元魔王様と暗躍する謎の集団 2.5
ジル達が鬼人族の集落を訪れた夜。
皆が寝静まった頃を見計らい、一人の者がある場所を目指して集落を抜け出した。
目的地に着くと一人の人族の男が待っており手を振っている。
「ったく何の用だ。潜入中に呼び出しやがって。」
呼び出された男は不機嫌そうに言う。
任務の内容上あまり不自然な行動は取りたくないのである。
「申し訳ありませんね。近くに寄ったのでご報告をと思いまして。」
人族の男は口ではそう言っているが申し訳無いとは全く思ってなさそうだ。
それが更に男の機嫌を損ねる。
「ちっ、早く言いやがれ。」
イライラした気持ちを隠さずに言う。
「結論から言いますと権力者の駒の用意と資金稼ぎの任務は失敗に終わりましたのでやり直しです。惜しいところまでいったのですけどね。」
人族の男はやれやれと首を振りながら言う。
悪びれた様子も無く反省していないのが丸分かりだ。
「てめえ、俺をイラつかせる為に来たのか?」
男は呼び出した人族の男の胸ぐらを掴み上げて言う。
「イレギュラーがいたのですからご容赦願いたいですね。巻き添えで今頃死んでいたかもしれないのですから。」
イレギュラーが全て悪いので自分には責任が無いと言いたい様だ。
「けっ、てめえが死にそうなところなんて見た事ねーよ。」
そう言って掴んでいた手を離す。
会う度にイライラさせられるが、実力だけは認めているのである。
「本当ですって、信じて下さい。」
「んな事はどうでもいいんだよ。その為だけに呼び出したってのか?」
他人の任務の失敗に関しては別にどうでもいい事であった。
失敗した者だけに責任がいくので特に興味が無い。
「それがもう一つイレギュラーが重なってしまいまして。」
人族の男は溜め息を吐きながら言う。
「金が尽きたとかふざけた内容なら殺すぞ。」
「そちらも頂ければ嬉しいのですが…、冗談ですよ冗談。」
男が殺気を放ちながら武器に手を掛けたので慌てて否定する。
これ以上冗談を言えば本当に斬り掛かってきかねない。
「今身動きが取れなくなってしまったのです。」
「は?なんでだ?」
特に怪我をしている様にも見えない。
それに怪我をしていても平然と動き回れそうな奴と認識している。
「やはり気付いていませんでしたか。結界ですよ結界。」
そう言って人族の男は上を指差す。
目で見える訳では無いので、伝える為に指した感じだ。
「集落に張られているのなら知ってるぜ?」
鬼人族の集落には人族から見えない様に見た目を偽る結界が張られている。
「それとは別です。おそらく感知系の物ですね。運が良いのか悪いのか、ここに来てから結界が張られてしまいました。」
その結界のせいで下手に動けば気付かれる可能性があると言う。
「まだ気付かれてはいないって事か?」
「どう言った種類かによりますが、ここは魔力感知されないエリアですから問題無いでしょう。ですが事が終わるまではここを動けませんね。」
結界が解除されるまではこのまま待機するしか無いとの判断である。
「ちっ、もう直ぐ準備が終わって仕掛けるところだ。邪魔すんじゃねーぞ。」
準備にはそれなりの時間が掛かっている。
邪魔されて同じく任務失敗とはなりたくないのである。
「しませんよ。暇ですから少しサポートでもしておきましょう。」
ただ待機するだけなのも暇なので、そう申し出る人族の男。
「弱体化でもさせたらぶち殺すからな。」
男はそう言い残して集落に戻る。
夜とは言え持ち場を長時間離れれば怪しまれる可能性がある。
「人族の来客といい、直前に面倒事が重なりやがるぜ。」
離れてから呟いたので、人族の男には聞こえていない。
これが後の結果を変えたかもしれない事を男が知るよしも無かった。
「やれやれ怖い人ですね。弱体化なんてミスはしませんよ。」
男がいなくなってからそう呟く。
そして後ろにある洞窟に入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます