元魔王様と一流の鍛治師 5

 その反応を見たダナンは大きく頷く。


「他に誰がいるんだ。受付嬢の目線でいい、小僧の実力を教えてくれ。」


 本人や仲間に聞いても過剰な評価で話しをされては、正確な実力は把握出来無い。

受付嬢の忖度の無い意見を聞きたいのである。


「戦っているところを直接拝見した事はありませんが、申し分無いと思います。おそらく当ギルドでもトップクラスの実力者ですから。」


 ミラはジルの戦っているところを見た事は無い。

だがランク選定試験の惨状やギルド員の意見は大量に聞かされていた。

その情報から考えても、とてもでは無いが新人や中堅と一緒に出来るレベル帯で無い事は明白である。


「なに?このギルドにはSやAもいたと思うが?」


 その情報を聞いたダナンが過大評価しているのではないかと尋ね返す。

このギルドには冒険者のトップクラスでもあるSランク冒険者も在籍している。


 Sランク冒険者とは少ないけど面識もあるので、目の前の筋肉も大して無く強そうに見えない男が、あの化け物と同程度とはとてもダナンには思えなかった。


「はい、ジルさんのランクはDですけど、既にその方々と実力は遜色無いと思います。」


 しかしミラの意見は変わらない。

本人の希望でランクはDのままだが、既にギルドではいつでもBやCに上げてもいいと思う者が何人もいる。

ダナンがその発言を受けてミラをマジマジと見返すが、ミラはただ頷くだけだ。


「どうやら冗談を言っている訳では無いらしいな。」


 その様子を見て本心から言っているのだろうとダナンも納得する。


「殆ど魔法戦闘だけどな。武器も久々に握ってみたいと思ったんだ。」


 魔王時代には様々な武器を製作したが、自身の膨大な魔力にいつまでも耐えられる武器は無かった。

オリハルコン、ヒヒイロカネ、アダマンタイトと世界でも有名で性能の高い希少な鉱石を使って沢山製作した。


 それでも魔王の力に耐えられる武器は無かった。

そんな様々な武具が無限倉庫には大量に存在する。

今ならそれらの武器も使えるとは思うが、魔王時代の自分が使える様にと作った物ばかりである。


 なのでそれらは国宝級クラスの物ばかりであり目立つのは確実だ。

それらに比べればミスリル製の武具なら持っていてもそれ程驚かれる事は無いだろう。


「成る程な。実力に問題が無いなら当然受けてやる。どんな武器を求める?」


 ダナンは納得したのか武器の製作を引き受けてくれた。


「刀と言う名前の武器だが知っているか?」


 異世界通販で取り寄せた異国の武器なので、この世界に存在するかは分からない。

その国から召喚された勇者達が広めていれば、この世界に根付いている可能性はあった。


「確か東洋の国でそんな武器を誰かが広めていたな。作った事は無いから調べる時間は必要だが最高の一本を打ってやる。」


 さすがはエルダードワーフ、鍛治には絶対の自信がある様で作った事の無い武器でも自信満々である。


「それでもう一つの頼みの方はなんだ?」


「ミスリル鉱石をインゴットにしてもらいたい。」


 ジルのもう一つの頼みはミスリル鉱石のインゴット化だ。

現状はミスリルを多分に含む岩の塊と言う状態なので、インゴットにする為に製錬や精錬と幾つかの工程をこなす必要がある。


 インゴットの状態に加工すれば、魔法道具の材料としても使えるし、その方が売る時にも都合が良い。

なので所持している大量のミスリル鉱石を全てインゴットに変えたいと思っている。


「何?そんな雑用誰でも出来るだろ?」


 ダナンはその話しを聞いて何故自分に頼むのかと尋ねる。

この世界の鍛治師であれば大半の者が出来る事だ。

わざわざダナンがしなくても出来る者は沢山いる。


「ついでにダナンに頼んだ方が安全だろう?持ち逃げの心配も無いしな。」


 皆が高価だ貴重だと言うから、持ち逃げの心配をして武器製作する者に一緒に任せるつもりだったのだ。


「確かにこれ程のミスリル鉱石ならば盗もうと考える奴もいるか。報酬はなんだ?」


「それもミスリル鉱石で払おう。」


 ダナンが一番欲する物を報酬とした方がやる気も上がるだろう。

高価で貴重な物と言っても無限倉庫の中には使いきれない程の数がある。

そんなに心配する必要は無いのだ。


「へっ、こんな気前の良い客は初めてだな。わしに全部任せておけ!」


 過去にも人族と取り引きした事はあるが、少しでも安く取り引きしたいと言った感情を持つ者が大半で、ジルの様な相手は珍しかった。


「ああ、頼んだぞ。前払いはこれくらいでいいか?」


 そう言ってジルは無限倉庫のスキルを再び使って、ゴトゴトと追加でミスリル鉱石を取り出す。

机の上にはミスリル鉱石の山が出来ている。


「…さすがに貰い過ぎだ。一先ず三つくらいあればいいだろう。」


 その光景を見て呆れながら、ダナンはバックに仕舞って言う。


「出来たらそこの受付嬢に知らせればいいか?」


「それでも別にいいが。」


 ダナンがミラを指差すのでジルも構わないと言ってミラを見る。


「私がよくありませんよ!そんな国家規模の品物の受け渡しに、私を関わらせないでください!」


 しかしミラとしてはそんな取り引きに関わるのは御免であった。

なのでミラが抗議した結果、自分達でやり取りする事になった。


「調べる時間も含めて五日、いや一週間後だな。わしの鍛冶場まで来い。早速取り掛かるから場所は受付嬢に聞いてくれ。」


 そう言ってダナンは、席を立ち上がって部屋を急いで立ち去った。

待ちに待ったミスリル鉱石を手にしたのだ、早く作業に取りかかりたくて仕方が無いのだろう。


「ドワーフが鍛冶と酒に目がないのは本当みたいですね。後で地図を書いて渡しますね。」


「ああ、頼むぞ。」


 腕の良い鍛治師を探していたが、まさかエルダードワーフと知り合えるとは思っていなかったので、今から武器の完成が楽しみだとジルは感じた。

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