元魔王様と鬼人族の巫女 5

 ナキナを先頭にジル達は建物の中に通される。

木造で出来ている建物なのだが、見た事の無い造りだ。


「ふわ~、和風建築なのです。」


 建物の中を見回してシキが言う。

目をキラキラさせて楽しんで見ている。


「お!まさか知っておるとは、シキ殿は博識じゃのう。」


「和風建築?」


 ジルには聞き馴染みが無い言葉であった。


「異世界から来た勇者の祖国の建築方法らしいのう。妾の先祖が話しを聞いて、見様見真似で作ったらしい。中々落ち着く造りで、妾達も気に入っておる。」


 素材として使われている木々の匂いで心が安らぐらしい。

確かに建物の中にいるのに自然の中にいる様な感覚である。


「シキも最近本で読んだから分かったのです。生で見られて嬉しいのです。」


 その本とは異世界通販のスキルで購入した物だろう。

知識だけで無く実物を見られた事に感動しているのだ。

中の構造を楽しみながら奥に進む。


「さあ、ここじゃ。巫女様、客人をお連れ。」


 先程までと違い、畏まった口調でナキナが言う。

ここにくるまでにも何回か聞いた巫女様と呼ばれる者が中にいる様だ。


「どうぞお入り下さい。」


 中からナキナに返答する様に声が掛かり、障子が左右に開かれる。

両開きの扉は存在するが、スライドする扉と言うのは初めて見るので、ジルとシキは物珍しさを感じる。


 中には巫女服を身に付けた鬼人族と、護衛や給仕係と思われる鬼人族達がいた。


「ナキナ、ご苦労様でした。」


 巫女服の物腰柔らかそうな鬼人族のお婆さんが言う。

ナキナは案内役を頼まれていた様だ。


「失礼致します。」


 一礼してナキナはこの場を後にした。

どうやら共に入る訳では無いらしい。


「どうぞ楽にされて下さい。」


 招かれて中に入ったが、周りが気になり楽にはなれなそうだ。

護衛達が険しい表情で自分を見ているからである。


「そう警戒なさらないで下さい。」


「と言われてもな。」


 正直それは無理な話しだ。

中の護衛達から浴びせられる鋭い目付きで、自然と警戒してしまう。

戦いに身を置いていた者ならば当然の反応だ。


「この者達は普段からこの様な感じです。人族だからと警戒している訳ではありませんよ。」


「初対面では判断しかねる。鬼人族の態度は見てきたからな。」


 集落の中では正に生きた心地がしなかった。

様々な場所から敵意や殺意を感じ、襲い掛かってこられなかったのが不思議なくらいだった。


「仕方の無い事ですね。双方の間には簡単に埋まる事の無い溝が出来ていますから。」


 鬼人族としても人族を簡単に許す事なんて出来無いだろう。

ジルと直接的な関係は無いが理解はしているつもりだ。


「その様だな。だから我の事は気にしないでくれ。」


 簡単に解決しないのならば、お互い警戒しているくらいが逆に大事が起こらないのである。


「そうしましょう。申し遅れました、私はキクナ・デリモーン。この集落の纏め役兼巫女をしている者です。」


 そう言って巫女のキクナが頭を下げる。

ナキナと同じデリモーンと言う事は、巫女と姫は血縁関係にあると言う事だ。


「ジルだ。連れの名はシキとライム。」


 紹介されたシキとライムがぺこりと小さく頭を下げている。


「可愛らしいお仲間ですね。そして遅くなりましたが御三方共、子供達を助けて下さり本当にありがとうございました。」


 そう言ってキクナが深々と頭を下げる。

そして周りの鬼人族も続いて頭を下げている。

憎んでいる相手にそんな事をするなんて中々出来る事では無い。


「成り行きだから気にしないでくれ。単なる偶然だ。」


 あの時大勢の気配は感じていたが、わざわざ見に行く事は無かっただろう。

シキが偶然あの現場を見たからこそ助ける事が出来たのだ。


「その偶然が私達にとっては値千金なのです。私達の新たな世代には、種族の未来が掛かっておりますから。」


 ジル達が気が付かなければ、数年前の悲劇の繰り返しとなっていただろう。


「我としても助けられて良かったとは思っている。我には鬼人族に対して思うところは無いのでな。」


 鬼人族を奴隷にしたいと考えているのは一部の人族だ。

それなのに同じ人族だから敵だと判断されてしまえば、異種族との交流なんて出来無くなってしまう。


「勿論存じております。。」


 全てを見通した様な表情でキクナが言う。


「人を見る目には自信があると言う事か?」


 キクナと出会うのは初めてなので、そこまで言い切られる理由が分からない。


「それもあります。無駄に長い年月を生きている訳ではありませんから。ですが今回に関してはスキルによるところが殆どですね。」


「スキルか。」


 この世界に存在するスキルは正に千差万別である。

そう言ったスキルがあっても不思議は無く、ジルが知らないスキルもあるだろう。


 知識の精霊であるシキでも全てのスキルを把握出来てはいないだろう。

そんな事を出来るのは神以外にはいない。


「鬼人族の始祖、その血を色濃く受け継ぐ者には、特別なスキルが宿るのです。」


 ジルはそんな話し聞いた事が無いのでキクナの言葉が本当かどうかは分からない。

チラッと横にいるシキを見てみる。


 するとこちらを見てコクコクと小さく頷いていた。

さすがは知識の精霊、鬼人族に関しても何かしら知っている様だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る