元魔王様と鬼人族の巫女 6
「その特別なスキルを我に使ったと言う事か?」
キクナの話した内容から、何かしらの情報はスキルで得たのだと思われる。
「間接的にですけれど、その捉え方で構いません。私が持つスキルは占天術・天啓と言うスキルになります。」
「聞いた事は無いな。」
少なくともそう言ったスキルを自分を含め周りの者達は所持していなかった。
それでもシキはどこからかスキルの情報を仕入れた様だ。
「近い未来に身の回りで起こる出来事を知れるスキルだったと思うのです。」
近い未来と曖昧な言い方をしているのは、起こる日を確定で認識出来る訳では無いからだ。
それでも数日のうちには起こるらしい。
「さすがは精霊様、博識でございます。付け加えるとすれば、完全に分かる訳では無く断片的にですね。そしてお連れした理由でもあります。」
どうやら礼を述べる為だけで呼ばれた訳では無い様だ。
どちらかと言えばこちらが本当の理由と言った感じだ。
「ふむ、スキルによって知った未来の出来事に我々が関わっていると言ったところか。」
その説明を受ければ、呼ばれた理由はそれしかないだろう。
何かしらの未来の出来事に巻き込まれた様だ。
「その通りです。状況的に見て間違いは無いでしょう。」
キクナが発言を肯定する様に頷く。
「内容は聞いてもいいのか?」
「勿論です。私が得た情報は、滅ぶ、鬼人族、救世主、人族、超越者の五つの単語です。」
これがスキルによる断片的な予知だ。
組み合わせによっては違う解釈も出来そうな単語である。
「どう解釈したのだ?」
「滅びを迎える筈の鬼人族を超越者の如き人族が救世主となって救う。ここにいる者達で話し合った結果です。」
そのまま単語を繋げればそう言った文章になるだろう。
「でも人族によって鬼人族が滅ぼされるのを、超越者が救うとも捉えられるのです。」
シキの言う通り、組み合わせを変えれば全く違う予知となる。
考え方によってはジルが真逆の存在同士と捉えられる。
「確かにその可能性もあります。貴方が人族のスパイとして、鬼人族の集落を突き止めた可能性も。ですがこの目で見た自分の感覚が大丈夫だと告げているのです。」
キクナは観察眼に相当な自信がある様だ。
年の功と言う奴だろう。
「それで話し合った結果、我に助力を求める事にした訳か。」
鬼人族側で話し合って決めた予知とするならば、ジルは救世主として残ってもらわなければならない。
原因は分からないが救世主として助けてほしいのだ。
「勝手な事だと承知していますがそうなります。種族を滅ぼす様な結末は、なんとしても避けなければなりませんので。」
どんな手段を使ってでもと言う覚悟が見える。
助力する者が人族でも、それで鬼人族が救われるなら気にしないと言った様子だ。
「事情は分かった。時間はあるし見捨てるのも後味が悪いので付き合うのは構わない。しかし滅ぶ原因が分からなければ対策のしようがないぞ?」
魔物、病気、天変地異と滅ぶ原因は様々だ。
救世主になれと言われても、なんでも即座に解決出来る様な力は転生した時に失っている。
「申し訳ありませんが、原因は分かっていません。スキルの再使用には時間が掛かりますので、その時に新たな情報が分かる可能性はあります。」
強力なスキル故にクールタイムが存在する様だ。
新たな情報を得るには、少し待たなければならない。
「そうか。ならばその時まで待つしかないな。」
「はい、そしてその前に話しておきたい事があります。」
キクナはより一層真剣な表情をして言う。
「なんだ?」
「その前に貴方達は席を外して下さい。」
キクナは部屋にいる他の鬼人族に向けて言う。
どうやら今からする話しは他の者にも聞かせたくは無いらしい。
「ですが巫女様…。」
「やはり我々は護衛として…。」
護衛や給仕係の者達はキクナ一人を人族と一緒に残していきたくない様子だ。
いくら救世主と思われても、人族と一緒にさせるのは不安なのだろう。
「前もって話していた筈です。何かあれば直ぐに呼びますし、貴方達も保険は掛けたでしょう?」
なんらかの対策はしている様だ。
とは言っても何か手を出すつもりも無いので保険は無意味に終わるだろう。
「…分かりました。何かあれば直ぐに駆け付けます。」
「人族の者よ、変な気を起こせば恩人とて、その首は貰い受けるぞ。」
「気を付けるとしよう。」
キクナの護衛の者達がそう忠告して部屋から出ていく。
全員が部屋から出払ったのを確認して、キクナが遮音結界を張った。
これで中の音は外に聞こえなくなる。
「ふぅ、やっと
キクナはそう言って溜め息を吐いた。
「どう言う事だ?」
キクナの言動の意味が分からないジルが尋ねると、突然キクナが床に頭を付けてひれ伏した。
突然された理由が分からない。
「先ずは数々の無礼、誠に申し訳ありませんでした
キクナはひれ伏したままの状態でそう口にしたのだった。
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