元魔王様と暗躍する謎の集団 2

 既に何かしらの問題が起こっていると判断したジルは早速行動を開始する事にした。

キクナとナキナの両名と共に屋敷を出る。


「当然こうなるよな。」


 集落にいた鬼人族達がジルを見て皆驚いている。

人族のジルは来た日に謝礼を渡して帰らせたと皆に報告されていた。

なので今ジルがここにいる筈が無いのである。


「皆の者静まれ!今から事情を話す故、よく聞いてほしいのじゃ。」


 そう言ってナキナが呼び掛けると、ざわついていた者達が皆押し黙る。

さすがは鬼人族の姫、しっかりと発言力がある。


 そしてナキナがジル達の事を説明してくれる。

その間に不審な者がいないか観察していたが特に見当たらなかった。


「と言う事じゃ。故にジル殿には滞在してもらっていた。工作員の可能性を考慮したとは言え、黙っていてすまなかったのじゃ。」


 そう言って謝罪しながら頭をナキナが下げ、キクナもそれに続く。

鬼人族のトップである二人が頭を下げる光景に皆目を丸くしている。


「あ、頭をお上げ下さいお二人共!?」


「巫女様のスキルならば疑う者などおりませぬ。」


「巫女様、姫様、これからの指示をお願い致します。」


 巫女と姫に頭を下げられた者達が慌てた様に言う。

誰も隠していた事に対して文句を言う者はおらず、二人が信用されているのがよく分かる。


「これから原因の調査をジル様が行われます。何が原因かは分かりませんが、危険である事は確かでしょう。」


 スキルによる予知の通りならば、鬼人族を滅ぼす何かがあるのだ。

調査が危険なのは確実である。


「妾は集落での異常発生に備えて待機する故、ジル殿とは別行動となる。だがジル殿だけを調査に向かわせる訳にもいかぬじゃろう。」


 どこで問題が起こるか分からないので、鬼人族の最高戦力には集落を守ってもらわねばならない。

しかし自分達の問題なのでジルの方で何かが起こる事も考えて鬼人族を同行させたい。


「危険を承知でジル様と共に調査をしてくれる者はいますか?」


 キクナが集まった者達に問い掛けると、意外な事に数名の手が挙がる。

人族嫌いの鬼人族が行動を共にしたいと思う筈が無いと予想していたので、これは予想外の結果である。


「すまんがよろしく頼む。何かあったら直ぐに妾に知らせてほしいのじゃ。」


 名乗りを上げてくれた有志の者達にナキナが言う。


「ジル様もお気を付けて。」


「ああ、そっちもな。我も連絡役としてシキとライムを預けていくとしよう。」


 精霊と契約している者には様々な恩恵がもたらされる。

真契約をしているジルは、その内の一つである意思疎通をシキとの間でする事が出来る。


 意思疎通はどんなに離れていても脳内での会話、テレパシーの様なもので情報のやり取りが可能なのだ。

これがあれば瞬時にお互いの状況把握が可能となる。


 そしてライムにはシキの護衛として残ってもらう。

まだまだ護衛としては力不足だが、強力なスキルでもある石化を使う事が出来るので、何かあれば役に立つだろう。


「分かりました。お預かり致します。」


「ジル様、無事に帰ってくるのを待っているのです。」


 ライムもプルプルと揺れてシキの言葉に同意している様だ。

どちらもジルの実力を理解しているからこそ、無事に帰ってくる事を疑っていない。


「では行ってくる。」


 ジルは鬼人族達を引き連れて集落を出た。


「正直意外だったぞ。誰も手を上げるとは思っていなかったからな。」


 ジルがそう言って隣りを歩く鬼人族に話し掛ける。

誰も名乗りを上げなかった時は、一人でいくつもりでいたくらいだ。


「鬼人族は皆人族を嫌っていますから、そう思うのも当然でしょう。我々もそれは同じですから。」


 自分を偽らずに素直な気持ちを言ってくる。


「ですが我々は恩知らずではありません。貴方に受けた恩を前にして、嫌いだなんだと言っている場合では無い。」


 自分達の気持ちよりも優先する事があるのだと言っている様だ。


「恩?」


「我々は皆貴方に子供を救われた者達です。」


 そう言われると見覚えのある者がちらほらと見える。

奴隷狩りから助けた子供達を集落に連れて行った際に、子供達を抱きしめていた者達であった。

どうやらその恩に報いたいと思ってくれている様だ。


「恩返しと言う程役に立てるか分かりませんが、今は人族の貴方の命令に従うと約束しましょう。」


 一人の鬼人族の言葉に皆が頷いている。


「ふっ、懐かしいものだ。」


 その様子を見て思わず呟いた。

それは昔の光景を思い出させた。

魔王時代は配下達を従えている事が当たり前だったので、まるでその頃に戻った様に感じたのだ。


「何か仰られましたか?」


「いや、気にするな。」


 不思議そうにしている鬼人族の者達にそう返して、辺りの警戒に気持ちを切り替えた。

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