元魔王様と小さな精霊 2
ジルが描き出した魔法陣は、これから行う召喚魔法に使う為のものである。
「奴ならば我が知りたい情報を持っている筈。そして奴が望めばこれからの生活にも役立ってくれるだろう。」
人族に転生したとは言え魔王時代の記憶は引き継いでいる。
なので魔法陣の書き方も召喚魔法のやり方も問題無い。
だが魔王の頃程万能では無くなっているので、宿屋の部屋程度に描ける初級の召喚魔法に応じてくれるかは分からない。
魔力を許容量限界まで注ぎ準備完了である。
「早速試すとするか。我が呼び掛けが届いたならば、召喚に応えろ!」
召喚したい者の事を考えながら、召喚魔法の詠唱をすると魔法陣が眩く輝き出した。
輝きが一際強くなり次第に収まっていくと、魔法陣の中央には小さな何かが召喚されていた。
「?ここは何処なのです?」
ジルによって召喚された小さな小人が、見知らぬ部屋を見回して首を傾げながら呟いた。
その小人は全長10cm程で掌に乗せる事も可能な程小さなサイズだ。
人族の子供をそのまま小さくした様な感じなので、衣服もしっかりと身に付けており、違いと言えば背中にある羽くらいだろう。
「ふむ、精霊の召喚は初級召喚魔法で事足りる様だな。」
ジルが口に出したが、小人の正体は精霊である。
そして目の前に召喚された小人がジルの召喚したかった精霊だった。
「人族の君が召喚したのです?誰なのです?」
精霊はジルを見上げつつ、首を傾げながら言う。
見た目だけで言えば女の子の幼い容姿をしているので、小人の姿と相まって可愛らしさ溢れる仕草である。
「名か?我はジルだ。」
「覚えたのです。シキはシキなのです。」
シキと名乗った精霊が手を挙げながら元気に言う。
お目当ての精霊を召喚出来たので、当然名前くらいは分かっている。
「知っている。それよりもシキよ、既に契約済みだったか。」
シキの小さな手の甲には、小さな紋章が刻まれていた。
精霊が誰かと契約した際に現れる証となる紋章だ。
見覚えは無いが昔精霊と契約した時にも似たような紋章が手の甲に現れていた。
「人族のジル、シキをシキと呼んでいいのは今は亡き真の主人だけなのです!次からは呼んだら駄目なのです!」
シキは名前を呼んだジルに向かって抗議する様に両手を上げて怒っている。
しかし掌サイズの小さなシキに怒られても、恐怖より愛らしさが勝って全く怖くない。
「それと契約に関してなら、これは仮契約なのです。」
シキは自分の手の甲の紋章を指差しながら言う。
「仮契約?」
「精霊との契約には、仮契約と真契約の二つがあるです。」
シキの説明によると以下の通りである。
仮契約は、魔力の受け渡し、生命状態の確認、居場所の確認等が契約主と精霊とで紋章を通じて行えるらしい。
真契約では無いので契約したいと言う意思のある者が召喚魔法を行えば、その者の元へと呼び出されてしまう。
そして真契約は、仮契約の恩恵に加えて、意思疎通、精霊魔法の行使、互いのスキルへの干渉行為等が行えるらしい。
契約の解除方法は、どちらも契約主か精霊が死んだ場合に自動的に解除される。
更に真契約はお互いの同意の上であれば解除出来るが、仮契約ならば精霊側が一方的に解除する事も可能らしい。
精霊との契約は魔王時代に経験済みだが、仮契約や真契約については知らなかったので、シキのおかげで改めて確認する事が出来た。
「つまり真契約をする為なら、仮契約は反故に出来ると。」
ジルはシキが望んでくれれば契約する目的で召喚を行った。
知らなかった事だが真契約の方である。
なので誰との契約かは分からないが、シキが望むなら解除した後に真契約を結んでほしいのだ。
「その通りなのです。ですが真契約を今後するつもりは無いのです。」
シキは手の甲を見ながら言う。
今描かれている紋章では無く、真契約の紋章を思い出しているのだ。
「理由は何だ?」
「先程も言った亡き主人なのです。シキの主人は精霊生であの方一人だけなのです。あの方以外と真契約を結ぶつもりは無いのです。」
シキは覚悟を決めた様な顔で言い切る。
精霊の人生、精霊生と言っているがそれは相当長い時間である。
この世界には長命な種族が多数存在しているが、それらを上回る程の超長命種が精霊である。
精霊が生きる中で真契約を複数回する事は珍しく無いので、精霊としてシキは中々に変わっている。
「その主人の名は?」
「ふっふっふ、聞いて驚くがいいです。なんとシキの主人は、あの魔王ジークルード様なのです!」
シキは自分の事の様に鼻高々に名前を告げる。
人族の歴史で極悪な存在として知られている魔王ジークルード、つまりはジルの前世であった。
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