元魔王様と暗躍する謎の集団 10

「陣形魔法?それにイレギュラーだと?てめえが前に言っていた奴か?」


 ハガンは前にイレギュラーについての話しを聞いていた。

フードの男が任務を失敗した原因になった人物である。


「ええ、なんと言う偶然でしょうか。まさかこんなところで再びお目に掛かるとは。」


 フードの男は驚いたと言う表情をしながら言うが、フードで目元まで隠れているのでよく見えない。


「てめえが引っ張ってきたんじゃねえだろうな?」


 ハガンがそう言ってフードの男を睨む。

尾行されてここまで連れてきたのではないかと疑っているのだ。


「全くの偶然ですよ。元雇い主との事が起こる前には街を出ていましたから。」


 その疑いに関して否定する。

見つかる前に脱出してきたので尾行される心配は無い。


「ふん、まあいい。それよりも陣形魔法を使う程の相手なのか?」


 陣形魔法は多種多様な魔法の中でも事前準備が必要な面倒な魔法である。

その代わりに様々な効果を発動させられるメリットもある。


「言ったでしょう、イレギュラーと。あれは人であって人で無い存在ですよ。貴方と同じ様なね。」


「黙れ、殺されたいのか?俺の事を無闇に口にするんじゃねえ。」


 ハガンがフードの男を睨み付ける。

今の言葉が癇に障った様である。


「そんな殺気ばかり向けないで下さいよ。こちらは一仕事終えたばかりなんですから。ついでに洞窟の入り口も封鎖して、見張りも立ててありますよ。」


 フードの男が洞窟の方を指差しながら言う。

確かに入り口だった部分が無くなって岩の壁になっており、人型の土人形が入り口だった部分に多数配置されている。

どちらも土魔法によって作られた、ジル対策の時間稼ぎだと思われる。


「随分と用心深いこった。」


 ハガンはそれを見てそこまでやる必要があったのかと疑問に思ったが、フードの男の用心深さは知っているので納得した。


「ジル様に何をしたのです!」


 シキはハガンとフードの男に向けて言う。

ジルと契約したシキには居場所が分かる。

そして二人が話している方向が正にジルのいる場所なのだ。


「あ?なんだ、まだいやがったのかチビ。とっくに逃げ隠れたのかと思ってたぜ。」


 ハガンはシキを見下ろしながら言う。

特に自分にとって障害にもならなそうだったので興味が無かった。


「おや?あの精霊は確かイレギュラーの。」


 フードの男はシキに見覚えがあった。


「人族が連れていた精霊だ。」


 ハガンは門番をしていたので、ジルがシキを連れて訪ねてきた時の事を覚えていた。


「そうですね、遠目で見た時に一緒におりましたから。捕らえれば利用価値があるかもしれませんよ?」


「なら捕まえておくか。精霊は高く売れるし、あの人族の人質にも使えるしな。」


 ハガンはフードの男の提案にのる事にした。

精霊は希少な存在で出会おうとして簡単に会える存在では無い。

故に裏取り引きなどで高値で売買出来るのだ。


「っ!?ライム、石化を使うのです!」


 自分を捕らえ様と近付いてくるハガンに石化のスキルを使う様にライムに指示を出す。

ライムはプルプルと揺れて了承の意を示し、スキルを発動させる。


「スライムが石化だと?」


 シキの言葉に半信半疑のハガンだったが、実際に自分の足が徐々に石に変わっていくのを見れば信じるしかない。

だが石化の侵蝕速度が思ったよりも遅いので特に慌てる事も無い。


「ほお、初めて見ました。特殊な個体でしょうか?助けはいりますか?」


 フードの男は感心しながら石化されていくハガンを観察している。

石化のスキルを使うスライムなんて聞いたことも無いのでとても珍しく光景だ。


「冗談言ってんじゃねえぞ。これくらいなんて事はねえ。」


 そう言ってハガンが身に付けていた指輪に魔力を流す。

すると指輪が淡く輝き、石化されていた足が徐々に元に戻っていく。


 状態異常を無効化にする魔法道具である。

他にも幾つも指輪を身に付けているので、それらも魔法道具である可能性が高い。


「そんな、ライムのスキルが効かないのです!?」


 石化はとても強力なスキルである。

しかしライムはまだまだ成長途中で、スキルの力を充分に発揮する事が出来ていなかった。


「スキルが強くても使い手が雑魚だとこんなものだろうよ。今のが奥の手なら、俺には何も通用しないぜ?」


「ハガンさん、捕らえるなら早くした方がよろしいですよ?」


 シキに対して得意げになっているハガンにフードの男が言う。


「あ?何故急ぐ必要がある?」


 目的は既に殆ど達成されている。

邪魔なイレギュラーも洞窟内に閉じ込めたと言っているので、急ぐ必要性を感じない。


「イレギュラーですよ。抜け出してこられたら、全て台無しなんて事もあるかもしれません。」


 フードの男は陣形魔法で拘束したが、それでもジルの事を気にしていた。

あのイレギュラーならば自分の奥の手すらも簡単に破ってしまうのではないかと。


「てめえがさっき陣形魔法を使ったと言ったんだろうが!それともチャチな魔法でも使いやがったか?」


ハガンがフードの男に詰め寄る。

強力な陣形魔法と言っても、供物等で性能が変わったりもする。

今の発言からフードの男が供物を節約して、十分な効力が出ていないのではとハガンは思った。

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