元魔王様と暗躍する謎の集団 8

 少し時間を遡り、ジル達が調査に向かった頃、集落に残った者達も見張りや見回りを念入りに行っていた。

シキとライムはナキナと共に行動している。


「ジル殿達は大丈夫かのう。」


「ジル様がいればどんな敵でも問題無いのです!」


 ライムもシキの言葉に同意する様にプルプルと揺れている。

この世界に誕生してから日が浅く、ジルやシキとの関わりも短いが、充分規格外な強さを持っている事はライムもよく分かっているのだ。


「随分と信頼しているんじゃな。」


 精霊にこれ程信頼されている人族を見た事が無いので、素直に出た感想である。


「当然なのです。ジル様の一騎当億のご活躍をずっと見てきたのです。」


「千を超えて億とは、凄まじい強さじゃのう。」


 シキの言う事を疑っている訳では無いが、最近人族がそれ程の活躍をしたと言う話しは聞いた事が無い。

それもその筈で、シキが言っているのは魔王時代の話しだ。

ジルの前世を知っている巫女のキクナならば即座に同意したと思われるが、それはナキナの知らない事である。


「なんと言っても世界最強にして最恐の魔…。」


「ん?どうしたんじゃ?」


 饒舌に語っていたのだが、突然口を開けたまま固まるシキ。

話している最中に失言に気付いて内心焦っている。


「ま、ま、魔法の使い手なのです!」


「ほほう、それ程の魔法の使い手じゃったか。今度見せてもらいたいもんじゃな。」


 なんとか取り繕う事に成功したシキは、密かに安堵の溜め息を吐く。


「むっ!」


 楽しく雑談していたが突然ナキナの表情が変わり、集落の外を険しい表情で睨む。


「どうかしたのです?」


 シキもつられて同じ方を見るが特に何も見えない。


「戦闘音じゃ。しっかり捕まっているんじゃぞ。」


 どうやら遠くから戦闘音が聞こえたらしい。

しかし周りの者達の反応を見るに気付いたのはナキナだけの様だ。


 警戒していたからか互換が研ぎ澄まされている。

シキとライムをそれぞれ左右の肩に乗せたまま、戦闘音の聞こえた方に走り出す。


「早いのです!?」


 勢いよく集落を飛び出すナキナ。

周りの景色があっという間に流れていき、直ぐに現場に到着する。


「オーガなのです!」


 森の中では鬼人族の集団とオーガの群れが戦闘を繰り広げていた。


「うむ、二人は待っておるのじゃ!」


 そう言ってシキとライムを地面に下ろし、オーガの群れに突っ込んでいく。

腰に下げた二つの小太刀を抜き、流れる様に斬り掛かる。

一番近いオーガの首を一瞬で飛ばし、ついでとばかりに近場のオーガの得物を持つ手を二本切り落とす。


「姫様、オーガは10体程です!」


「統率個体もいる様です!」


 いきなり飛び込んできたナキナに驚く事も無く、冷静に現状を伝える鬼人族達。


「分かったのじゃ。皆、命を最優先に考えるんじゃぞ。」


 ナキナはそう言いながら次々とオーガ達を倒していく。

鬼人族達も連携しながら倒しているが、ナキナの圧倒的な殲滅速度にはかなわない。


「シキ、聞こえるか?」


「ジル様!?助けてほしいのです!」


 頼れる主人から意思疎通による呼び掛けがきた。

思わず魔物が近くに現れたので不安で救援を呼び掛けたが、どうやら必要無さそうである。

それよりも話しによるとジルのいる場所の方が更に大変な状況らしい。


「このままいけば勝てそうなのです。」


 ナキナが確実に数を減らして、数の優位を活かして立ち回り、オーガの群れは直ぐに殲滅出来た。


「お疲れ様なのです。」


 オーガの群れが現れた時は焦ったが、おかげでナキナが相当強いと認識出来た。

戦闘に関しては素人同然なシキなので、実際に自分の目で見るまで個々の戦闘能力がどれ程のものなのか分からないのである。


「無事みたいじゃのう。それにしてもいきなりオーガが現れるとはのう。」


 数日前まで集落周辺に危険な魔物は全くいなかったので異常な事である。


「それに関してはジル様から連絡が入ったのです。あっちは100体以上のオーガと戦闘中らしいのです。」


 それ程のオーガと戦闘中となると、確実にジル達の方で何かが起こったのだろう。


「なんじゃと!?つまりあちらで何か起こったと言う事か。」


「多分そうなのです。加勢に向かうです?」


 ナキナは集落の防衛の鍵でもある。

加勢に向かうかどうかはナキナの判断次第だ。


「うむ、見過ごしてはおけんじゃろう。幸いな事に集落周辺から戦闘音はせん。ジル殿達の場所に固まっておるのじゃろう。」


 ジル達の場所にいるオーガを殲滅する事に決めた。

他の鬼人族達に指示を出して、集落の防衛を強化する様に言う。


 鬼人族達は個々人でもそれなりの戦闘能力を持っているので、ナキナが一人抜けたくらいで簡単に集落が落とされる心配は無い。


「姫様、お供させて下さい。」


 一人同行する事に名乗りを上げたのは門番をしていたハガンである。

ジルに対する態度が悪かった事からシキの中での印象は最悪だ。


「よかろう。では行くのじゃ。」


 再びシキとライムを肩に乗せたナキナが言う。

ハガンの態度は悪いが昔からの付き合いでその実力の高さはよく知っている。

連れていけば強力な戦力となる事は間違い無い。


「お姫様、ジル様はあっちにいるのです。」


「了解じゃ。」


 契約の恩恵により主人の居場所がシキには分かる。

シキの指差した方角に向かうと、直ぐにナキナが戦闘音を聞き取った。

そして大量のオーガ相手にジリ貧な戦いを繰り広げながら、必死に耐える鬼人族達を見つけた。

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