4章

元魔王様と初めての依頼 1

 シキと真契約を結んだ事により、自分で積極的に情報収集をする必要が無くなったジルは、神に貰った新しいスキルを試す事にした。


「シキよ、これからお前の知識欲求を満たすスキルを見せてやろう。」


「スキルなのです?シキが知らないスキルは殆ど無いと思うのです?」


 知識の探求者として地上で長い間生活してきたシキは、数多あるスキルの情報も網羅している。

それこそ知らないスキルなんてあるのかと言った程だ。


「これは神によって作られた新しいスキルだからな。地上には存在していないスキルだ。」


 創造神と時空神によって新たに作られたスキルは、この世界では唯一無二のものだ。

故に知識の精霊と言えども、存在していなかったスキルについては知っている筈が無い。


「なんと!?是非見せてほしいのです!」


 予想通りの食い付きを見せるシキ。

ジルは目の前で異世界通販のスキルを使用してみると、目の前の空中に文字が浮かび上がる。


「これが異世界通販のスキルなのです!?欲しい物の名前を書いて下さいって書いてあるのです。」


 シキの言う通り浮かび上がった文字の下には、名前検索と書かれた空欄がある。

欲しい物がある場合この空欄に名前を書く事で、名前に則った品、類似品、関連品が表示されるらしい。


 その脇には所持金と書かれた欄もあり、手持ち、スキル内、魔法内にある全ての金銭の合計額が書かれていた。


 試しに剣と入力してみると、とんでもない量の品名、値段、見た目が表示された。

この世界の剣に該当する物も当然あり、異世界の剣や本当に剣なのかと疑ってしまう見た目の物や剣の姿をした魔物まで表示されている。


「ほああああ、凄いのです凄いのです!見た事の無い物が沢山なのです!」


 シキは知らない物事に対する興味や食い付きが尋常では無い。

故にこの世界で見る事が出来無い物が大量に表示されている現状に大興奮である。


「確かにこれは凄いスキルだな。退屈する暇は無さそうだ。」


「ジル様、何か買ってみてほしいのです!」


 シキは興奮しながらお願いする。

スキルの効果を見てみたいと言う気持ちもあるのだろう。


「ふむ、そうだな。お!これは昔召喚者から話し聞いた事のある武器ではないか?」


 人族によって召喚された者で、魔王軍に寝返った者はそれなりにいた。

明らかに敵う筈が無い力を待つ魔王に恐れをなしたり、人族に聞かされていた印象と全く違う魔王に尊敬を抱いたりと理由は様々だ。


 理由はどうあれ味方となった異世界の者達に故郷の事を聞く機会があり、その時に何度か聞いた事がある名前の武器を見つけた。

その武器の名前は刀である。


 購入と言う項目を押すと、無限倉庫にある所持金が値段分引かれて目の前が光り輝き出す。

そして光りが収まると、スキルで表示されていた見た目と変わらない刀が現れた。


「本当に買えたな。これが異国の武器か。」


 鞘から抜いた刀身は、美しい銀色であり刀特有の少し反りのある形状をしている。

この世界にも似た形状の武器で言えばシミターが存在するが、異国の武器は完成度も素晴らしく目でも楽しめる高級感がある。


「正しく神のスキルなのです!シキも何か買いたいのです!」


 異世界通販のスキルを目の当たりにしたシキが興奮した様に言う。

やはり新しい物に目がないのは昔から変わらない様だ。


「金は幾らかあるしな。スキルで色々買ってみるとするか。」


 真契約を結ぶとスキルへの干渉が可能となる。

なのでシキにもジルのスキルが使える様になるのだ。

だが干渉出来るスキルは数個程度なので、便利な異世界通販と無限倉庫にしておいた。


 それから二人は異世界通販のスキルで買い物を楽しんだ。

主に購入したのは異世界の本である。

知識の探求者であるシキは、異世界の知識をも求める程だったのだ。


 ジルもこの世界には存在しない娯楽や情報が書かれている本には興味があった。

翻訳機能のある魔法道具を使って、異世界の物を二人で存分に楽しんでいると、あっという間に数日が経過した。


 まだまだ金はあるので今日も今日とてシキと一緒に買い物や読書を楽しんでいると、部屋のドアが激しくノックされる。


「ジルさん、起きてますよね?隠れても無駄です。大人しく出てきて下さい。」


 ノックと共にドアの外から声が掛けられる。

まるで逃げ隠れているかの様な言われ方だ。


「ジル様を呼んでいるのです。何かしたのです?」


「身に覚えは無いんだがな。」


 ジルは何故そんな事を言われているのか確認する為にも扉を開ける。


「なんだミラではないか。何か用か?」


 扉の向こうには受付嬢の格好をしたミラが立っていた。

時間帯的に今はギルドで仕事中の筈だ。


「何か用かじゃないですよ!ジルさん、何で依頼を受けに来ないんですか?」


 ミラは身を乗り出す様に前屈みになって開口一番そう言ってくるのだった。

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