元魔王様と初めての依頼 3
「ゴブリンの討伐か。」
「冒険者始めたてで戦う魔物と言えば、ゴブリンが手頃ですからね。討伐数分報酬も出ますし、ジルさんの実力ならゴブリン程度簡単に倒せると思います。」
倒せば倒す程に報酬が増えるので、稼ぎたいジルには丁度良い依頼と言える。
「何故誰も受けていないんだ?」
不人気な依頼しか残っていないと言われたが、この依頼は悪くなさそうに思えた。
「ゴブリンですからね。女性の冒険者で積極的に受けようとする方はいません。男性も労力の割りに旨みが少ないと言う人が多いですね。」
ゴブリンは他種族の雌と交配する事によって数を増やす魔物である。
それは人族も例外では無く、その特性や醜い見た目から女性にとっては嫌悪の対象なのだ。
そしてゴブリンから取れる素材は小さな魔石のみだ。
肉は不味く皮は防具に出来る程の強度も無い。
倒しても得られる物が無さ過ぎて、男性にも人気が無いのである。
「成る程、だが我の受けられる依頼の中ではマシな方だと言う事か。」
ジルは現在Eランクなので、Eランク以下の依頼しか受ける事が出来無い。
一番稼げそうなのはミラが渡してきた通りゴブリンの討伐依頼になるだろう。
「そうなりますね、どうされます?」
「これで頼む。」
ジルが了承するとミラは嬉しそうに依頼書の手続きに向かった。
不人気な依頼と言っても、ギルド側もいつまでも放置しておく訳にはいかない。
時間が経つに連れて報酬を上げたり、討伐数を減らしたりと冒険者に有利な条件に変えて受けてもらわなければならないのだ。
不人気な依頼もどうにか処理しなければいけないギルドとしては、そうなる前にこの依頼を処理出来て嬉しいのである。
「手続き完了です。それと初依頼には危険が付き物と言う事で、ギルド側から同行者を付ける決まりがあるので、それは了承して下さいね。」
「初耳なんだが。」
ジルは明らかに嫌そうな表情で答える。
さらりと告げられた事だが、当然聞くのは今が初めてである。
魔王から転生した事により秘密が多い身なので、見ず知らずの者を近くに長時間置きたくは無いのが正直な気持ちだ。
「直前に伝えないと嫌がって勝手に一人で向かう方もいまして。ジルさんなら心配いらないと思うのですが、新人冒険者の死亡率を減らす対策なので、すみませんが今回だけ許して下さい。」
ミラとしてもジルには必要無いと思っているのだろう、手を合わせて申し訳無さそうに謝ってくる。
それでも初依頼は冒険者が最も命を落とす確率が高いので、ギルド側としては譲歩出来無い規則なのだ。
「はぁ、分かった分かった。了承しよう。」
溜め息を吐きつつ諦めて了承しておく。
日帰りを予定しているので、足手纏いだけは来ないでほしいと願うジルであった。
手続きを済ませた後、外で待っている様に言われたので待機していると、ギルドの前に馬車がやってきた。
「貴方が新人のジル君ね?」
馬車の荷台から身を乗り出して尋ねてきたのは、犬耳の獣人族の女性である。
ミラが言っていた同行者だろう。
「ああ。」
「ミラさんが馬車を出してくれたから今回は馬車で依頼場所に向かうわ。自己紹介は走りながらしましょう。」
徒歩で向かうと思っていたので、馬車を使えるのは嬉しい誤算である。
正直馬車を使うよりも
「分かった。」
ジルは返事をして荷台に乗り込む。
広くはないが窮屈な思いはしなくてもすみそうだ。
「出発してもいいわよ。」
「分かりました。」
御者台に座った者が馬車を走らせる。
目指すはこの世界に最初に降り立った場所、魔の森である。
馬車で片道1時間程の距離なので、日帰りも可能な場所だ。
シュミットとの時は、道中の採取に時間を取られ過ぎたが、道草を食わなければ問題無い。
「それじゃあ自己紹介ね。今回の同行役に選ばれたエルーよ。自分のパーティーでは、斥候をしているBランク冒険者よ。」
エルーと名乗った犬耳の冒険者は、獣人族の特性を活かした斥候らしい。
獣人族は身体能力が高く、その中でも犬耳を持つ彼女は嗅覚と聴覚が発達している。
獣人としての高い身体能力を持ち、常人と比べて遠くの臭いや物音を感じ取れる彼女は、斥候としてかなり期待出来るだろう。
「私はギルドからの同行役ゾットです。実力的にはBランク冒険者程かと。足は引っ張りませんので、ご安心下さい。」
御者台を務める落ち着いた青年が続いて自己紹介をした。
同じBランクとなればエルーと同じくらいの実力を持っている様だ。
そしてギルドの者と言う事は、当然前回の試験官達との事も知っているだろう。
なので新人冒険者であるにも関わらず、下手に挨拶してきているのだ。
「我はジルだ。冒険者の先輩とギルドの目付け役として、至らぬ点があれば指導してくれ。」
当然戦闘には自信があるが、人族生活は始めてから一週間程度である。
魔族と人族では価値観も違うところが多いので、せっかくならばこの機会に何かと学ばせてもらおうとジルは思っていた。
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