねる。
「…我ながら恐ろしい武器を打ってしまった様だ…。」
溜め息を吐きながらダナンはジルの持つ銀月を少しだけ恨めしそうに見て言った。
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