元魔王様と初めての依頼 4
「それにしても同行役なんて久しぶりだわ。」
エルーが昔を思い出して懐かしそうに呟く。
「そうなのか?」
新人冒険者には同行者を必ず付けると言っていたので、既に冒険者として活動している者達は頻繁に受けているのだろうとジルは思っていた。
「普通ならDランクくらいの人がする事なのよ。今日は私のパーティーの活動が休みで、ギルドで一人暇にしてたら、丁度良くミラさんが頼んできたから引き受けたの。」
エルーは自分のランクと同じく、パーティーもBランクなのだと教えてくれた。
パーティーを組んだ際のランクは、所属している冒険者達のランクの平均となる。
なのでパーティーでもBランクと言う事は、高ランク冒険者がパーティー内に多く、非常に優秀なパーティーであると言う事になる。
「普通Bランクの方に新人冒険者の同行役を頼む事はありません。報酬も少なくて、受ける側にメリットがありませんからね。」
ゾットが気になっていた理由を教えてくれた。
Bランクの冒険者となれば、ジルが今受けている様な依頼の報酬の何十倍、何百倍にもなるのだ。
基本的に新人が危険な状況にならないか監視や指示をするだけで、動く事は滅多に無いので楽ではあるのだが、身入りの良い依頼を受けた方が圧倒的に得である。
「ふむ、ならば何故受けたのだ?」
本来ならばDランクが受ける依頼なので、受付嬢に頼まれたとしても断れた筈である。
ゾットはギルドの職員なので仕方無かったかもしれないが、エルーに受けるメリットは無さそうである。
「報酬を少し上乗せしてくれたってのもあるけど、殆ど興味本位よ。」
「興味本位?」
エルーと出会ったのは先程が初めてなので、興味を抱かれた覚えは無い。
「Bランクにわざわざ頼んできた理由が気になってね。ミラさんの気にする冒険者が、相当弱い新人冒険者かスムーズに依頼をこなしたい大物新人冒険者かのどちらかだと思ったの。」
エルーの二つの予想は正反対のものだが、どちらも高ランク冒険者が必要となる案件だ。
新人冒険者が弱かった場合、殆ど護衛依頼の様な形になるので、Dランク冒険者では万が一が起こる可能性もあるのだ。
逆に殆ど無い事だが新人冒険者が相当強かった場合、Dランクの同行者が足手纏いとなり、逆に迷惑を掛ける事になる。
しかし同行者を付けるのは、あくまで死者を防ぐ目的であり足を引っ張る事では無い。
それらを考慮して高ランクの者を同行者に付ければ、万が一にも死者を出す危険性も無いし、高い実力を実戦で直接見て評価出来る。
ランクの査定にもなる為、無駄になる事は無い。
「エルーさん、正解は後者ですよ。ギルド側からも普通はDランク相当の試験官が同行しますが、彼にとっては足手纏いになるとのミラさんの判断です。」
どうやらゾットの話しを聞くとミラが気を遣って高ランクの者達を選んでくれたらしい。
これならば依頼をスムーズに終わらせて、日帰りも充分可能である。
「あら、随分と期待されているのね。有能な新人冒険者なら、依頼を受けて知り合っておけてよかったわ。」
冒険者には横の繋がりを大切にする者も多い。
同じパーティーで無くとも、冒険者同士助け合う事は活動していく上でよくある事なのだ。
「期待するのは自由だが、裏切っても我は知らんぞ。」
これから討伐する対象は魔物の中でも弱い部類のゴブリンである。
多少実力があればゴブリンに苦戦するなんて事は無いので、大仰な立ち回りをする必要も無いのだ。
「試験官を十数人あっという間に倒せる程の実力ですからね。ゴブリン討伐依頼程度で本来の実力は測れないでしょう。」
「えっ?試験官を十数人?どう言う事なの?」
ゾットの言った言葉を聞いてエルーが尋ねてくる。
エルーは試験官とのランク選定試験については知らない様だ。
気になったエルーがしつこく聞いてくるので、ジルは魔の森に着くまでその話しを暫くさせられる羽目になった。
ランク選定試験の話しをしている内に魔の森の入り口に到着した。
ここからは新人冒険者が自分で考えて行動し、同行者は後ろから付いていきながら、行動に対して指導してくれるらしい。
「話しを聞いた感じだと、ただ歩いているだけで終わりそうね。」
エルーは大きく身体を伸ばしながら欠伸をしている。
ランク選定試験について聞いて、ジルの実力が相当高い事が分かったので気楽な気持ちになったのだろう。
「まあ、アーマードベアを単騎で倒す程の実力らしいですからね。」
アーマードベアはギルドに売却したので、ゾットも把握していた。
今から倒すゴブリンとは比べ物にならない高ランクの魔物である。
「え?アーマードベアってCランクの魔物のアーマードベアの事よね?私でも普通に手こずる相手なんだけど…。」
「とにかく硬いですからね。近接戦闘を生業としている我々には不利な相手ですから、仕方ありませんよ。」
二人共Bランク相当の実力者なので倒せはするが苦戦はするらしい。
戦う者によって魔物との相性はどうしてもあるので、これは仕方が無い問題なのだ。
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