元魔王様と最強のメイド達 7

 ジル達が集落へと戻ると、いつも以上に警戒した鬼人族達が見張りをしていた。

ナキナが自分の代わりにと頼んだらしい。

なので帰還してきたジル達を見て皆が安堵している。


 最大戦力であるナキナが戻ってくれた事で、ようやく警戒を緩める事が出来る。

いつオーガ達に襲われるかと言う張り詰めた空気がずっと続いており、それだけで体力や気力を消耗して皆ヘトヘトであった。


「ジル様、終わったのでしょうか?」


 集落から巫女のキクナが歩み出てきて尋ねてくる。

当然キクナのスキル、占天術・天啓による予知の件についての事だ。


「ああ、一先ず予知の件には片を付けられただろう。」


 鬼人族を滅ぼそうとした者達については分からずじまいだが、脅威の排除には成功した。


「そうですか…。」


 それを聞いてキクナは心底安心したと言った様子だ。

周りの鬼人族達からも不安な様子が薄れていく。


「皆の者、ジル殿の協力あって、無事に脅威を退ける事が出来たのじゃ。今夜は宴じゃ!」


「「「おおおおお!」」」


 ナキナの言葉に歓声が上がる。

ずっと脅威に怯えて不安だった気持ちを直ぐにでも忘れさせてやりたいのかもしれない。

今は鬼人族が無事だった事を喜ぶべきだろう。


「全く勝手な事を。ですが今は皆の無事を祝いましょう。」


 ナキナが言った宴の準備に早速取り掛かっている皆を見ながらキクナが言う。


「…皆であればよかったのじゃがな。」


「えっ?」


 戦いの結末を知らないキクナがナキナの言葉に困惑している。


「一先ず場所を移すとしよう。この雰囲気に水を差す事をハガンは望んでなかろう。」


 そう言ってナキナは皆が宴の準備をしている場所とは違う方向に歩き出す。


「ハガンに何かあったのですか?」


「うむ、話せば長くなるのじゃ。」


 ナキナはキクナに戦いで起きた事を説明した。

ハガンが既に殺されていた事、そのハガンに魔族が憑依していた事、大量のオーガが召喚された事、自分やキクナが標的だった事と沢山だ。


「そうでしたか。そんな事が。」


 あまりにも情報量が多く、全てを直ぐに理解するのは大変である。


「うむ、後日盛大に弔ってやろうではないか。」


「そうですね。ジル様、ハガンを連れ帰ってくださりありがとうございました。」


 キクナが深々と頭を下げて言う。

無限倉庫のスキルに収納しただけなので全く苦労は無いのだが、身内を戦場から連れ帰ってもらえただけで嬉しいのだろう。


「気にするな。同胞の近くで眠れた方が幸せだろう。」


 死して戦場に取り残されるよりも、仲間達の元に帰れるのならばそれが一番である。


「そうじゃな。ここに降ろしてやってくれ。」


 そこは多くの墓石が並ぶ墓地であった。

原因は分からないが墓石の数だけ鬼人族達が弔われてきたのだろう。

大きな木箱が幾つか置かれており、その中の一つにハガンを入れてやる。


「ここには我々の同胞が多く眠っています。ハガンもここに戻る事が出来て感謝している事でしょう。」


「それならば我としても運んだ甲斐がある。」


 死体はしっかりと弔ってやらなければ、ゾンビやスケルトン等の魔物として蘇る事もある。

魔物となった生前の同胞を害したいと思う者はいないので、弔いは後日しっかりと行うらしい。


「さて、いつまでも暗い雰囲気でいてはハガンに怒られてしまうのじゃ!宴と決めたならば存分に楽しまなくてはのう!」


 そう言ってナキナが高笑いをしながら皆の元に戻っていく。


「賑やかな奴だな。」


「あの子なりに本心を隠して我慢しているのだと思います。」


 キクナはナキナの後ろ姿を見て、悲しげな表情を浮かべる。


「我慢?」


「ハガンは同胞を守る為に力を付け、誰よりも率先して戦ってきました。そして数年前、強くなると決めたナキナを鍛えた師匠でもあります。本当はハガンを失った悔しさで泣きたい筈ですのに。」


 ナキナはハガンを師匠として、共に戦う同志として尊敬していた。

後に自分の方が高い実力を身に付ける事になったが、その気持ちはずっと変わらなかった。


 そんなハガンがいつの間にか魔族に殺され、憑依されていた事に気付けなかったとなれば、ナキナの悔しさは計り知れない。


「それは、強いな。」


「ええ、本当に。」


 ナキナは戦いにおける強さだけでは無く、心の強さも手に入れていた様だ。


「さて、我々も向かいましょう。今日は存分に楽しんでいってください。」


 先程の場所に戻ると既に料理や酒が着々と並べられており宴会ムードであった。

今回の戦いの立役者とも言えるジル達は、鬼人族達に盛大にもてなされた。


 メイドゴーレム達は無限倉庫に収納したので、シキやライムが鬼人族達のおもてなしをその分受けている。

ジルの前にもいつ終わるのかも分からない行列が並び、ひたすら感謝された。


 既に人族だと嫌悪感を出す者もおらず、フレンドリーに皆が接してくれている。

唯一ジルの前世を知るキクナだけが、失礼がないかとハラハラしながらその様子を見守っていた。

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