元魔王様と初めての依頼 2
少し怒っている様だが、可愛い容姿をしているので男には効果が薄そうである。
「依頼?我は身分証が欲しかっただけだぞ?」
ジルが冒険者になったのは、依頼を受ける為では無く身分証を得る為だ。
そんな文句を言われても困る。
「まさか本当に言葉通りの意味だったとは…。こっちは期待の大型新人だと舞い上がっていたんですよ!」
ジルはギルドの試験官達を簡単に倒してしまう程の実力だ。
ギルド側から期待されても仕方が無いだろう。
「そんな事は知らん。用は済んだか?我は忙しいのだ。」
異世界通販で購入したが、まだ手を付けていない本があるので、話しは終わったと言わんばかりにジルは部屋の中へ戻ろうとする。
「このままでは冒険者カード剥奪になります。」
「何?」
聞き捨てならない言葉をミラから言われて、ジルは思わず足を止めた。
せっかく手に入れた身分証が取り上げられると言われては、話しを聞かない訳にもいかない。
「意地悪で言っている訳では無いですよ。冒険者には一定期間での定期的な依頼が義務付けられています。簡単な依頼でもいいので、何かしら受けて頂く必要があります。」
ミラが言う様にこれはギルドの方針である。
冒険者としてギルドに所属しているならば、身分の証明をする代わりにギルドに貢献しろと言う話しだ。
と言っても無理難題を言っている訳では無い。
十日に一度最低ランクの雑用依頼を受けるだけでも達成されるし、怪我や病気等で正常な活動が出来無い者は除外される。
子供でも冒険者のままでいられる程度の難易度だ。
「そんな話し聞いてないぞ?」
「冒険者になる方は、定期的に依頼をこなすのが普通なので、全く依頼を受けに来ない方なんて滅多にいなかったんですよ。」
実際ミラが受付嬢として勤めてから初めての事であった。
普通であれば冒険者となった新人は、翌日にでも依頼を受けるものだ。
ランクを上げたい、収入を安定させたい、装備を新調したい、女の子にモテたいと冒険者によって理由は様々であるが、毎日もしくは数日置きには依頼を受けるのだ。
ジルの様に登録して一週間もギルドに行かないのは、怪我や病気等のやむを得ない状況の者が普通である。
「ふむ、理由は分かった。つまりあと数日依頼を受けなければ、冒険者カードは没収されると。」
十日以内となると期限は直ぐである。
せっかく手に入れた身分証もこの数日と同じ様に過ごしていれば無くなってしまう。
「そうなります。こちらも将来有望なジルさんにそんな事はしたくないのですが規則ですので。」
ミラもジルに辞めてほしくは無いので、わざわざ知らせにきてくれたのだ。
宿の紹介はミラにしてもらっていたので、期限が過ぎる前に知らせてもらえたのは助かった。
「仕方が無い、今から依頼を受けるとしよう。」
本の続きも気になるが、身分証が無くなれば街の出入りで毎回金を取られる事になってしまう。
人族の生活を続けておくならば持っておきたい。
あと異世界通販で購入した物はそれなりに高く、無限倉庫の中のお金も既に無くなりそうなので、補充をする意味でも依頼を受けるのは丁度良かった。
「ジル様、シキも動向するです?」
話しが聞こえていたのだろう、部屋の中からシキが尋ねてくる。
「いや、そのまま本を読んでいるといい。有益な情報があれば教えてくれ。」
「分かったのです。」
シキは知識の精霊なので当然魔物にも詳しい。
だが詳しいだけで戦闘能力は世界規模で見ても最底辺と言ってもいい。
そもそもシキが自分で何かをする事自体が殆ど無理なのだ。
身体が掌サイズと小さいので、人が日常的に行なっている事も大きさの違いで出来無い。
本を読むのも一ページ捲るのに身体全体を使っている様な状況である。
なのでシキは自由に行動させてジルにとっても役立つ様な知識を蓄えさせるのが、お互いにとって一番良い事となるのだ。
「では行くとするか。」
ミラと共に雑談をしながらギルドに向かう。
聞いた話しによると、ジルにボコボコにされた試験官達は、今後新人に不甲斐ない姿を見せない様に一から鍛え直しているらしい。
ギルドの試験官達も有事の際はセダンの街の貴重な戦力なので、意識改革のきっかけとなったジルにギルドマスターが感謝していたそうだ。
「お、空いているな。」
前に来た時は冒険者で溢れていたギルド内も今は数える程しかいない。
「朝のラッシュ時間は少し前に過ぎましたからね。代わりに残っている依頼も不人気の物ばかりだと思いますけど。」
依頼は早い者勝ちであり、朝から依頼書を巡って冒険者で溢れかえるので、少し時間をズラせば快適に利用出来る。
その代わりに残っている依頼は報酬が少なかったり面倒な依頼だったりと冒険者に不人気な物が自然と残る形になる。
「中でも報酬が多いお勧めの依頼はあるか?」
どうせ依頼を受けるのならば、稼ぎの良い依頼を受けたいと思う者は多いだろう。
異世界通販はどれだけお金があっても足りなそうだとシキと話していたので幾らでも稼ぎたいのだ。
「うーん、そうですねー。これなんて如何ですか?」
依頼ボードに残っている依頼書を見て、ミラが一つを剥がして渡してくる。
依頼書にはゴブリンの討伐依頼と書かれていた。
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