元魔王様と初めての依頼 5

 見たところエルーは短剣を二つ腰に装備しているが、ゾットは格闘家なのか得物を持っていない。

パーティーの編成としては後衛が少ないが、新人の依頼には大きく響かないだろう。


「それもそうね、ジル君は火魔法が得意らしいし。」


 アーマードベアは打撃に強いが魔法には弱いのだ。

実際に戦ったところを見た訳では無いので、魔法で倒したと思っているのだろう。


「そんな事より、魔の森に入ってからお喋りばかりしていていいのか?」


 ジルはゴブリンを見つける為にも一応周囲の警戒をしながら進んでいるが、付いてくる二人は雑談に花を咲かせている。


「ギルド員としての仕事はしていますから問題ありませんよ。」


「私も警戒はしているわ。周囲に魔物はいないけど、この先からゴブリンの臭いがするわね。」


 二人共話してばかりでは無く、仕事もしっかりと行っているらしい。

さすがはベテランの実力者達である。


「ふむ、ならばその臭いの方に行くとするか。」


 ジルはエルーが臭いを感じ取って指差した方に進路を変える。


「あ、言っちゃった。コホン、敵を発見する能力も養わないとダメよ?」


 討伐対象を見つけるのも新人の役目なのだが、思わず言ってしまったエルーをゾットがジト目で見ている。

誤魔化す様に咳払いをしたエルーがジルを注意してくるが、ジルからすれば無茶を言うなという話しだ。


 当然警戒はしているのだが、身体能力が高く得に嗅覚と聴覚に秀でている獣人よりも先に見つけるなんて事は、人族には到底無理な話しなのだ。

と言ってもそこに魔法やスキルが絡めばどうとでもなったりはする。


「お、いたな。」


 エルーが指差した方角に森を進んでいくと、草むらの向こう側にゴブリンを見つけた。

ボロボロの剣を持ってキョロキョロとしているが、見つかってはいない様だ。


「早速倒すとしよう。」


 ジルは異世界通販で購入した刀を無限倉庫から取り出して草むらから飛び出す。


「どれどれ、…ってあれは!?」


「ジルさんストッ…。」


 後ろで二人が何か言い掛けていたが、既にゴブリンの目前なので話しは後だ。


「ギョギャ!?」


 突然目の前に出現したジルを見て、ゴブリンは驚きの声を上げるが、その直後にあっさりとゴブリンの首は宙を舞った。


「何か言ったか?」


 ゴブリンは倒し終えたので、ジルは振り返って何を言い掛けていたのか二人に尋ねる。


「いや、あの、それ普通のゴブリンじゃ無いのよ。」


「ゴブリンソルジャーと言うゴブリンの上位種で、Eランクに分類される魔物なのですが、ジルさんにとっては特に問題無い様ですね。」


 ゴブリンソルジャーはゴブリンの上位種であり、Gランクのゴブリンと違ってEランクと少しランクが高い。


 二人は直ぐに上位種だと気付いたので、止め様としたのだが間に合わなかった。

だがゴブリンソルジャーを一瞬で倒したのを見て、安心している。


 Cランクのアーマードベアを倒せる実力があると分かっていても、自分の目で実際の戦闘を見るまでは少し不安だったのだろう。


「そうだったか。ちなみに何か素材は取れるのか?」


 ゴブリンは魔石のみで他に価値が無いので、上位種ならばと少し期待した。


「ゴブリン系は相当な上位種でも無ければ、殆ど魔石にしか価値はないわ。」


「そのボロボロの剣を持ち帰れば、一応鋼材に再利用出来ますが、小銅貨数枚程度でしょうね。」


 労力に見あった金にはならないので、わざわざ拾う必要は無さそうである。

ゴブリンソルジャーだけを無限倉庫に回収する事にした。


 魔石だけにしか価値が無いので、後で燃やして魔石を取り出すのだ。

森の中では山火事になる可能性があるので、火の扱いには気を付けてくれと言われたので、ここで燃やしたりはしない。


「さて、次の獲物は。」


 辺りを見回すと少し遠くの草むらに隠れたゴブリンの顔を見つける。

先程と同様に速攻で近付いて刀で首を刎ねる。


「ん?」


「どうしたの?」


 不思議そうな声を上げるジルに、後ろからエルーが近付いて来て尋ねてくる。


「今倒したゴブリンが弓矢を持っていたのだが、もしかしてこれも上位種か?」


 草むらで倒れていたゴブリンは手に弓を持ち、背中には矢筒を背負っていた。

明らかに普通のゴブリンと比べて装備が良い。


「ゴブリンアーチャー、上位種のEランクの魔物です。」


 ゾットが教えてくれたが、またしても上位種のゴブリンであった。

格上と言っても討伐対象は普通のゴブリンなので、依頼達成とはならない。


 だが魔石は普通のゴブリンよりも少し大きくて価値が高い為、買い取り代金には期待できるので倒しておいて損は無い。


「臭うわね。」


 エルーが少し険しい顔付きをしながら呟く。

そしてその視線は今倒したゴブリンアーチャーに向けられている。


「確かにゴブリンの悪臭は酷いな。」


 ゴブリンは常に悪臭を放っている魔物なので、ジルも鼻を押さえたくなるくらいだ。

それが嗅覚の鋭い獣人族であれば不快で堪らないだろう。


「そっちじゃ無くて、いやそっちもだけど今のは嫌な予感がするって意味の方よ。ついでにまた見つけたわ。」


 ゴブリンの臭いがする方を指差しながら訂正する。

敵を直ぐに見つける有能な斥候であった。


「これはゴブリンの集落が出来ている可能性がありますね。」


 ゾットが真剣な顔付きをしながら不穏な事を呟いた。

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