元魔王様と暗躍する謎の集団 9

 先程とは違い統率個体もそれなりにいるので、普通のオーガでさえ簡単に倒せない様である。


「姫様だ!姫様が来てくれたぞ!」


 絶望的な戦いに耐えていた鬼人族達に活気が戻る。

鬼人族の中でもトップの実力者を持つナキナならば、戦況をひっくり返す力も充分あるので士気が上がるのも当然だ。


「待たせてすまんかったのう。ジル殿はどうしたんじゃ?」


 オーガ達から同胞を庇いつつ、姿が見えないジルの事を尋ねるナキナ。

やられていないのは真契約の恩恵で分かるがシキも状況は気になる。


「洞窟で大量の敵を一人で引き受け戦っておられます。我々は外の相手を任されました。」


 外にいるオーガの量も多いが、洞窟内には統率個体の中でも格が違うオーガキングがいた。

どちらの相手が大変かと言えば間違い無く洞窟内である。


「ならば早く倒して助太刀に向かうのじゃ。二人共、妾の懐に隠れておれ。」


 付近はオーガが大量にいるので、二人を下ろすのは逆に危険になると判断した。

そしてナキナは二つの小太刀を構え、同胞達を鼓舞しつつオーガの群れに突っ込む。


「なんだよ、あのガキはいねえのか。」


 懐に潜ろうとしていたシキは、そんな声が後ろから聞こえてきたので思わず振り向く。

するとこちらに手を向けたハガンが、魔法によって一瞬で作り出した岩を放ってきていた。


「お姫様、危ないのです!」


「えっ?」


 オーガとの戦闘に意識を集中していたナキナには、シキの忠告が残念ながら間に合わなかった。

ガラ空きの背中に岩の塊が当たり、革製の防具にめり込みながらナキナを軽々と吹き飛ばす。

咄嗟の事に近くにいた鬼人族達も反応出来ずにいた。


「ぐうっ。なんのつもりじゃ、ハガン。」


 地面に倒れたナキナがハガンを睨み付けながら言う。

まさか仲間から襲われるとは思わず、警戒していなかった事もあって綺麗に攻撃を貰ってしまった。

背中から伝わる刺す様な痛みから、骨に幾つかヒビが入っていそうである。


「ハガン、貴様血迷ったか!」


「姫様になんて事を!」


 鬼人族達もハガンの異常行動に対して、怒りを露わにしつつ武器を向ける。


「おいおい、俺と争っている場合か?」


 ハガンがニヤニヤと言いながら周りを見回して言う。

オーガ達が鬼人族を囲む様に陣取っているのである。

鬼人族達の現状に興味は無いとばかりにオーガ達が攻撃を仕掛けてくるのでハガンに構う余裕が無い。


「ハガン、貴様が…工作員か!」


 地面に倒れながらハガンを睨むナキナが言う。

明らかにナキナ目掛けて攻撃をしたところをシキや鬼人族達が見ているので、言い逃れは出来無い状況だ。


「はっ、話しを続けるとは随分と余裕だな。自分の置かれた状況が分かってねえのか?」


 鼻で笑ったハガンがナキナの後ろを顎で示しながら言う。


「ゴガアアア!」


「くっ!」


 痛みで振り向けないナキナもオーガの声を聞けば、危険な状況である事くらいは分かる。

だが痛みで素早い動きは出来ず、攻撃されても避ける事が出来無い。


 しかしこのまま無防備な状態で攻撃を受けてしまえば懐に入っているシキとライムも危険に晒してしまう。

せめてシキとライムだけでもと力を振り絞り投げる。


「お姫様!」


 ナキナに投げられたシキの目には、オーガの大きな拳によって上から殴られそうなナキナが見えた。

直後に爆音と土煙が舞う。


「おいおい、今の殺してねえだろうな?せっかくの計画を潰しやがったら、てめえをぶち殺すだけじゃ割りに合わないぜ?」


 ハガンはナキナを殴ったオーガを睨み付けながら言う。

それを見たオーガがビクッと身体を震わせて後退りする。

どうやらオーガ達はハガンの指揮下にある様だ。


「うっ…、カハッ!」


 地面に倒れ伏しているナキナが血を吐く。

先程の攻撃で折れてしまったのか、足が変な方向に曲がってしまっている。

かなり重傷だがかろうじて息はある。


「さすがは鬼人族、大した生命力だな。」


 ナキナが生きている事に一先ず安心したハガンが言う。

目的は生捕りなので死なれては困るのだ。


「おや、上手くいった様ですね。」


 ナキナを生捕りにしたハガンに向けて、気さくに声を掛けてくる者がいた。

黒いフードに身を包んだ男である。


 死にやすい様に弱らせたオーガサモナーを配置していた洞窟の方から歩いてきた。

ハガンが自分で殺すか、鬼人族達を誘導して殺させようとしていたのだが、上手い事やってくれたと思われる。


「あ?てめえ、まだいやがったのか。」


「酷い言われ様ですね。せっかく足止めをしてあげましたのに。」


 フードの男は悲しそうな顔をしながら、やれやれと首を降って言う。

ハガンはその仕草にイラッとしながらも気になる事を聞く。


「足止めだと?」


「洞窟内にいる人族、私が言っていたイレギュラーですよ。奥の手の陣形魔法まで使って時間稼ぎをしておいてあげたのです。」


 フードの男は得意げに自分の成果をハガンに自慢した。

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