12章
元魔王様と異世界の料理 1
冒険者カードを剥奪されない為の定期的な依頼を昨日したばかりのジルは、暫くギルドでの依頼を受けなくてもいいと言う事で、宿屋でのんびりとした時間を過ごしていた。
「ジル様、そろそろお腹が減らないです?」
「そうだな、昼食にするか。」
異世界通販のスキルで購入した本を一旦閉じる。
そしてジル達は部屋を出て一階の食事処に向かう。
泊まっていない客であっても利用出来る食事処は、食事が美味しい事もあってそれなりに人気だ。
なので昼や夜は混む事も多いので、ジル達は多少時間をずらして利用している。
なので今は人が少ない。
「ジルさん達昼食だよね?」
ジル達に気が付いた宿屋の看板娘でもあるリュカが尋ねてきた。
客が少なくなってきたと言っても、宿屋は女将とリュカの二人だけで経営しているので、それなりに忙しそうである。
「ああ、腹が減ってきたからな。」
「リュカ、いつもみたいにライムの分も頼むのです。」
既に何度も食事しているので、やり取りにも慣れたものだ。
最近ではライムの食事もここで一緒に食べている。
「はーい、ちょっと待っててね。」
リュカは水を置いて厨房に向かう。
少しすると両手に料理を持ったリュカが戻ってきた。
女将が手早く作ってくれた料理である。
「お待たせ、蒸かし芋と野菜スープだよ。ライムちゃんは芋の皮ね。」
そう言って持ってきた料理がテーブルに並べられる。
そしてライムに出された料理は嫌がらせと言う訳でも無い。
ライムは雑食なので基本的に好き嫌いせずになんでも美味しそうに食べる。
今も目の前に置かれた芋の皮を早速美味しそうに食べているところだ。
宿屋側としても捨てるつもりの物だから処理してくれて助かると感謝しているのでお互いの為になっている。
「ごゆっくりどうぞ。」
「リュカちゃん、注文いいか?」
「はーい。」
リュカは他の客に呼ばれて注文を取りにいった。
残されたジル達だが、ジルとシキは料理にまだ手を付けておらず、ライムだけが美味しそうに芋の皮を食べていた。
「シキよ。」
「はいなのです。」
目の前に置かれた料理をお互いが見ながら語り掛ける。
「我は昼食を食べるたびに思っている事がある。」
「きっとジル様の思いにシキは同感なのです。」
そう言った二人は、料理から視線を外して互いを見る。
「「そろそろ飽きた(のです)。」」
料理を作ってくれた女将や運んでくれたリュカに悪いので、お互い小声でのやり取りだが綺麗に意見が一致した。
宿の料金には朝昼晩の食事代も含まれるので、出される食事は宿任せだ。
そして別の料理をメニューからも注文する事は可能なのだが、それは食べにきただけの客と同じく別料金が発生してしまう。
なので泊まっている者達の食事は、損をしたくなければ自然と出されるものに従う形になるのだ。
「さすがに毎回同じ食事だとな。」
晩は料理の種類にも幾つかバリエーションはあるが、朝昼は殆ど固定と言える。
蒸かし芋や野菜スープなどは、この宿屋に泊まってからずっと食べ続けているメニューなのだ。
「仕方が無いとは思いつつも不満もあるのです。」
「仕方が無いのか?」
シキは諦めている様だがジルとしてはなんとかしたいと言う気持ちだ。
「一般的な宿屋とかは毎食同じとか普通なのです。ここは晩御飯に違いを付けているだけ凄いのです。」
どうやら一般的な宿屋の中では、ここは当たりの方らしい。
他の宿屋では毎食同じと言った事も普通にあり得るのだとか。
「高い宿代になれば、それだけ食事も豪勢になると思うのです。でもここはとってもお得な値段なのです。」
貴族向けの宿屋ともなれば、さすがに毎回違うメニューを出してくる。
そう言った変化でも付けなければ、また使ってもらえなくなるからだ。
だが平民に対してそう言った運営をする宿屋は少ないだろう。
貴族と平民では圧倒的に数が違うので、そこまでする余裕が無いのである。
この宿屋は良心的な値段なのに三食付きで晩飯に差を付けているだけでもシキの中ではかなり評価が高い様だ。
一応それでも続けているのだから儲けは少なからず出せているのだろう。
「ふむ、手頃な宿代だから食事が同じでも我慢するしかないと言う事か。」
それでも文句があるのならば、そう言った宿屋に変更すればいいだけだ。
「逆に手間の掛からない料理だから安く出来ると言う事もあるのです。」
平民をターゲットにしているので、なるべく懐事情に寄り添っていそうだ。
そうなると宿側にもどうしようも出来無い問題は出てくるのだろう。
「しかし我としては違う料理も出してほしいところだな。」
せっかく魔王から転生して食の楽しみを知ったと言うのに、同じ食事ばかりしていては有り難みが薄れる。
なので出来れば様々な食事を楽しみたいと言うのがジルの本音であった。
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