元魔王様と小さな精霊 5

「魔族側から何かしたのか?」


 未知の種族とは言え、魔王時代に仕えてくれた配下達が積極的に何かするとは思えないが、新しい魔王軍については分からない。


「最初に行動したのは天使族なのです。魔族を殲滅すると世界に宣言していたのです。」


 シキは仮契約で世界を転々としていたので、ずっとこの世界に留まっていた様だ。

なので天使族の宣言も実際に自分で見聞きしたのだろう。


 その宣言が出された後に、召喚された天使族は魔族を殲滅する戦力を整える為に、異世界の仲間達を自ら召喚して呼び寄せたらしい。

そして一つの人族の国を拠点として活動しているとの事だ。


「敵視してるのは魔族だけなのか?」


 この世界には様々な種族が存在している。

魔族だけが狙われる理由が分からない。


「魔物に近しい見た目であり、人族の敵である魔族が一般的なのです。他種族も亜人と呼んで敵意を向けてくる天使もいるのです。」


 天使族も人族同様の理由で魔族と敵対した様だ。

それか人族にそう言った話しをされて同調しているかである。


 この世界には耳が長いエルフ族、巨大な体躯を持つ巨人族、額に角を生やした鬼人族等の見た目で人族との違いがある種族が多数いる。

そう言った者達も魔族程では無いが、多少敵視されている様だ。


「成る程、天使族については分かった。だが一先ずは様子見だな。今の我は人族でもあるし。」


 転生して魔族から人族へと種族が変わったので、元同族とは言え人族への印象が悪い魔族に自ら接触しても、良い成果が得られるとは限らない。


「確かにジル様が今の魔王軍に関わっても、聞く耳を持つかも分からないのです。」


 魔王時代の配下達ならば話しも通じるかもしれないが、既に魔王ジークルードはこの世界から一度消えた存在。

もう魔王では無いので、自分の存在が配下達の行動を縛る原因になる事は避けたかった。


「一応天使族の動向は気に掛けておくとしよう。」


「シキも気を付けるのです。」


 魔族が助けを求めてきたり、自分が天使族に狙われたりしてから考えても遅くは無いと言う事にして話しを終えた。


「さて、随分話しが逸れたが本題に入ろう。」


 シキを召喚してから色々話しを聞いたが、本来の目的では無い。


「本題なのです?」


「シキを召喚した目的だ。我と真契約を結んでほしくてな。だが仮とは言え契約中だ、無理にとは言わない。」


 ジルはこれからの暮らしを考えてシキと契約を結びたいと思っていた。

だが配下の魔族達同様に自分の2度目の人生に無理に付き合わせるつもりは無いので、あくまでもシキの意見を尊重するつもりだ。


「何を言うのです、当然契約させてほしいのです!少し待っててほしいのです!」


 シキは嬉しそうに早口で言うと、一瞬で姿を消した。

これはシキの持つスキルの一つ、座標移動のスキルである。


 このスキルは登録した三つの座標間を瞬時に移動する事が出来ると言う転移能力であり、仮契約中の主人の下へ行ったのだろう。


「お待たせしましたのです。話しは付けてきたのです。」


 数分と待たずにシキが戻ってきて手の甲を見せる。

すると先程まであった仮契約の紋章が綺麗に無くなっていた。


「随分と早いが大丈夫なのか?我としては助かるが。」


 契約していた元主人がそんな簡単に了承したのか疑問だった。

シキの能力を知っているならば、手元に置いておきたいと普通は考えるだろう。


「元々仮契約は直ぐに主を変えられる為の精霊側に有利な契約なので問題無いのです。シキの目的も同じ場所に居続けても意味無いのです。」


 そう言われればそうなのだろう。

精霊とて言いなりになる為に契約をしている訳では無い。

自分の目的を果たせる契約主を探し、代わりに精霊の力を貸しているに過ぎないのだ。


「と言う事は昔と変わっていないか。知識の探求をいつまでも続けているとは、さすがは知識の精霊だな。」


 ジルが言った通り、シキは上位精霊である知識の精霊であった。

様々な知識を求めて世界を移動する知識の探求者である。


 そしてシキには今まで見聞きした記憶を全て完全に覚えている事が出来る、スキルとは違う精霊としての力が備わっていた。


 なのでシキが近くにいてくれれば過去の膨大な知識の入手と、これから得る情報全ての記憶が可能になり、ジルとしてはとても助かる存在なのだ。


「シキの存在意義なのです。そしてジル様と行動を共にすれば、シキの目的も存分に満たせるのは確定なのです。」


 魔王ジークルードはあらゆる分野で規格外な存在だった。

それは長い寿命を持つ精霊から見てもである。


 こんな規格外の存在を見たのは、生きてきた長い時間の中で初めての事だったので簡単に惹かれた。

魔王ジークルードと行動した時間全てが未知の知識に溢れており、シキにとって有意義な時間だった。


 故に人族に転生して弱体化したとは言え、シキにとって未知の知識に溢れているジルと行動しない選択肢はあり得ないのだ。


「それは良かった。暫く退屈は与えないから、我の為に存分に知識を役立ててもらうぞ。」


 新たな知識を得られるスキルは神に授かったので、シキも満足する事は間違い無い。

シキの能力も自由気ままな生活を送るには欠かせないので、お互いに相互利益があるのだ。


「お任せなのです。ジル様との久々の生活を考えると今からワクワクが止まらないのです。これからもシキを宜しくなのです。」


 シキが小さな手を二つ差し出すので、ジルが指を一つ差し出すと嬉しそうに握って握手みたいな事をしていた。


 その後に真契約を結び、お互いの手の甲に契約の証である紋章が刻まれ、ジルとシキは昔の関係に戻ったのだった。

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